本書のキモは2つ。組織のトップに立つ者の物事の進め方の要点とその実績、そして大阪都構想の狙いだ。
一つ目のトップの在り方だが、橋下氏の政策実現のためのポイントは2つ。一つ目は自身の政策に反対する者の意見を徹底的に聞く、そのうえで最後は自分が決断し従ってもらい、責任は自分が取るという姿勢だ。
もうひとつは、政策を実現するには構想となるイメージの「ビジョン」と、組織が担う現実の「実行プラン」の両方が不可欠、ということだ。
大阪都構想について言えば、その考え方の基本に始まり、前回の住民投票までどのように戦略を実行してきたかが時系列で分かるように解説されていて、改めて理解が深まった。
個人的には、二重行政は無駄も多いし、国家としても都市機能が過度に東京に一極集中するのは地震などの災害リスクなどを踏まえると望ましいとは思えないので、大阪にもさらなる経済的な発展をして欲しいと思う。
また、今春の大阪の市長、市議選、知事選などで維新の会が躍進し、これまで反対していた公明党が態度を変化させ、都構想の実現に向けた住民投票の機運が高まったこの時期に本書が出版されたことの意味も大きいだろう。
橋下氏によれば、本人が知事、市長だった頃に比べて、内向きだった役人の意識改革が急激に進んでおり、彼ら地方公務員の前向きな仕事ぶりが住民に評価されれば、本書もその流れに一役買って住民投票も可決するような気はする。あくまで外野の見方だが。
政策実現の手法については、「理想」と「現実」の調和というか整合性を取るという意味でも効果が大きいと思う。
トップのイメージだけで実現性を考慮しない政策にはあまり意味はないだろうし、役人が考える政策では既存の枠組みから外れるような画期的なアイディアは生まれないからだ。
この点から橋下氏は、コンサルタントの大前研一氏を「物事を実行するプロセスをわかっていない」(p243)と酷評している。
この指摘は十分に理解できるのだが、そもそも全国各地の役所がコンサルタントに意見を聞く時点で、内部からは出てこない発想による提言を期待しているはずであり、その意味では、行政実務の経験のないコンサルの提言に実現性への配慮が足りないのは当たり前の話。
役所はこの前提のもとにコンサルから出てきたアイディアは取捨選択して、政策立案の「材料のひとつ」にする程度の位置づけで良いのではないだろうか。
発言が何かと注目を集め、意見の相違がケンカのように受け止められることも多い著者だが、本人曰く「自分から喧嘩を仕掛けたことは一度もない」(p21)そうだ。
本人が誤解を受けているとすれば、おそらく正しいと思うことを包み隠さず話し、情報は基本的にすべてオープン、信頼関係の根底には「宴会や飲み会ではなく、仕事をやりとげたという共感」、という振る舞いが、既存の政治家とは大きくスタンスが異なることに違和感を感じる人が多いためだろう。
政治家は、有権者への人気取りよりも、政策の実現という観点で評価されるべきという著者の考え方とその実行力は、「正論だけど現実には・・・」という反応をしがちな少なくない政治家には耳の痛い内容だと思う。
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