チェコの詩人・小説家ネズヴァルの1945年の作品(書かれたのは1935年頃)。作品も作家も本邦初訳のようである。
税込みで約3000円というなかなかのお値段の本で、1回で終わるのはもったいないので、3回読んだ。すらすら読める本だが、1回目ではわかりにくかった箇所もあり、3回読むと、おおむね疑問は解決した。
内容は、祖母と二人暮らしの17歳の少女(??)ヴァレリエが、満月の夜に寝覚めると、アンバランス・ゾーンに落ちているという話である。そこでは、人も、家も、事物もしばしば変貌し、変幻自在の悪党イタチと、若返ってイタチの情婦になった祖母が、ヴァレリエを苦しめる。ヴァレリエは好奇心と因果に導かれ、何度も罠に落ちでしまい、レイプ、吸血、監禁、早埋葬、残酷手術、火刑等の危機に立たされるが、双子の兄弟オルリークの助けを得て、一週間後には・・・・。
序文に、作者本人がゴシック小説と書いており、ゴシック小説の範囲に入る作品なのだろうが、重厚感、荘重感はない。文章は、会話文が多く、しばしば、会話だけが延々と続く。よく言えば軽快、悪く言えば軽い。しかし、登場人物も少なく、期間は短く(一週間)、場所も限られているのに(自宅と街)、話を上手に繋いで、読者を前に前に引っ張っていくところは巧みである。
12章から25章まで(全体の三分の一)は、ヴァレリエを襲う二度のレイプ危機、ヴァレリエによる友人花嫁の初夜の目撃、イタチと祖母のセックス目撃というエロティックな内容が興味の中心になっており、たいへん面白い。しかし、全く扇情的ではなく、性的興奮度は低い。
全体として、書かれている内容にもかかわらず(それとも、書かれている内容ゆえ??)、ちょっと幼い感があるように思う。ルイス「マンク」や、ポー「アッシャー家の没落」との共通感は乏しい。似ているとしたら、「アリス」だろう。私は尾崎翠のいくつかの作品を思い浮かべてしまった。
最後に
作者及びオルリークが、ヴァレリエを危機から脱出させる方法は秀逸であった。
訳文について
●同一人物を同じ場面で異なる名詞で書き分けるのは読者を混乱させる(原文がそうなっているのかもしれないが)。たとえば、12章では、同じ場面で、一人の人物に「修道僧」「聖職者」「宣教師」「司祭」「神父」という五通りの語がつかわれている。15章の「地主」「主人」「花婿」「守銭奴」も同一人物である。
●150頁15行目は「自分の血」ではなく、「雌鶏の血」ではないだろうか?
結論
面白かった。
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