先日、めでたくも「夜のみだらな鳥」が30数年ぶりに復刊され、本書の巻末の訳者あとがきにある冷遇が数年のうちにかなり改善された感のあるホセ・ドノソです。
本書は、衰退する町の娼館を舞台に、マヌエラというLGBT、くだけて言うと「オネエのダンサー」を中心に、共同経営者のハポネサ、地の権勢者のドン・アレホ・クルス、その血を受け継ぐ大勢のひとりで、街のゴロツキ、パンチョ・ベガといった、いろいろな意味で人間的なバランスを欠いた登場人物たちが組んず解れつしながら、避け得ぬ終末に向かう様を描いた物語です。
読んで何らかのカタルシスを得られるとか、主人公の成長を通して人類愛に目覚めるとかいったこととは全く無縁の、どちらかというと、知らずに済ませられるなら知らずにいたかった、生きるという事についての厳然たる、あるひとつの真実を味あわされます。
ただ、「夜のみだらな鳥」や「別荘」に比べると、訳者あとがきを入れても171ページの中篇で、人間関係もさほど複雑でないので、読み終えた後に、「境界」であったり、「土地」であったりを絡めながら物語全体を俯瞰するには最良のテクストではないかと思います。
それと、訳者あとがきで紹介されている、病床のドノソを見舞ったリョサとのエピソードは、考えや立場は違っていても、舞台を同じくする戦友と交わした最後の言葉という感じで、とても粋でした。
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境界なき土地 (フィクションのエル・ドラード) 単行本 – 2013/7/1
- 本の長さ171ページ
- 言語日本語
- 出版社水声社
- 発売日2013/7/1
- ISBN-104891769521
- ISBN-13978-4891769529
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
大農園主ドン・アレホに支配され、文明から取り残され消えゆく小村を舞台に、性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の“グロテスク・リアリズム”。バルガス・ジョサに「最も完成度の高い作品」といわしめたチリの知られざる傑作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ドノソ,ホセ
1924年、チリのサンティアゴのブルジョア家庭に生まれる。1945年から46年までパタゴニアを放浪した後、1949年からプリンストン大学で英米文学を研究。帰国後、教鞭を取る傍ら創作に従事し、1958年、長編小説『戴冠』で成功を収める。1964年にチリを出国した後、約十七年にわたって、メキシコ、アメリカ合衆国、ポルトガル、スペインの各地を転々としながら小説を書き続けた。1981年にピノチェト軍事政権下のチリに帰国、1990年には国民文学賞を受けた。1996年、サンティアゴにて没
寺尾/隆吉
1971年、愛知県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、フェリス女学院大学国際交流学部准教授。専攻、現代ラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1924年、チリのサンティアゴのブルジョア家庭に生まれる。1945年から46年までパタゴニアを放浪した後、1949年からプリンストン大学で英米文学を研究。帰国後、教鞭を取る傍ら創作に従事し、1958年、長編小説『戴冠』で成功を収める。1964年にチリを出国した後、約十七年にわたって、メキシコ、アメリカ合衆国、ポルトガル、スペインの各地を転々としながら小説を書き続けた。1981年にピノチェト軍事政権下のチリに帰国、1990年には国民文学賞を受けた。1996年、サンティアゴにて没
寺尾/隆吉
1971年、愛知県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、フェリス女学院大学国際交流学部准教授。専攻、現代ラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 水声社 (2013/7/1)
- 発売日 : 2013/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 171ページ
- ISBN-10 : 4891769521
- ISBN-13 : 978-4891769529
- Amazon 売れ筋ランキング: - 817,330位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 333位スペイン文学
- - 440位スペイン・ポルトガル文学研究
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年8月4日に日本でレビュー済み
訳者の言葉をそのまま借りれば、悪魔的精神世界を描いた小説です。
背景にあるのは、大地主と抑圧される庶民の力関係というラテンアメリカの構図です。それを背景にして、性的倒錯者達が活動する売春宿を舞台として話は進んで行きます。話の中心にいる人物は、自分の感じる世界を語っていくのですが、本人にとって当たり前の世界は、読む者には異常に感じられます。あまりにも自明のこととして一つの視線から周囲の人物や自分の生活を語っていくのですが、それがしごく当然のこととして語られることに戦慄を覚えました。
背景にあるのは、大地主と抑圧される庶民の力関係というラテンアメリカの構図です。それを背景にして、性的倒錯者達が活動する売春宿を舞台として話は進んで行きます。話の中心にいる人物は、自分の感じる世界を語っていくのですが、本人にとって当たり前の世界は、読む者には異常に感じられます。あまりにも自明のこととして一つの視線から周囲の人物や自分の生活を語っていくのですが、それがしごく当然のこととして語られることに戦慄を覚えました。