小説「図書室」と自伝エッセイ「給水塔」の2編を収めた本です。
(a) 「図書室」は、1人暮らしの女性が、遠い過去の小学生時代に、放課後に通った公民館の図書室にまつわる思い出をたどる物語です。大きな事件は起こらず、そこで出会った男の子とのやりとりを中心にストーリーは進んでいきます。
女性の現在の淡々とした日常、そして雨や冬の日というようにモノトーンを感じさせる中に、母や猫との暖かな思い出、大晦日の日の少年との「冒険」など、ほのかに暖かな色合い、印象を感じます。また、読後に、過去への邂逅を通じて たゆたうような感覚がただよう、ちょっと不思議な感じの作品。読後感の良い作品です。
(b) 「給水塔」は著者の自伝エッセイなのですが、「千林商店街、1991年ごろ」、「我孫子町、1999年ごろ」、「北新地、1989年ごろ」というように、これもやはり著者自身の遠い過去にさかのぼる話で、昔の大阪の空気感もあいまって、独特の雰囲気を漂わせている作品です。
単に昔を振り返っている作品ではなく、読んでいて、その世界に浸ってしまうような味わい深い作品になっています。
2つの作品ともに、大阪の空気感が重要な味付けになっており、「土地勘」のある関西の人にとっては、特に味わい深く読める本かもしれません。
独特の雰囲気をもった作品なので、日常の喧騒・あわただしさから、ちょっと離れて、この本の空気に浸ってみるのも心地よい体験と思います。お薦めできる作品と思います。
- 単行本: 173ページ
- 出版社: 新潮社 (2019/6/27)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 4103507225
- ISBN-13: 978-4103507222
- 発売日: 2019/6/27
- 商品パッケージの寸法: 12.8 x 1.9 x 18.8 cm
- おすすめ度: 3件のカスタマーレビュー
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