実際に眼病を患った作者の体験をもとにした、半自叙伝的小説であり、
大量のペダントリーを投入し、偶然と必然の関係を考察した思索ミステリ。
とりあえず、きちんと割り切れる、ごく普通のミステリを読みたい人は手に取る
必要のない作品です。しかし、それでもなお、本書に対し、何がしかの関心が
ある人に向け、以下に二、三、言及したいと思います。
本書のテーマは「偶然の連鎖と必然の境目はどこか」というもの。
作中には、易経や確率論、ユングのシンクロニシティーにゲーデルの不完全性定理、
そして量子力学の不確定性原理や多世界解釈などのペダントリーが次々と投入され、
そのテーマが追究されていきます。
結果、導き出される結論は、
――自然科学の法則でさえ、相対的、確率的、統計学的な真理に過ぎないもの
である以上、この世で考えうることは、どんなに途方もないことでも起こりうる――
というもの。
「そんなの当たり前じゃん」とか「だからどうした」という声が聞こえてきそう
ですが、そうした“常識的”反応の前提となっている根源を見極めようとする
姿勢において、作者は徹底しています。
それを踏まえた上で、真摯な思索の営為とみなすか、やっぱり取り留め
のないホラ話に過ぎない、と切り捨てるかどうかは、読者次第でしょうね。
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