大人になる過程で私はどれだけのものをつかみとってきたのだろう。そして、どれだけのものを私は置き去りにしてきたのだろう。きりきりと胸を締めつけられながら、この本を読んだ。
冒頭の一文が目を射る。「終わるとは思えない夏だった。」過ぎてしまった時を思えば、私にもそんな季節があったのだ。
物語は、ドイツの緑滴るある夏。五月一日から七月一日までの二ヶ月間を、花が咲き誇り、風が光り、木々が緑濃く移ろってゆくさまを背景に、ひとりの少女と少年の心の軌跡を描いている。光溢れる季節のなかで、二人は、愛する人に襲いかかる病と対峙する。「死」という言葉と否応なく向き合わねばならないのだ。それは子供たちにとって恐怖以外のなにものでもない。
口さがない大人の噂、不躾にそれを喧伝する友だち。美しい風景の描写が、少女の心の波立ちをいっそう際だたせている。恐怖も怒りも母親への煩悶も、壊れそうにみえる友情も、素直になれないもどかしさもいっしょくたに彼女を呑みこみ、そのさまがいとおしく胸をかきむしられるようだ。
神様に祈ることより自分の信じるやり方で愛する人の「死」の恐怖と向き合おうとする少年も、大人への扉を、知らず開けた。銀色に輝く川かますに託した思いの切実さは、いじらしく切なかった。
容赦ない時のなかで、出会い、別れ、心に刻む出来事とともに人は大人になっていく。ラスト1行は、少女が現実をしっかりととらえた証だ。そしてそれは、生きてゆくことのなかに潜むひとつの真実であるからこそ、こんなにも私の心をゆさぶるのだ。
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