「この著者は本当に臨床が好きなんだな」というのが読後の印象。
“語りおろし”という形式のため、一見読みやすいように感じるしとっつきやすいのは確かだが、語られている内容はかなり高尚である。
語り形式のため全編に渡って臨場感が感じられるのはよいのだが、反面、専門用語・専門的な内容についての解説がないため不親切に感じる面もある。
本来であれば問答形式をいかしてそうしたものを解きほぐすべきだが、この本の聞き手にはそうした配慮はほとんどなく、単に合いの手を入れているだけという感じが不満点である。
だが、問いの部分をインデックスとして利用すればよいのだと、読了してから気がついた。
自分の興味を惹いた問答を次々と読んでいけば読みやすいと思う。
また、著者の
精神科医になる―患者を“わかる”ということ (中公新書)
を読んでいれば、この本の内容にはすんなり入っていけるだろう。
『精神科医になる』では著者の志の高さとは裏腹に生硬い印象が拭えなかったが、数年を経て多くの臨床体験が著者を柔軟にさせた感じがする。
著者の次の言葉は印象に残った。
「『存在構造』が、どこかの壁に投影された像だけを見て、我々は治療を行おうとしているのです。その像の揺らぎを見ながら薬を出したり言葉をかけたりしているというイメージですね。直接は捕まえられないものと感じています。」
また統合失調症の患者を指して、
「とてもデリケートで、微細な場の変調なども感知する力を持った人たちですからね。ともかく統合失調症の患者さんに対しては、治療するより前に治療者が有害であってはならない、とも言われ、それくらいデリケートな存在です。」
科学における観察は重要な行為であるが、その観察行為そのものが現象に変化を与える――つまり正確さを乱すことが時に問題となる。精神科診療もこれと似た行為なのであろう。
精神科の診療とは、細心の注意・配慮が要求される繊細な行為であり、あわせて終わることのない研鑽を診療者に求めるようだ。
全編を通じて、精神科医という医者の中でも色眼鏡で見られがちな分野を選択した著者の試行錯誤やあがきぶり、そして覚悟が伺え、精神科診療に興味があれば一読の価値があると思う。
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