刑務所内で大学レベルの教育を実施するプログラム「刑務所から大学へのパイプライン」を担当する著者は、刑務所や司法制度に対する問いなおすため、サバティカル休暇などを利用し、9か国の刑務所を回ることにする。アメリカのニューヨーク市立大学(CUNY)ジョン・ジェイ・カレッジ・オブ・クリミナル・ジャスティス教授の著者だが司法は専門でない。
なお、ジェイ~は刑事司法教育で有名であるとのこと。
本書は、それぞれの刑務所と囚人、そこで著者が行った実践の様子などが描かれている。ただ、それぞれの刑務所の施設や設備、セキュリティや収容されている囚人などは、その国の歴史を反映しているため、そのことにも触れている。
例えば、ルワンダであれば1990年代のジェノサイドが影を落とし、南アフリカ共和国ではアパルトヘイトの残滓が伺える。
民営化がすすんだオーストラリアの刑務所、徹底した厳罰主義のために増えすぎた囚人の社会復帰に取り組むシンガポールの最新施設、今の日本から考えると驚くほど開放的なノルウェーの刑務所なども印象に残る。
ブライアン・スティーヴンソンの『黒い司法』にも書かれているが、アメリカは厳罰主義に舵をきったために、薬物関連の場合、薬物であることを知らずに恋人に頼まれ運ぶのを手伝ったためだけで刑務所に入れられているケースもある。そのため囚人の収容人数が増え、それにかかる費用が増大した。それもあって、著者も述べているように、揺り戻しもあるようだ。日本でも、以前に比べると厳罰主義に傾きつつあるようだが、薬物関連などは諸外国に比べると厳しくない。それでも、本書で紹介された開放的な刑務所と比べると厳格であり閉鎖的に見える。そのことが、囚人たちの社会復帰に影響を与える可能性は否定できない。
著者が幾度となく指摘するのは、独房拘禁が囚人に与える問題点はあまりにも大きすぎること、「刑罰」「懲罰」よりも「矯正」「更生」に重点を置いた方が、社会全体にとっては最終的にメリットが大きく、再犯率を低下させ、費用対効果でも合理的であることだ。
犯罪の場合、加害者の家族・友人や被害者の家族・友人たちの心の動きは、当事者にならない限り想像の域でしかない。ただ、社会全体を考える場合、大半の加害者が社会復帰をする以上、合理的な選択肢を考えるのはある意味で当然だと言える。そして、犯罪被害者の心情などをそこに組み込んでいく方が、懲罰・刑罰重視主義よりも遥かに実りあるもののように思うのは私だけだろうか。
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