丁寧な作り、正統派な実力派、みたいなのが好きな人は買わない方が良いです。現実的な考証であるとか整合性はほとんど破壊されています。だからこういった作品では、こういった大多数の絶賛と一部の酷評という反応が正常であって、レビュー欄を見ていい雰囲気だなと思いました。
興味のない人には何がどうこんなに受けているのかさっぱりわからないかと思いますが、pixivでアマチュアな作品を愛好したり、同人誌を買ったりしながら、この感じをもうちょっとプロフェッショナルにやり切った作品が早く出て来ないかなぁと思っていた層……がこの界隈にどれくらいいるかはちょっと自信ないですが。
そういった期待を受けて商業デビューした人も、結局は本来の良さを失って消えてしまう印象がここ数年ありました。芸術は余計な矯正を「それはしなくていい。これはこれでいいんだ」と勇気をもって拒めなければ光を失ってしまうものです。
以下はネタバレで特徴的な場面
・最初のコマで大河に飛びこみ、次のコマでは陸に上がっている。だがそこに来て「この高さでの水はコンクリートと同じだぞ」と説教が入る。すばらしいめちゃくちゃさ。
・「この役はどうしようもない適当なクズしか……あお前ぴったりだわ」というシーン。作中ではぴったりだわと言われた相手役にアテンションがあるのに、読者の中ではもっぱら前任者への鬱憤を晴らす。なんともいえない中途半端感。
・相手役の旧知の恩人たちが現れた回。ここは主人公に試練を与えるお約束。がさらっとした一言で、出会いの時からずっと彼は本当には理解されていなかったことがわかる。知っているのは主人公だけ。甘いというより、辛いことは要らないというスタンス。
・贈り物を拒めない主人公にネックレス(心理的な効果としては首輪ですよね)をかけるなど、端々で地味にぬるくない共依存の下敷き。
精神医学の世界でも、ユーモアがあることは心の耐久性として最も高いと考えられています。自殺衝動を持ちながら生きている人というのは、日頃から妙に鋭く、他人の心を見透かし、それを妙におかしな言い方にして発散するというイメージがあります。逆に言うと鬱にギャグは付き物なんですね、不思議なことに。
全体的に愉快な作品だっただけに、いかにクズ芸とはいえおまけの授業は聞くに堪えませんでした。ここで星マイナス。
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