ヒュームの論考の内容は文句なく素晴らしい。特に経済論は是非読んでください。
"Political Discourses"の訳は高価な名古屋大出版を除き三種あるが、この小松茂夫訳をお勧めします。
岩波文庫「市民の国について」上下小松茂夫訳1982 26篇
御茶ノ水書房「ヒューム政治経済論集」田中敏弘訳 1983 16篇
京都大学出版「政治論集」田中秀夫 2010
16篇
収録論文は御茶ノ水版と京大出版は全く同じ、岩波はプラス10本。
何れも訳注は殆どなし。
索引は岩波が一番多く、御茶ノ水版は索引がない。
小松訳は30年寝かせただけあって大変精緻。京大版は新しいが思い付きで翻訳し横から縦に変換しただけみたいな感じ。京都大学学術出版はこの手のが多い。
京大版は"industry"を機械的に「勤労」と訳しているため、「利子について」などでは意味不明な訳文がかなりある。岩波は「生産活動」「生産活動を重んずる生活態度」と正しく訳し分けている。
京大版はより新しいミラー版、ホーコンセン版を参照できたというが、「公信用について」で「大胆な財政立案家(projector)」として、名前は明らかにせずにジョン・ローのフランス国債返済計画とその後の公信用の崩壊を揶揄(「医者がもとで死亡する」)しているのに、それをマザラン時代(1643〜61)と誤解して説明しているのはホーコンセンの誤りを踏襲。岩波版はここでいうフランス公信用の崩壊が1720年、オルレアン公フィリップの摂政時代であることを正しく示している。(参考「ジョン・ローの貨幣理論」古川顕 甲南経済学論集 2015)
なお御茶ノ水版は何も説明なし。
訳文例
「利子について」
小松訳
「商品流通は生産活動を重んずる生活態度(industry)を国中に広めます。というのは、商品流通はそうした生活態度をその国の成員につぎつぎとたやすく伝達してゆくことができ、その国のいかなる成員にも生ける屍となること(perish)を、あるいは、無用の存在と化すことを許さぬからです。」
御茶ノ水
「商業は、勤労を国家のある成員から他の成員にすみやかに運ぶことにより、また勤労が消滅したり無用になることを少しも許さないことによって、それを増大する。」
京大
「商業は勤労を増加させるが、それは国家のある成員から他の成員に勤労を速やかに運ぶことによって、また勤労が消滅するか無駄になるのを容認しないことによってである。」
小松訳は達意の名訳、原文よりわかりやすく趣旨を伝える素晴らしさ、これぞ「翻訳」と呼ぶべきもの。御茶ノ水は"it"の対象を取り違えている上に機械的で、京大版はその誤りを踏襲し、なおかつただ英単語を日本語に置き換えればいいんでしょ、という感じ。
Commerce encreases industry,by conveying it readily from one member of the state to another,and allowing none of it to perish or become useless.
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