実に長い記録である。477頁。今日一日がつぶれてしまった。それだけ読ませる中味だったと言いたい。
イーホームズの社長である著者は、耐震偽装問題を知った当初より、「制度上の問題を明らかにして、国主導で解決する方向」を目指した。もう少し詳しく言うと、「改ざんできるレベルのプログラムおよび業務方法書を国土交通大臣が認定したという事実」に問題の核心があり、また、「認定プログラムの問題だけでなく、・・・国交省が所轄する関連法規にも関係する」ため、「国交省が制度上の責任を自覚する」ことが肝要だという基本的な考えのもと、すべての戦略・戦術を組み立てた。その間、イーホームズには到底及びもつかないさまざまな動きに翻弄されながらも、著者の方針は最後まで全く変わることがなかった。
この正義感、自らの正当性の主張、事実解明に向けての実直な対応こそが、イーホームズの解散と社長の逮捕という結末を導き、そのゴールに向かってひたすら走り続けた半年間の記録が本書であると感じるのは私だけだろうか。
私は著者を批判しているわけではない。これらの事実を白日のもとに晒す勇気と、最後まで国との戦いを貫いた強い意志に、むしろ尊敬の念を抱く。
一方、本書を真剣に読むにつけ著者はストレートに過ぎた感を覚える。例えば、緊急調査委員会の席上で、「十一月十七日の佐藤事務次官の発言は、事実を知らずに間違った発言をしたものだと指摘」し、事務次官を不快にし会議を中座させたり、(耐震偽造問題におけるイーホームズ担当の国交省)高木企画係長に、「(国交省は単純な偽装パターンを)一目でわかるのではないですか、なぜあなたは発見できなかったのですか、じつはなにもわかっていないのでしょ」と問いつめたりする。
イーホームズの内部監査室長で著者と一緒に戦ってきた田口がやめる前に最後に口にした言葉が、「ただ、忠告をひとつ言います。東大法学部の力をなめてはいけません」だった。役所は自らの非を認め責任が及ぶことのないよう、ありとあらゆる知恵を使って、イーホームズをスケープゴートにして事態の収拾を図ろうとする。もちろん著者の立場から見た、あるいは推測した世界に過ぎないのだが、概ね的を得ているように思わせる。
言葉は適切ではないかもしれないが、著者ははじめから「パンドラの箱」を開けてしまったように思う。著者も途中で以下のように述懐している。「もし、僕が間違っていたとしたら、・・・官僚の“善意”を信じたことだと思う。さらに原因を求めるなら、最大の客観的事実として、数百万棟におよぶ可能性のある、偽装物件の数が多すぎた、ということに尽きるだろう」と。
本書は、1日かけて読ませるだけの客観的事実と、小説よりも奇と思える事実、また社員を含めたあらゆる人物との交流が詰まったノンフィクション作品であり、私は本書から多くを学ばせてもらった。
完全版 月に響く笛 耐震偽装 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2007/4/25
藤田 東吾
(著)
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本の長さ486ページ
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言語日本語
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出版社講談社
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発売日2007/4/25
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ISBN-104062140756
-
ISBN-13978-4062140751
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
国家権力による偽装か隠蔽か!アパ問題露見前の記述ゆえに発売されず自費出版でベストセラーとなった問題作!!ヒューザー、アパグループは氷山の一角!200万棟の偽装を許したのは誰だ。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
藤田/東吾
1961年に生まれる。イーホームズ社長。明治学院大学法学部在学中に、雑誌「ポパイ」(マガジンハウス)でエディターアシスタントを務める。大学卒業後、財団法人流通経済研究所でマーケティングリサーチの研究生となり、以後複数の事業の起業と運営に参画。フリージアホームなどを経て、1997年(平成9年)に独立。イーホームズ株式会社を創業。唯一の完全独立国土交通大臣指定機関として、同社には業界最高峰の技術スタッフが集結する。2005年(平成17年)に、偽装されたマンションの構造計算書を発見し、公表する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1961年に生まれる。イーホームズ社長。明治学院大学法学部在学中に、雑誌「ポパイ」(マガジンハウス)でエディターアシスタントを務める。大学卒業後、財団法人流通経済研究所でマーケティングリサーチの研究生となり、以後複数の事業の起業と運営に参画。フリージアホームなどを経て、1997年(平成9年)に独立。イーホームズ株式会社を創業。唯一の完全独立国土交通大臣指定機関として、同社には業界最高峰の技術スタッフが集結する。2005年(平成17年)に、偽装されたマンションの構造計算書を発見し、公表する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2007/4/25)
- 発売日 : 2007/4/25
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 486ページ
- ISBN-10 : 4062140756
- ISBN-13 : 978-4062140751
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 677,807位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 1,037位事件一般関連書籍
- - 28,433位社会学概論
- - 36,889位アート・建築・デザイン (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年2月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本は読みやすくは無い。時系列的に順序だっていないし、著者の回想が随所にあらわれる。しかし、それにもかかわらず圧倒的な迫力があるのは、著者の万感の想いが熱く、さらに具体的な資料(主に当時のメール)が詰まっているからだ。
耐震偽装の通報をアトラス設計の渡辺氏から受けて、藤田氏が社長を務めるイーホームズが調査した結果、耐震偽装を次々と発見して国土交通省に通報する。ところが国土交通省のとった態度は驚くべきもので、「通報」を「見逃した」とすりかえイーホームズに責任をかぶせ耐震偽装を姉歯物件に限定して国土交通省の責任を隠蔽することだった。国土交通省の情報操作に踊らされてマスコミはイーホームズを非難し、便乗した抗議メールが殺到する。藤田氏はイーホームズ以外の検査機関でも見逃した耐震偽装があることを訴え、さらには政治家の力も借りようとするが、アパグループ物件の耐震偽装も告発するにいたり、国土交通省に検査機関の指定を取り消され、さらに国策捜査の別件逮捕で拘留されるにいたる。
本書には、刀折れ矢尽きて、手塩にかけて育てたイーホームズが官僚と政治家の隠ぺい工作で潰された無念さがこもっている。耐震偽装のために、姉歯建築士の妻も森田設計事務所社長も自殺した。しかし(本書の内容の後になるが)隠蔽に成功した佐藤信秋事務次官は退官して夏の参院選の自民党からの比例候補となり、山本繁太郎住宅局長は国土交通審議官に昇進してしまった。まさにピカレスク・ロマン(悪漢小説)の作家も青ざめる、あざとい展開である。国家の品格は地に堕ち、美しい国日本は遠くなった感がある。
官庁との付き合いが多い人には特にお勧めしたい。
耐震偽装の通報をアトラス設計の渡辺氏から受けて、藤田氏が社長を務めるイーホームズが調査した結果、耐震偽装を次々と発見して国土交通省に通報する。ところが国土交通省のとった態度は驚くべきもので、「通報」を「見逃した」とすりかえイーホームズに責任をかぶせ耐震偽装を姉歯物件に限定して国土交通省の責任を隠蔽することだった。国土交通省の情報操作に踊らされてマスコミはイーホームズを非難し、便乗した抗議メールが殺到する。藤田氏はイーホームズ以外の検査機関でも見逃した耐震偽装があることを訴え、さらには政治家の力も借りようとするが、アパグループ物件の耐震偽装も告発するにいたり、国土交通省に検査機関の指定を取り消され、さらに国策捜査の別件逮捕で拘留されるにいたる。
本書には、刀折れ矢尽きて、手塩にかけて育てたイーホームズが官僚と政治家の隠ぺい工作で潰された無念さがこもっている。耐震偽装のために、姉歯建築士の妻も森田設計事務所社長も自殺した。しかし(本書の内容の後になるが)隠蔽に成功した佐藤信秋事務次官は退官して夏の参院選の自民党からの比例候補となり、山本繁太郎住宅局長は国土交通審議官に昇進してしまった。まさにピカレスク・ロマン(悪漢小説)の作家も青ざめる、あざとい展開である。国家の品格は地に堕ち、美しい国日本は遠くなった感がある。
官庁との付き合いが多い人には特にお勧めしたい。
2009年8月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
耐震強度偽装事件に際し、確認検査機関の指定を取り消されたイーホームズの社長であった藤田東吾氏は「きっこの日記」上に耐震偽装事件に関する告発メッセージを掲載した。例えば2006年10月20日付の「安倍総理殿、国家に巣食う者を弾劾致します」である。
告発メッセージには「転載自由」「どんどん転載して下さい」との文言を付したため、多くのブロガーが自己のブログに転載した。これによって告発内容は瞬く間に広まった。ここではWeb 2.0の要素技術を利用していないが、紛れもなくWeb 2.0的な発想がある。藤田氏は自ら告発サイトを開設することなく、インターネット上で告発情報を広めることに成功した。
告発メッセージには「転載自由」「どんどん転載して下さい」との文言を付したため、多くのブロガーが自己のブログに転載した。これによって告発内容は瞬く間に広まった。ここではWeb 2.0の要素技術を利用していないが、紛れもなくWeb 2.0的な発想がある。藤田氏は自ら告発サイトを開設することなく、インターネット上で告発情報を広めることに成功した。
2007年1月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常に感銘を受けました。まずこの本を、文芸春秋社が出版を突然中止した事。いったい文芸春秋社にどんな圧力が働いたのでしょうか。また、嘘を突き通したことで、却って出世した高級官僚が実名で出ています。さらに、藤田氏の勇気ある告発を、報道しようとしないマスコミ。建設業界から広告を引き上げられることを怖れているのでしょうか。あるいは、別の圧力に怯えて、筆を折っているのでしょうか。1月にはアパグループの耐震偽装がニュースになりましたが、これは藤田氏がかねてから指摘していたものだそうです。マスコミは藤田氏を無視し続けましたが、京都市が踏み込んだことで、責任を役所に負ってもらえることから、卑怯にもその後に正義面で報道しました。腰抜けの出版社、嘘つきの高級官僚、いくじのないマスコミ、そして不正ばかりの建築業界。日本はまるで清朝末期の中国のように腐敗しています。少しでも藤田氏を応援するつもりで、何人もの友人にこの本を紹介しました。
2010年8月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
もしあの時に藤田東吾氏が本当の勇気をもって耐震偽装について告発しなかったなら、と考えると空恐ろしくなります。ヒューザー、姉歯建築士、木村建設が仕組んだ偽装は実態が明らかになり、次いでアパグループのマンションやホテルにも不安が広がったのにもかかわらず、アパから自民党(小泉首相)への多額の政治献金の故か追及はあっという間に沈静化し、マスコミも報道を極端に少なくしたことはいかにも不自然でありました。藤田氏は当初文芸春秋社から本を出版する予定であったものが、どこからかの横槍でできなくなってしまい、そして、出資法違反などという訳の分からない理由で藤田氏は逮捕され、会社は清算させられてそれこそ「臭い物にフタ」をされて葬り去られてしまったのでした。しかし、藤田氏の勇気はその後の建築基準法改正につながり一応の歯止めになったことは間違いありません。
講談社がことの真意を見極めて氏の本を出版したことは大いに讃えられるべきであると思います。
都心では1923年の関東大震災以来87年もの間大地震が起きていなくて、歴史を見れば60〜80年毎に大地震が繰り返されてきていることから、今度いつ大地震がきてもおかしくない状況であることは専門家のみならず衆知のことです。本来、行政は法律を改正するだけに止まらず、少しでも不安がある建物について構造の見直しをするぐらいは行ってもよい筈であるが、全く行おうともしていません。もし、そんなことをする人員が足りないというのなら外部に委託して対応すればよいだけのことです。
大地震がきて建物が崩壊したときに、もとの構造設計が偽装されていたからではなく、地震のせいにすればばれなくて済むと考えたデベロッパーはまさしく犯罪です。藤田氏の勇気に報いるためにも少しでも不安のある建物の構造設計のフォローをすることが肝要であり、安心につながるものと考えます。
講談社がことの真意を見極めて氏の本を出版したことは大いに讃えられるべきであると思います。
都心では1923年の関東大震災以来87年もの間大地震が起きていなくて、歴史を見れば60〜80年毎に大地震が繰り返されてきていることから、今度いつ大地震がきてもおかしくない状況であることは専門家のみならず衆知のことです。本来、行政は法律を改正するだけに止まらず、少しでも不安がある建物について構造の見直しをするぐらいは行ってもよい筈であるが、全く行おうともしていません。もし、そんなことをする人員が足りないというのなら外部に委託して対応すればよいだけのことです。
大地震がきて建物が崩壊したときに、もとの構造設計が偽装されていたからではなく、地震のせいにすればばれなくて済むと考えたデベロッパーはまさしく犯罪です。藤田氏の勇気に報いるためにも少しでも不安のある建物の構造設計のフォローをすることが肝要であり、安心につながるものと考えます。
2007年7月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
長い本なので、まだ読み終えていませんが、これだけの内容を出版して、誰からも民事で告発されていないのがすごいと思います。あれだけの家宅捜索をしておきながら、
出資法等と言う微罪でしか国が身柄を確保出来なかったという事で、確認検査会社の中では、藤田氏は一番まともな経営をして来たのだという事も分かります。最大手の
日本ERIは住宅メーカーの社員に検査印を預け、自由に押させてたのに、軽微な処分のみで、潰されませんでした。マスコミが書かない様々な事の一部、片鱗が見えそうな本です。
出資法等と言う微罪でしか国が身柄を確保出来なかったという事で、確認検査会社の中では、藤田氏は一番まともな経営をして来たのだという事も分かります。最大手の
日本ERIは住宅メーカーの社員に検査印を預け、自由に押させてたのに、軽微な処分のみで、潰されませんでした。マスコミが書かない様々な事の一部、片鱗が見えそうな本です。