本作の主人公は中学生の女の子。
同じ美術部に所属する仲の良い友人がいて、隣の席はちょっと気になる男の子。
お母さんと二人暮らしで、勉強やスポーツが特別得意でもないけれど、これまでは学校の先生に呼び出されたこともなければ、門限を破ったこともない。
つまり、とってもフツーの女の子という印象。淡い絵具で素描されたキャンバスみたいに。
でも、そんな主人公であっても、この年頃というのはやはりイロイロあるもので。思春期の入口で誰しも経験するアレコレが、優しい色調で丁寧に綴られていきます。
そんな中でも、タイトルにある「夢」はやはり本作品を構成する主要素の一つ。「夢」というプリズムを介して、漠然とではあるけれども母親を一人の人間として多面的に捉え始める。つまり、親離れの初期を描いた物語と私は読みました。
もちろんそれ以外にも友情、淡い恋愛や進路の悩みといった要素が、作者の他作品と同様に過不足なく配された登場人物達とともに物語中に散りばめられています。
作者の他作品に比べると、今回の読者年齢層はやや高めかも知れません。小学校の中学年から高学年くらい。「中学生のお姉さんってどんな感じだろう?」って興味を持ち始めた年頃から、もちろん現役中学生や高校生。そして、大人が手に取れば十代に差し掛かった頃の自分と対面して、爽やかな懐かしさを感じられるでしょう。
現役オッサンの私としては、登場回数控えめながらも「西田君」というクラスメイトに興味を覚えました。彼はきっと主人公の「香耶」のことが…… いえ、これはあくまで私の印象に過ぎませんが。
最後に、本作品が描いたのはまだデッサン段階の女の子なのだと思います。これから主人公はやや遅めの反抗期を迎え、母親や周囲とぶつかりながら一人の女性へと輪郭を強めていくのでしょう。
萌え立つ寸前の若芽を捉えた、繊細な物語。春という季節に相応しい清爽な一編です。
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