※廉価版Blu-rayのレビューです。
正しい原題は「ストレンジラブ博士あるいは私は如何にして心配することを止めて水爆を愛するようになったか」で、博士名まで訳して短縮したのが邦題だ。異常な作品意図が原題の方に隠れている。
戦略空軍本部管轄のリッパー将軍の独断によるソ連核攻撃命令に端を発する米ソ全面戦争リスクを扱った核クライシス映画。世紀の鬼才スタンリー・キューブリックは、全人類の命運を握るかもしれない深刻な警鐘を、風刺を効かせたコメディとして極めて真面目に演出した。脚本は優れて洗練されたもので、一言一句に無駄がなく格調高い。軍事技術や戦略思想に関わる高精度な考証と、実在の将軍をモチーフにしたリアリズムには目を見張る。
超タカ派や狂信的愛国主義者、共産主義への被害妄想者、ドイツ出身のMADサイエンティスト達が跳梁跋扈する緊急作戦会議室でのやり取りは、クールを通り越してフリーズ級のブラックさ。特に主役など三役をこなしたピーター・セラーズの怪演が特筆すべき素晴らしさだが、その他の全演者の表情と発する淡々とした言葉一つ一つが切れ味抜群で、とてつもなく重く恐ろしい。
米ソ両国とも核兵器の開発・配備競争に猛進した結果、その指揮統制システムの整備が追い付かなかった実態が赤裸々に描写される。本作の主題とは破滅的水準にまで高まった軍事技術を統制する人間側の限界にあるのだが、その答えが自動化シークエンスになるのが真の恐怖だとしたら論理的な出口はあるのかと問い掛ける。
映像特典として当時の軍事機密情報コメントや当時軍内部にいて現在は軍事コンサルタントの人達のオーディオコメンタリーが生々しく、是非とも二回目視聴の際に試して欲しい。本作が相当に迫真に満ちた問題作だったことが理解できる。
冷戦直後に一気に進んだ核軍縮に確実に影響を与えた筈であり、恐怖を畏れる故の恐怖、相手を完璧に上回る物量信仰の愚かさに、今から55年も前の1964年に広く世にも知らしめ、後世に遺したのだからキューブリックの偉業とは神の宣告クラスだ。
Blu-rayはモノクロを美しく再現し、吹替え陣は文句の着けようのない完璧さ。「こんな事態は絶対に起こり得ない」との米軍の否定コメントに始まり、優雅なメロディで締めるエンディング迄の95分・公開ノーカット版は、観る者は驚き、恐怖、焦燥、笑い、決意の混濁した、身震いする様な独特の感覚に包まれるだろう。
S・キューブリックの不屈なDNAこそ、我々は今後も“体液”にせねばなるまい。全人類にとって☆10クラスの世紀の傑作です。
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