地震波伝播に関する日本語の教科書として,「弾性波動論」(佐藤泰夫),「地震波動論」(斎藤正徳)などがこれまでに出版されている.「地震動の物理学」の特徴としては,震源に近い場所での地震波(地震動)に重点を置いていること,数式の導出過程の説明が丁寧であること,この分野の最近の発展までカバーしていること,が挙げられると思う.
構成は次のとおりである.第1章「地震と地震動」では,地震波動論の基礎事項が簡潔にまとめられている.第2章「震源の効果」では,震源の数学的表現について説明されている.特に円筒座標系における断層運動の変位ポテンシャル表現が具体的に示されているのが印象的である.第3章では「伝播の効果」について最も多くのページを割いて丁寧に説明されており,本書の肝となる部分である.第4章では「地震動の観測と処理」について簡潔に整理されている.付録では,マグニチュードと震度といった経験的ではあるが重要なパラメタについても説明されている.
この本のタイトルが「地震動の物理学」となっているように,読者が自ら手を動かし数式を追うことによって,その背景にある物理まできちんと理解することができる良書である.また,本文中や脚注に見られる著者の配慮は,興味をもった読者が原典にあたる際にきわめて有益であろう.地震学を学ぶ学部3,4年生,大学院生向けの教科書・参考書として最適である.また,地震工学や音響学等の関連分野の方,地震波動論の物理数学的側面に興味のある方にもおすすめしたい.
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