面白かったです。入院中に買ってきてもらった本だったので、消灯時間を気にしながらもぐいぐり引き込まれてしまいました。ここのところ、マスコミからシャワーのように流される扇動的で半ば嫉妬にまみれた論調の中国論に辟易していたからでしょうか。一味もふた味も違う筆致に何度も心地よく引っかかりながら読み進めることができました。
また、この本は日本に追いつけ追い越そうとしている中国論であると同時に、「東アジアに『適度な不安定要素』があることが、アジア戦略上好ましい」という経済大国アメリカに牛耳られてきた日本論とも読めたので、日本理解の本としても、中国の人に読んでほしいと思いました。
先例のない人口を要する国の難しい舵取りに、「劇薬」ともいうべき「反日」政策を掲げざるを得ない中国の人と、そしてそれと呼応して軽々に「反中国」を煽る日本の人たちとが「共生」できるために。
「かつて私たち日本人も・・・・失うべきではないものを捨て値で売り払ってしまった。それがどれほどかけがえのないものであったのかを私たちは半世紀かけてゆっくり悔いている。貧しさ、弱さ、卑屈さ、だらしのなさ・・・・そういうものは富や強さや傲慢や規律によって矯正すべき欠点ではない。そうではなくて、そのようなものを『込み』で、そのようなものと涼しく『共生』することのできるような手触りのやさしい共同体を立ち上げることのほうがずっとたいせつである」とは、胸に響く言葉でした。
増補版 街場の中国論 (日本語) 単行本 – 2011/2/25
内田樹
(著)
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本の長さ352ページ
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言語日本語
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出版社ミシマ社
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発売日2011/2/25
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寸法12.8 x 2.4 x 18.8 cm
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ISBN-104903908259
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ISBN-13978-4903908250
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商品の説明
出版社からのコメント
中国はどういうふうに「苦しんでいる」のか。それがこの本の全体に伏流する通奏低音的な テーマです。無数のリスクファクターを抱え込んだ、前代未聞の巨大国家の統治に中国人はどんなふうに苦しみ、ガバナンスの維持のために創意工夫を凝らしているのか。僕はそれを知りたいと思いました。
―増補版のための解説より―
―増補版のための解説より―
内容(「BOOK」データベースより)
尖閣問題も反日デモも…おお、そういうことか。『街場の中国論』(2007年刊)に、新たな3章が加わった決定版。中国の何がわからなかったのかが見えてくる一冊。
著者について
内田樹(うちだ・たつる)
1950年東京生まれ。東京大学仏文科卒業。東京都立大学大 学院人文科学研究科博士課程を中退後、同大学人文学部助手などを経て、現在は神戸女学院大学文学部教授。専門はフランス現代思想、映画 論、武道論。 著書に『街場の現代思想』『街場のアメリカ論』(以上、文春文庫)、『街場のメディア論』(光文社新書)、『日本辺境論』(新潮新書・2010年新書大賞受賞)、『街場のマンガ論』(小学館)、『もういちど 村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング)、 『街場の教育論』(ミシマ社)など多数ある。
1950年東京生まれ。東京大学仏文科卒業。東京都立大学大 学院人文科学研究科博士課程を中退後、同大学人文学部助手などを経て、現在は神戸女学院大学文学部教授。専門はフランス現代思想、映画 論、武道論。 著書に『街場の現代思想』『街場のアメリカ論』(以上、文春文庫)、『街場のメディア論』(光文社新書)、『日本辺境論』(新潮新書・2010年新書大賞受賞)、『街場のマンガ論』(小学館)、『もういちど 村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング)、 『街場の教育論』(ミシマ社)など多数ある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
内田/樹
1950年東京生まれ。東京大学仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程を中退後、同大学人文学部助手などを経て、現在は神戸女学院大学文学部教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1950年東京生まれ。東京大学仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程を中退後、同大学人文学部助手などを経て、現在は神戸女学院大学文学部教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : ミシマ社; 増補版 (2011/2/25)
- 発売日 : 2011/2/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 352ページ
- ISBN-10 : 4903908259
- ISBN-13 : 978-4903908250
- 寸法 : 12.8 x 2.4 x 18.8 cm
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 335,459位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 120位中国の地理・地域研究
- - 2,801位外交・国際関係 (本)
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- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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本書で一番印象に残った点は、「中国人は国境線を確定することにこだわらない」ということを論じた第3章である。
中国は「自国が世界の中心であり、朝貢貿易等を通じ、ほとんどの王朝が自国の中心から離れれば離れるほど政治的コントロールに強い興味を示さず、自国の文化・権威に従っていれば良い」ということは史実として高校生でも習っていることである。ただ、意識として、国境線に強い意識をもたず、グラデーションのように影響力を行使できれば良いとした点は初耳だった。台湾問題も、日本に対する態度も、国内少数民族への対応もかなりの部分がこの基本的な考え方で整理できる。「ウェストファリア条約」的な国境(国家)概念がないことを前提として彼の国と付き合えば、うなずけるところも多かった。
アメリカ、中国の2つの超大国に文字通り挟まれている本邦も、国家の成り立ちとしては一見両極端の両国にも共通点が多いことを認識しながら、身の処し方を考える上で参考になると思う。
他に第4章の「もしもアヘン戦争がなかったら」など歴史学者には禁じてである論じ方も、筆者が中国の専門家でないため、自由で、興味深い。
最近の筆者の書籍にはないキレが伺われ、面白かった。
中国は「自国が世界の中心であり、朝貢貿易等を通じ、ほとんどの王朝が自国の中心から離れれば離れるほど政治的コントロールに強い興味を示さず、自国の文化・権威に従っていれば良い」ということは史実として高校生でも習っていることである。ただ、意識として、国境線に強い意識をもたず、グラデーションのように影響力を行使できれば良いとした点は初耳だった。台湾問題も、日本に対する態度も、国内少数民族への対応もかなりの部分がこの基本的な考え方で整理できる。「ウェストファリア条約」的な国境(国家)概念がないことを前提として彼の国と付き合えば、うなずけるところも多かった。
アメリカ、中国の2つの超大国に文字通り挟まれている本邦も、国家の成り立ちとしては一見両極端の両国にも共通点が多いことを認識しながら、身の処し方を考える上で参考になると思う。
他に第4章の「もしもアヘン戦争がなかったら」など歴史学者には禁じてである論じ方も、筆者が中国の専門家でないため、自由で、興味深い。
最近の筆者の書籍にはないキレが伺われ、面白かった。
2012年1月7日に日本でレビュー済み
中国の専門家ではないと自認する内田氏による中国論であり日本論でもある。
中国という対象を、ある一面のみからではなく多面的に見て考えてみること、相手(中国)の立場に立って考えてみることを繰り返すことによって、一方的に偏りがちな中国像を見直すきっかけを与える内容となっている。
中国政府も大変なのだろうなということと、中国のことをいろいろと論じる前に日本(日本人)自身がしっかりと地に足をつけて視線を高く持たなければならない、ということを感じさせる本であった。
中国という対象を、ある一面のみからではなく多面的に見て考えてみること、相手(中国)の立場に立って考えてみることを繰り返すことによって、一方的に偏りがちな中国像を見直すきっかけを与える内容となっている。
中国政府も大変なのだろうなということと、中国のことをいろいろと論じる前に日本(日本人)自身がしっかりと地に足をつけて視線を高く持たなければならない、ということを感じさせる本であった。
2014年3月3日に日本でレビュー済み
尖閣や反日デモで、強硬な姿勢に見える中国側の事情を歴史的、思想的に解き明かすヒントをくれる本です。冷静に日中の関係を考えてみたい人にお勧めです。
1億人を治める日本のやり方の延長では13億人を治めることはできない。その視点で見れば、中国の言動も理解できてくる。
また中華思想という視点で見れば、中心と周辺の間に横たわるグレーゾーンに明確に国境線を引く行為は中国としては許しがたい。日本も韓国も周辺国として、中国を中華としたり米国を中華としたりそ時代の状況によって使い分けてきた。
1億人を治める日本のやり方の延長では13億人を治めることはできない。その視点で見れば、中国の言動も理解できてくる。
また中華思想という視点で見れば、中心と周辺の間に横たわるグレーゾーンに明確に国境線を引く行為は中国としては許しがたい。日本も韓国も周辺国として、中国を中華としたり米国を中華としたりそ時代の状況によって使い分けてきた。
2012年9月23日に日本でレビュー済み
この本は、「外」を読み解く際に非常に大事なことを教えてくれています。
2012年9月 今、まさに尖閣諸島問題で再度日中関係が緊迫しています。
報道によると、温家宝が、野田総理と立ち話をした際に最後通牒を伝えているそうです。
野田総理は、頭の中の石原慎太郎率いる理屈屋を気にし過ぎたあげく、大事な温家宝のギリギリのメッセージを
聞きそびれました。 その前段に外相同士も話をしていたそうです。 この時も「本当のメッセージ」を聞き逃して
います。
それは、「あなたが間違った決断をすると中国は大変なことになる。我々政府も抑えられない事態になる。」と
いうはっきりした進言です。
ところが、1億人の国の首相は、この「ガバナンスが破綻するかもしれない」というぎりぎりのメッセージを聞き
そびれたのではなく、実は、事の重大さを充分理解できなかった、のだと思います。
内田さんの本は、我々に「外国を読み解く際には、論者本人のイデオロギーの立ち位置や日本の視点だけに制限
されることなく、いろいろな角度から自由に考察する力をつけないと危険である」ということを教えてくれている
と思います。
「中国論」とわざわざ唱っているのも、巷にあふれる古臭いイデオロギーの論書の書法に対する批判であり、本書
の内容の細部を取り上げ反論を展開し「結局 内田樹という論者は…」という乱暴なまとめ方をすることこそ
「危険」であるのだ、と教えてくれていると思います。
おそらく内田さんは、街場の中国「論」としたかったのではないか?と思います。
2012年9月 今、まさに尖閣諸島問題で再度日中関係が緊迫しています。
報道によると、温家宝が、野田総理と立ち話をした際に最後通牒を伝えているそうです。
野田総理は、頭の中の石原慎太郎率いる理屈屋を気にし過ぎたあげく、大事な温家宝のギリギリのメッセージを
聞きそびれました。 その前段に外相同士も話をしていたそうです。 この時も「本当のメッセージ」を聞き逃して
います。
それは、「あなたが間違った決断をすると中国は大変なことになる。我々政府も抑えられない事態になる。」と
いうはっきりした進言です。
ところが、1億人の国の首相は、この「ガバナンスが破綻するかもしれない」というぎりぎりのメッセージを聞き
そびれたのではなく、実は、事の重大さを充分理解できなかった、のだと思います。
内田さんの本は、我々に「外国を読み解く際には、論者本人のイデオロギーの立ち位置や日本の視点だけに制限
されることなく、いろいろな角度から自由に考察する力をつけないと危険である」ということを教えてくれている
と思います。
「中国論」とわざわざ唱っているのも、巷にあふれる古臭いイデオロギーの論書の書法に対する批判であり、本書
の内容の細部を取り上げ反論を展開し「結局 内田樹という論者は…」という乱暴なまとめ方をすることこそ
「危険」であるのだ、と教えてくれていると思います。
おそらく内田さんは、街場の中国「論」としたかったのではないか?と思います。
2012年5月6日に日本でレビュー済み
昔、読んだのですが、紛失してしまい、再読しました(増補版ですしね)。
それにしても、やはり、内田先生の本は面白いですね。
格差拡大を露見させないために、中国の国家中枢は日本と比べモノにならないほど気を遣っている…などなど。
普通の人間が想像できる(あるいは経験してきた)内容と言葉で、大きな国家の構造についての大きな視点を与えてくれます。
『日本辺境論』もしかり、いまの日本にこのような大きな視点で物事の本質を論じる人は内田先生をおいて、ほとんどいないのでは? だから人気もあるのでしょうね。
それにしても、やはり、内田先生の本は面白いですね。
格差拡大を露見させないために、中国の国家中枢は日本と比べモノにならないほど気を遣っている…などなど。
普通の人間が想像できる(あるいは経験してきた)内容と言葉で、大きな国家の構造についての大きな視点を与えてくれます。
『日本辺境論』もしかり、いまの日本にこのような大きな視点で物事の本質を論じる人は内田先生をおいて、ほとんどいないのでは? だから人気もあるのでしょうね。
2011年6月26日に日本でレビュー済み
この本ははいはいQさんのホームページで紹介されており、興味があったので購入しました。
私は中国に住んですでに9年になりますが、いままで中国人、中国にたいして疑問点がありましたが、この本を読んですっきりしました。
中国を見る上では中国と日本との歴史、文化、風習などを鑑みて考えてみないと行けないことがわかりました。
中国論の本は街中に溢れていますが、この本の内容はなるほどと思うことばかりです。今まで頭の中でモヤモヤしていたことがありましたが、すっきりしました。
この本を読んでから中国を見る目が変わりましたし、自分の中でのストレスも若干解消されました。
とてもいい内容の本だったと思います。
私は中国に住んですでに9年になりますが、いままで中国人、中国にたいして疑問点がありましたが、この本を読んですっきりしました。
中国を見る上では中国と日本との歴史、文化、風習などを鑑みて考えてみないと行けないことがわかりました。
中国論の本は街中に溢れていますが、この本の内容はなるほどと思うことばかりです。今まで頭の中でモヤモヤしていたことがありましたが、すっきりしました。
この本を読んでから中国を見る目が変わりましたし、自分の中でのストレスも若干解消されました。
とてもいい内容の本だったと思います。
ベスト1000レビュアー
まったくレベルの低い本を出したものである。本書のキーワードは「街場」である。意味するところは「街場の『ふつう』の人だったら知っていそうなこと」だそうだが、その背景には「専門家不信」がある。専門家、インサイダーは常に何らかのバイアスを持っており信用できない。むしろ何も知らない「街場の感覚こそ、フェア」なんだそうで、この「街場の感覚」に基づいて、そこから「中国はどうしてこんなふうになったのか?」を推論しようというものらしい。だが残念ながら、内田の自画自賛とは裏腹に、その狙いは完全に失敗に終わっている。とにかく基本的な事実誤認が多すぎる。
例えば、「中国政治家の多くは大人(たいじん)であり、その代表例が周恩来で、周恩来は『以徳報怨』を合言葉に対日賠償請求の一切を放棄した」などと抜け抜けというが、以徳報怨を最初に言ったのは周恩来ではなく蒋介石である。しかも、周恩来は国交回復時最後まで対日賠償請求権放棄に応じようとしなかったので、交渉に当たった外務省条約局長の高島益郎から「当時の正当な中国政府だった中華民国は既に日本に対する賠償請求を放棄している。現在の共産党政府はその地位を継承したのだから、賠償請求放棄の立場も継承せねばならない」と国際法の常識を諭され「法匪」という政治家にあるまじき罵声を高島氏に投げつけたのは有名な話。
これだけではない。中国を論じるにあたり再三再四「王化政策」「中華思想」を振り回し、「中華思想に本来国境線という概念はなじまない。台湾問題にしろ、東シナ海ガス田問題にしろ、中国に対し国境線画定交渉などを持ちかけるのがそもそも中国四千年の思想を理解しないタワケモノがすることだ」みたいなことを内田は言うが、その中国自身がロシアとも、インドとも、国境線画定交渉を行い決着をつけている。ベトナムとも領海線確定交渉を行って決着を付けているのだ(ただし日本に対しては自分に有利な大陸棚論を主張しておきながら、ベトナムに対しては大陸棚論にすると全部ベトナムに持っていかれるので中間線論を持ち出して結局中間線で決着を付けるというご都合主義をやらかしているのだが)。
この他、アジアに儒教文明圏が出来つつあるみたいなことを内田は言うが(この手合いは昔からいるが)、司馬遼太郎がいみじくも言ったように中国・韓国の儒教と日本の儒教ではその概念がカソリックとプロテスタントのように大きく異なることくらい知っていて欲しい。中国・韓国儒教の中心は孝である。一方、日本の儒教の中心概念は公である。孝では身内への献身が全てに優先する。故に中国韓国では身内を養うが為、大々的な汚職が平然と行われるのである。日本ではこれは無い。つまり、日本と中国韓国では同じ儒教と言いながらその中身は氷炭相容れざるものなのである。
90年代に江沢民が行った悪辣な反日・愛国主義教育について日本政府の黙認があったなんて言い出すに及んでは、ほとんど妄想の世界に迷い込んでいるとしか思えない。 鳥居民『「反日」で生きのびる中国 江沢民の戦争』でも読んで少しは蒙を啓いて欲しい。
要するに内田は、日本のウヨクに昔から良くいるアジア主義者なのである。白人が嫌いでアメリカが嫌いで、現在の日本が「対米従属状態」にあるのが我慢できず、中国や韓国(それに北朝鮮)とも連帯して、白人をアジアから追い出して「真の平和をアジアに実現しよう」という願望の持ち主なのである。そこから逆算してすべてを導くから論たる論になっていない。これだけの間違いを犯しておきながら、それをもし「素人でござい、許せ」というなら、「わたしゃーしがない漫画家ですがな」と都合の良い時だけ漫画家を逃げ口上に使う小林よしのりと同じレベルだと指弾されても仕方あるまい。
例えば、「中国政治家の多くは大人(たいじん)であり、その代表例が周恩来で、周恩来は『以徳報怨』を合言葉に対日賠償請求の一切を放棄した」などと抜け抜けというが、以徳報怨を最初に言ったのは周恩来ではなく蒋介石である。しかも、周恩来は国交回復時最後まで対日賠償請求権放棄に応じようとしなかったので、交渉に当たった外務省条約局長の高島益郎から「当時の正当な中国政府だった中華民国は既に日本に対する賠償請求を放棄している。現在の共産党政府はその地位を継承したのだから、賠償請求放棄の立場も継承せねばならない」と国際法の常識を諭され「法匪」という政治家にあるまじき罵声を高島氏に投げつけたのは有名な話。
これだけではない。中国を論じるにあたり再三再四「王化政策」「中華思想」を振り回し、「中華思想に本来国境線という概念はなじまない。台湾問題にしろ、東シナ海ガス田問題にしろ、中国に対し国境線画定交渉などを持ちかけるのがそもそも中国四千年の思想を理解しないタワケモノがすることだ」みたいなことを内田は言うが、その中国自身がロシアとも、インドとも、国境線画定交渉を行い決着をつけている。ベトナムとも領海線確定交渉を行って決着を付けているのだ(ただし日本に対しては自分に有利な大陸棚論を主張しておきながら、ベトナムに対しては大陸棚論にすると全部ベトナムに持っていかれるので中間線論を持ち出して結局中間線で決着を付けるというご都合主義をやらかしているのだが)。
この他、アジアに儒教文明圏が出来つつあるみたいなことを内田は言うが(この手合いは昔からいるが)、司馬遼太郎がいみじくも言ったように中国・韓国の儒教と日本の儒教ではその概念がカソリックとプロテスタントのように大きく異なることくらい知っていて欲しい。中国・韓国儒教の中心は孝である。一方、日本の儒教の中心概念は公である。孝では身内への献身が全てに優先する。故に中国韓国では身内を養うが為、大々的な汚職が平然と行われるのである。日本ではこれは無い。つまり、日本と中国韓国では同じ儒教と言いながらその中身は氷炭相容れざるものなのである。
90年代に江沢民が行った悪辣な反日・愛国主義教育について日本政府の黙認があったなんて言い出すに及んでは、ほとんど妄想の世界に迷い込んでいるとしか思えない。 鳥居民『「反日」で生きのびる中国 江沢民の戦争』でも読んで少しは蒙を啓いて欲しい。
要するに内田は、日本のウヨクに昔から良くいるアジア主義者なのである。白人が嫌いでアメリカが嫌いで、現在の日本が「対米従属状態」にあるのが我慢できず、中国や韓国(それに北朝鮮)とも連帯して、白人をアジアから追い出して「真の平和をアジアに実現しよう」という願望の持ち主なのである。そこから逆算してすべてを導くから論たる論になっていない。これだけの間違いを犯しておきながら、それをもし「素人でござい、許せ」というなら、「わたしゃーしがない漫画家ですがな」と都合の良い時だけ漫画家を逃げ口上に使う小林よしのりと同じレベルだと指弾されても仕方あるまい。