本書は、サン・テクジュペリ二作目の『夜間飛行』(1931年)と著者処女作の『南方郵便機』(1929年)の二作で構成されている。
『夜間飛行』
当時(1930年頃)の航空機の性能や航路における無線基地などは、現代と比べたら想像を絶するほど低いレベルであり、航空輸送の黎明期のパイロットたちは、郵便輸送という仕事を単なる使命感だけではなく、この物語で死生を超越した崇高な魂のようなものを読者に与えてくれる。
指揮官のリヴィエールの懊悩を縦糸にし、今まさに飛んでいるパイロットや待ち時間を過ごしているパイロットなどを横糸に捉えて物語が進む。
読者は、たった十時間ほど刻々と時を刻む緊迫したドキュメントとして読み進むことになる。
すべて著者サン・テクジュペリの体験を経て書かれた物語であるが、航空路線開拓時代に携わっている人たちへのオマージュとしても読むことができる小説である。
『南方飛行便』
この物語は、著者サン・テクジュペリがサハラ砂漠にある中継基地キャップ・ジュビーの飛行場長として赴任していたときのエピソードをテーマにして書いているのだろう。
友人のジャック・ベルニスが、ツールーズから離陸し、イベリア半島を経てモロッコから南下する郵便輸送機が物語の主人公である。
ベルニスの休暇中のエピソード(恋していたジュヌヴイエーヴとの)など時間軸を交錯させて郵便飛行は続く。
郵袋を下したり、給油するために着陸する基地で束の間職工たちと語らうが、心はサハラ上空の状態などに占められている。
ただ、基地間で交わされる無電連絡文が時々挿入され、読者に緊張感を持続させてくれる。
サハラ東からの熱風でラジエーターの水温が上がり、発動機回転数も下がり、不時着寸前にフランスの屯所へ危うく着陸できた。
一人の老軍曹が、ベルニスを出迎えて、仲間が来てくれた喜びに声を立てて笑った。(P300)
この軍曹とベルニスが語り合うエピソードが、この物語の心が和むハイライトとして評者は読んでしまったのです。
物語は悲しく終えるが、サン・テクジュペリの処女作として読むと、遺作となった『星の王子様』と通ずるような抒情性を感じる作品となっているようだ。
<追記>
堀口大学さんの訳文に戸惑う読者もあろうが、それをも楽しむのも一興と思いました。
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夜間飛行 (新潮文庫) 文庫 – 1956/2/22
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飛行家・サン=テグジュペリ。『星の王子さま』の著者の、もうひとつの世界観。
堀口大學訳の名文で。
第二次大戦末期、ナチス戦闘機に撃墜され、地中海上空に散った天才サン=テグジュペリ。彼の代表作である「夜間飛行」は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事する人々の、人間の尊厳を確証する高邁な勇気にみちた行動を描く。実録的価値と文学性を合わせもつ名作としてジッドの推賞する作品である。他に処女作「南方郵便機」を併録。
目次
夜間飛行
序…アンドレ・ジッド
南方郵便機
序…アンドレ・ブークレル
あとがき…堀口大學
解説…山崎庸一郞
本書収録「夜間飛行」より
このとき彼は、必要な場合に退却する逃げ道を捜しておこうと、後ろを振返って縮みあがった。アンデス全山が、後方一面にざわついている様子だった。
――これはしまった」
前方の峰の一つから、雪がふき出す。まるで雪の噴火だ。ついでいくぶん右よりにある第二の峰からも。ついで、あらゆる峰に、こうして、つぎつぎに、目には見えない姿の快速の巨人に触れられでもしたかのように、火がついた。このときだ、空気の最初の動揺とともに、彼の周囲に山々が揺らぎだしたのは。……
サン=テグジュペリ Saint-Exupery(1900-1944)
名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1929年に処女作『南方郵便機』、以後『夜間飛行』(フェミナ賞)、『人間の土地』(アカデミー・フランセーズ賞)、『戦う操縦士』『星の王子さま』等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、1944年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。
堀口大學(1892-1981)
東京・本郷生れ。詩人、仏文学者。慶応義塾大学を中退し、10数年間外国で暮す。『月光とピエロ』に始まる創作詩作や、訳詩集『月下の一群』等の名翻訳により、昭和の詩壇、文壇に多大な影響を与えた。1979年文化勲章受章。
堀口大學訳の名文で。
第二次大戦末期、ナチス戦闘機に撃墜され、地中海上空に散った天才サン=テグジュペリ。彼の代表作である「夜間飛行」は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事する人々の、人間の尊厳を確証する高邁な勇気にみちた行動を描く。実録的価値と文学性を合わせもつ名作としてジッドの推賞する作品である。他に処女作「南方郵便機」を併録。
目次
夜間飛行
序…アンドレ・ジッド
南方郵便機
序…アンドレ・ブークレル
あとがき…堀口大學
解説…山崎庸一郞
本書収録「夜間飛行」より
このとき彼は、必要な場合に退却する逃げ道を捜しておこうと、後ろを振返って縮みあがった。アンデス全山が、後方一面にざわついている様子だった。
――これはしまった」
前方の峰の一つから、雪がふき出す。まるで雪の噴火だ。ついでいくぶん右よりにある第二の峰からも。ついで、あらゆる峰に、こうして、つぎつぎに、目には見えない姿の快速の巨人に触れられでもしたかのように、火がついた。このときだ、空気の最初の動揺とともに、彼の周囲に山々が揺らぎだしたのは。……
サン=テグジュペリ Saint-Exupery(1900-1944)
名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1929年に処女作『南方郵便機』、以後『夜間飛行』(フェミナ賞)、『人間の土地』(アカデミー・フランセーズ賞)、『戦う操縦士』『星の王子さま』等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、1944年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。
堀口大學(1892-1981)
東京・本郷生れ。詩人、仏文学者。慶応義塾大学を中退し、10数年間外国で暮す。『月光とピエロ』に始まる創作詩作や、訳詩集『月下の一群』等の名翻訳により、昭和の詩壇、文壇に多大な影響を与えた。1979年文化勲章受章。
- 本の長さ334ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1956/2/22
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-10410212201X
- ISBN-13978-4102122013
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
第二次大戦末期、ナチス戦闘機に撃墜され、地中海上空に散った天才サン=テグジュペリ。彼の代表作である『夜間飛行』は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事する人々の、人間の尊厳を確証する高邁な勇気にみちた行動を描く。実録的価値と文学性を合わせもつ名作としてジッドの推賞する作品である。他に処女作『南方郵便機』を併録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
サン=テグジュペリ
1900‐1944。名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1928年に処女作『南方郵便機』、以後『夜間飛行』(フェミナ賞)、『人間の土地』(アカデミー・フランセーズ賞)、『戦う操縦士』『星の王子さま』等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、’44年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず
堀口/大學
1892‐1981。東京・本郷生れ。詩人、仏文学者。慶応義塾大学を中退し、10数年間外国で暮す。『月光とピエロ』に始まる創作詩作や、訳詩集『月下の一群』等の名翻訳により、昭和の詩壇、文壇に多大な影響を与えた。’79年文化勲章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1900‐1944。名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1928年に処女作『南方郵便機』、以後『夜間飛行』(フェミナ賞)、『人間の土地』(アカデミー・フランセーズ賞)、『戦う操縦士』『星の王子さま』等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、’44年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず
堀口/大學
1892‐1981。東京・本郷生れ。詩人、仏文学者。慶応義塾大学を中退し、10数年間外国で暮す。『月光とピエロ』に始まる創作詩作や、訳詩集『月下の一群』等の名翻訳により、昭和の詩壇、文壇に多大な影響を与えた。’79年文化勲章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1956/2/22)
- 発売日 : 1956/2/22
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 334ページ
- ISBN-10 : 410212201X
- ISBN-13 : 978-4102122013
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 19,045位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
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- - 32位フランス文学 (本)
- - 460位新潮文庫
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"あたり一面を満たして、光の牛乳が流れていた、そしてその中で、機がゆあみをしていた。ファビアンは振り返って、無線技師が微笑するのを見た。"著者自身の経験をもとに書かれた本書は、なるほど敵国のパイロットも愛読していたのが納得する位に当時の危険な夜間飛行の状況描写、そして同じ【ヒコーキ野郎】への愛が込められていてワクワクさせてくれる。
個人的には、宮崎駿氏が【紅の豚】等の作品イメージを描いた時には確かに本書を読みながら膨らませていたのかなあ。と考えながら読んでいた。ファビアンの妻が嘆く様に、それは男性固有の独りよがりなヒロイズムかもしれないが、そうした先人の無謀さが世界を拓いていった事実には敬意をはらいたいと思った。
星の王子さま好き、そして紅の豚好きな誰かにオススメ。"飛ばねえ豚はただの豚だ!"
個人的には、宮崎駿氏が【紅の豚】等の作品イメージを描いた時には確かに本書を読みながら膨らませていたのかなあ。と考えながら読んでいた。ファビアンの妻が嘆く様に、それは男性固有の独りよがりなヒロイズムかもしれないが、そうした先人の無謀さが世界を拓いていった事実には敬意をはらいたいと思った。
星の王子さま好き、そして紅の豚好きな誰かにオススメ。"飛ばねえ豚はただの豚だ!"
2019年11月18日に日本でレビュー済み
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「夜間飛行」と「南方郵便機」の2作が収録されています。「南方郵便機」は処女作ですが、後半に掲載されています。堀口大學の訳は諧謔味がありました。それとは別にこれが「星の王子様」を書いた人の作品なのかと思ってしまいました。両作とも貨物を運ぶ初期の飛行機に関するものです。「夜間飛行」は非情を装う航空会社の支配人リヴィエールを中心に、南米での航空事業とその関係者たちが描かれています。嵐に会い、おそらくは死ぬであろう(はっきりと描かれていません)飛行士ファビアンの最後に出てくる場面が幻想的でした。「南方郵便機」はアフリカの空を飛ぶ郵便機の操縦士ベルに巣が主人公。でも、飛行そのものよりは初恋の女性とのやり取りが中心。最後があっけなくて、堀口大學氏には悪いけど、やはりジッドの言うように「夜間飛行」のほうがいいと思いました。ついでに、ゲランでフレグランスの夜間飛行を嗅いできましたが、わたしはイメージが違うと思います。
2019年2月25日に日本でレビュー済み
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よく磨かれた文章です。あえて詳細に語らないことによって、読者の想像をかき立ててくれます。とりわけ機上でパイロットが直面する状況などは、まるで自分が操縦席に居るかのようです。
主人公リヴィエールの振る舞いは一見冷酷ですが、それは彼の他人を監督する立場に焦点を当てて書いているからです。
彼が何故その立場に立ち、その態度を貫いてきたのか。私はそれを、人間が持つ、自らの種族をより繁栄さようとする生物としての本能であると捉えました。そして、種の存続と人間一個体の存続が必ずしも同義では無いことも本書では表されています。
本書は理系、文系に関わらず様々な分野で生きる人に読んで頂きたい作品です。きっと何か、心に残るものがあります。
主人公リヴィエールの振る舞いは一見冷酷ですが、それは彼の他人を監督する立場に焦点を当てて書いているからです。
彼が何故その立場に立ち、その態度を貫いてきたのか。私はそれを、人間が持つ、自らの種族をより繁栄さようとする生物としての本能であると捉えました。そして、種の存続と人間一個体の存続が必ずしも同義では無いことも本書では表されています。
本書は理系、文系に関わらず様々な分野で生きる人に読んで頂きたい作品です。きっと何か、心に残るものがあります。
2018年10月9日に日本でレビュー済み
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テグジュペリの「戦う操縦士」「星の王子さま」と読んだ後にこの本を読むことになった。私の頭の中では、あるドイツ人アーチストのドキュメンタリー写真を150ページに編集しているところで、このフランス人飛行士である作家の本が私を救ってくれた。この本の中では、いろんなシーンで読み手の気持ちを救ってくれる。読み手の心の動きを感じながら、その気持ちをフォローしてくれながら話を続けている様に感じた。「恐らく・・」と作者の考えを予想できるほど、作者を深くは知らないけれど、作者は実際深い悲しみの出所も、その悲しみの消えゆく先までも見通して、登場人物に頼みを繋ぎながら話を進めているのかもしれないと感じた。逃げようと思えば逃げられる。けれど、逃げなくてもいずれは終わる、それが良くても悪くても。ここでも彼らは戦っていて、私の仕事に重ね合わせ、いろんな方向からいろんな読み方、とらえ方をする中で、私の気持ちを、なぜか救ってくれた一冊でした。
2019年10月21日に日本でレビュー済み
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本文は全体の半分しかない。後は翻訳者の思い込みの激しいだけの無意味な水増し。文もいい加減すぎて腹が立つだけの代物。
堀口大学の足元にも及ばない。
翻訳者の思い込みの激しさだけの一人相撲で終わっている。
堀口大学の足元にも及ばない。
翻訳者の思い込みの激しさだけの一人相撲で終わっている。