一つ一つの収録作の各人物に
モデルがいるかは分かりませんが、
皆確かに「いる」人達と思わされます。
『銀杏』のお婆さんが「お城みたい」になった
家のソファでも昔通りの座り方している所とか
整形美女の亜紀ちゃんの部屋着とか。
『トラワレノヒト』の「お母さん」の
一時帰宅した時のファッションとか。
作者は二十年もの休筆中、
家族の介護や看取りを経験されたそうですが
その後描かれた『トラワレノヒト』の作中で描かれる
老婆(「お母さん」)が自分の知っている人そのままで、
何度既視感に捕らわれたか分かりません。
こういう人がいるものだし、他人ならまだいいけど、
家族はどうされているのかと思っていたので
(やっぱり大変なんだ)と分かった(笑)。
「たちの悪い女のわがまま勝手に魅せられる男」、
の考察が大変興味深かったです。
(勿論、事実そのままではなくても)おそらく作者は
実人生でこの作品の“核”となる身内との関わりがあったと思われます。
作品を描いてアウトプットする必要がある位の。
初め病棟に「捕らわれた」と妄想する厄介な老婆が身内にいる・・・
という極々パーソナルな話が語られていたと思っていたら
「なぜ私はこの私なのよ!!」という問いが。
気がつくと作品のテーマは、誰もが自分自身
(出生、境遇、性格、能力…etc.)に「トラワレタ」、
そして、誰もが必ず「独りで ただ 死ぬのよ!!」という
人間全体の普遍的な問題にスケールが広がっています。
人間の生死の話を、時にかなり重くまた滑稽に描く、
その緩急な語り口が素晴らしいです。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
