2011年3月11日
東北地方を中心に大きな被害をだした東北地方太平洋沖地震。
私を含め多くの人は、報道で流される津波の映像を観て、その被害の大枠は承知していたのかもしれません。
でも報道されることもなく、通信が途絶え、避難命令の出たその町は、緊急援助隊の応援を受けることすらできなかった。
そんな職員わずか125名の小さな消防本部、双葉消防の苦難を後世に伝える数少ない本だと思います。
福島県双葉消防は福島第1原発を管轄する消防本部です。
福島県、東電などと定期訓練は欠かさず行っていて、放射線については他の消防本部の人間よりもはるかに多くの知識を持ち合わせ、有事の際には第一線で対応にあたるべき消防人たちです。
若い隊員が訓練の際、質問を投げかけると「事故はないから大丈夫」と軽くかわされたと書かれています。
当時、東電は『想定外』を口にしていましたが、若い隊員が疑問に思うようなことも想定していなかったのだろうかと、もし想定をしていなかったとしたら、東電は想定外などと口にすべきではなかったと、そんな思いで読み進めていきました。
そしてその日がやってきて、彼らは地震、津波、放射線の恐怖の中、正に不眠不休で見えない敵と戦ってきました。
そもそも原子炉の冷却放水などは消防の任務にはなく、被曝を考えれば、なにより消防力を考えれば、対応不能であったが、彼らはやるしかなかった。
彼らは自らを特攻隊と重ね合わせ、「特攻隊とはこんな気持ちだったのか」と!
原子炉の放水はのちに東京消防庁が国からの命を受け、臨場し衆目を集めることになりましたが、そこに至るまでの彼らの存在はどこからも報じられていませんでした。
最盛期から数日経ち、なんとか仮眠をとることができても、横になると家族の安否や自身の被爆など、様々な不安が頭をよぎり、むしろ活動していた方が不安を抱えなくて済むと感じるほど、精神的にも追い詰められている様は生々しくて熱くこみ上げてくるものを感じました。
彼らの存在を知らなかった訳ではなかったと思います。でもその存在は今日まで知らされることはなく、現実には想像を絶する世界がこの本には記されています。
そんな双葉消防の活動は報道もされず、情報通信も途絶えた彼らの苦悩を当時知るものは殆ど居なかったのではないでしょうか!
そして彼らは自衛隊や東京消防庁などが活躍する報道を目の当たりにしたとき、自分たちの存在がそこにないことに落胆したと、素直な心情が吐露されています。
あれから9年が経ち、当時の職員の半数は離職したようですが、今も彼らは自分たちの街を守り続けています。
彼らは勇敢だったのでしょうか?
逃げ出したかったし恐怖に襲われたりもした。
事実、休暇を取れるようになり、避難している家族のもとを訪れた若い職員は、しばらく戻らなかったことも真実として記されています。
また、避難家族のもとを訪れた際には、被爆に対する差別的な扱いも受けたともありました。
彼らは決して勇猛果敢に放射線災害に立ち向かっていた訳ではなかったと理解しています。
郷土愛とか、使命とか、何が、どんな気持ちが、彼らを動かしたのか。私の軽率な言葉で語ることは彼らに失礼だと思います。
ですからどうか読んでもらいたいと思います。
消防人にとっては、今後の参考資料としての側面もあるやもしれません。
一般の人にとっても普段見かける消防車や救急車の仕事とは全く違う視点で消防を見る機会になると思います。
拙い紹介で双葉消防の皆さんには申し訳ないと思いますが、同じ消防人として感謝と尊敬の念を込めて皆さまにお勧めさせていただきます。
孤塁 双葉郡消防士たちの3.11 (日本語) 単行本 – 2020/1/31
吉田 千亜
(著)
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本の長さ222ページ
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言語日本語
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出版社岩波書店
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発売日2020/1/31
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ISBN-104000229699
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ISBN-13978-4000229692
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- ルポ 母子避難――消されゆく原発事故被害者 (岩波新書)吉田 千亜新書
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
われわれは生きて戻れるのか?―原発が爆発・暴走するなか、地震・津波被災者の救助や避難誘導、さらには原発構内での給水活動や火災対応にもあたった福島県双葉消防本部の消防士たち。他県消防の応援も得られず、不眠不休で続けられた地元消防の苦難と葛藤が初めて語られた。一人一人への丹念な取材にもとづく渾身のノンフィクション。
著者について
吉田千亜(よしだ ちあ) 1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける。著書に『ルポ母子避難』(岩波新書)、『その後の福島──原発事故後を生きる人々』(人文書院)、共著『原発避難白書』(人文書院)など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉田/千亜
1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1977年生まれ。フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材、サポートを続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2020/1/31)
- 発売日 : 2020/1/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 222ページ
- ISBN-10 : 4000229699
- ISBN-13 : 978-4000229692
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 103,331位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 64位災害
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2020年4月2日に日本でレビュー済み
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2020年2月14日に日本でレビュー済み
いやいや、全面に渡り著者の怒りにも似た感情がにじみ出るノンフィクションとなっている。 是非に映画化を望みたい。 全国の防災業務関係者に読んで頂きたい一冊です。
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本書のあとがきには「私の個人的な思いや感情は排し、証言と事実を書き続けたが、一点だけ、そのルールを横に置いたところがある。」...との記述があるが
いやいや、全面に渡り著者の怒りにも似た感情がにじみ出るノンフィクションとなっている。 是非に映画化を望みたい。 全国の防災業務関係者に読んで頂きたい一冊です。
いやいや、全面に渡り著者の怒りにも似た感情がにじみ出るノンフィクションとなっている。 是非に映画化を望みたい。 全国の防災業務関係者に読んで頂きたい一冊です。

5つ星のうち5.0
原子力災害時の消防士のリアルを記録
ユーザー名: Purple、日付: 2020年2月14日
本書のあとがきには「私の個人的な思いや感情は排し、証言と事実を書き続けたが、一点だけ、そのルールを横に置いたところがある。」...との記述があるがユーザー名: Purple、日付: 2020年2月14日
いやいや、全面に渡り著者の怒りにも似た感情がにじみ出るノンフィクションとなっている。 是非に映画化を望みたい。 全国の防災業務関係者に読んで頂きたい一冊です。
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2020年3月3日に日本でレビュー済み
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2011年、東日本大震災、東電福島第一原発での爆発事故の最中に、マスコミも伝えなかった双葉郡消防士たちの活動をドキュメンタリーにまとめた一冊でした。消防士たちの言葉が心をえぐりました。一つの事故がこれほどまでに多くの人々の生活を奪い、地域を消滅させるとは思ってもいなかった。二度と原発事故を起こさせてはならない。そのためには、日本の国には原発はいらない。再稼働も許してはならない。
2020年6月17日に日本でレビュー済み
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私は元中学校の教員です。毎年、福島には行くようにしています。避難した先でいじめに遭い、傷つき福島に帰ってきた子供達の面倒を見ている先生たちの想い、そして毎年変わっていく町並みなどから、それを自分はどう受け止め、これからどうしていけばいいのかを考える必要があると感じるからです。この本は、読んで、衝撃を受けました。あの原発事故で、こんなにもつらい状況で、消防士達が、自分の家族からも切り離されて状況になりながら、原子力施設の火災の消火活動をすることを余儀なくされたり、けが人を収容するも、搬送先が決まらず、いくつもの病院で断られ、時には16時間もかかってようやく病院に送り届けるようなことがあったこと。仕事が一段落し、ようやくわかった家族の避難先を訪れることが出来たとき、子どもが泣きながら、抱きついてきたこと、そしてまた、仕事に戻らなければならなくなったとき、危険だから、行かないで欲しいと妻からも言われたこと、子供からも泣かれたこと、放射能除染のために防護服を着ながら、疲れ切った体で消火活動を行い、ゴーグルが汗で曇ってしまい呼吸も苦しくなってしまい、放射能に触れる危険がありながらもマスクを外して外の空気を吸わなければならなくなっていたこと、ガイガーカウンターがピーピー鳴る中での救助作業が続いていたこと、死を意識しながら救助活動をしていたこと、それでもそうした彼らの苦しい仕事の状況はマスコミでもほとんど取り上げられていなかったこと。そんなにも苦労しながら救助活動をしてきたのに、助けられない命があったことを悔しく思っている消防士がたくさんいたこと等々、私たちがどうしても知っておくべきだったことがたくさん書かれていました。どうしてこの消防士の方達がこんなにもつらい思いをしなければならなかったのか?読んでいて何度も涙が流れて仕方ありませんでした。そして、私たちの国は、こんな状況になってしまっているのに、それでも原発政策を放棄しようとしていないことに、私は心の底から怒りが混み上がってきました。ひとりでも多くの人にこの本を読んで欲しいと思わずにいられません。著者の渾身のリポートであるとおもいます。この本の前にこの著者の「ルポ・母子避難」も読みましたが、この本も原発の避難者のことを扱った優れたレポートだったと思います。お勧めです。
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3.11で事故を起こした福島原発のそばで、危険を顧みずに頑張っていた地元の小さな消防本部の記録。
原発に危険が迫ることを知らされることなく、線量計を持たずに避難区域のなかで救助活動に従事。自衛隊や東京消防庁のハイパーレスキューが原子炉への放水活動で注目されたのに対して、地域の消防は存在すら忘れられ、搬送先の病院では放射能を浴びた汚染物として扱われる始末。爆発した原発の構内で救助活動に向かうとき、もう戻れない覚悟をした隊員は「今まで、ありがとうね」と同僚に呟いたといいます。それは、帰る確証のない特攻に向かう心境だったのかもしれません。
取り上げられなければ埋もれてしまっていた被災地での苦闘を淡々と綴り、地域に生きる人の命が危険に晒されたことの不条理を訴えます。
原発に危険が迫ることを知らされることなく、線量計を持たずに避難区域のなかで救助活動に従事。自衛隊や東京消防庁のハイパーレスキューが原子炉への放水活動で注目されたのに対して、地域の消防は存在すら忘れられ、搬送先の病院では放射能を浴びた汚染物として扱われる始末。爆発した原発の構内で救助活動に向かうとき、もう戻れない覚悟をした隊員は「今まで、ありがとうね」と同僚に呟いたといいます。それは、帰る確証のない特攻に向かう心境だったのかもしれません。
取り上げられなければ埋もれてしまっていた被災地での苦闘を淡々と綴り、地域に生きる人の命が危険に晒されたことの不条理を訴えます。
2020年4月17日に日本でレビュー済み
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補助金は受けていたでしょうが小さな組織、限界があります。
その中でも職員の意識の高さに感銘しました。
報道で取り上げられるものは、消防では東京消防庁また海上保安庁、自衛隊
組織が大きく、予算のある所ばかりです。
それが悪いわけではありません。しかし、過去の災害もすべて現地の消防の対応は評価されず、
前記した組織の高評価ばかりです。
弱小組織であっても消防士の志は同じはずです。
報道も真実を、そして災害現場の組織の努力を評価してほしいものです。
その中でも職員の意識の高さに感銘しました。
報道で取り上げられるものは、消防では東京消防庁また海上保安庁、自衛隊
組織が大きく、予算のある所ばかりです。
それが悪いわけではありません。しかし、過去の災害もすべて現地の消防の対応は評価されず、
前記した組織の高評価ばかりです。
弱小組織であっても消防士の志は同じはずです。
報道も真実を、そして災害現場の組織の努力を評価してほしいものです。
2020年12月8日に日本でレビュー済み
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吉田千亜さんが一人一丁寧に取材された渾身の一冊。東電福島原発事故当時は東電社員や自衛隊が主に動いていたということが多く語られてきている。しか、しこの本には放射能がまき散らされていた双葉郡内で(その数値が正しく伝えられてない中で)双葉郡の消防士たちが、自分たちの使命を一途に守り抜いたことが克明に記されている。頑なに避難を拒む人たちを説得したことや、病人の搬送先が決まらずに何時間も運転したり、自分たちの家族とは何日も連絡がつかず、食べたり休む時間もなく倒れこんだりとかの壮絶な体験談が満載。原発事故がもたらす「あらゆるものの破壊」が読める一冊に思う。この本に出てくる当時消防士だった彼らの身体が心配だ。