私は、この本を読みながら、自給自足とは何だろうかと、考えながら読んでみた。正直50歳を目前に迫った年になり、これからどう生きていくべきかを考えていた。この本は意外と手に入らないらしく、なるほど読んでみて手放したくない本なのだろうと思える内容だった。
無農薬・無肥料・無耕転(不耕起ともいう)に挑む人、コミュニティで自分のノウハウを惜しげもなくシェアする人など様々な人々が登場するが、その土地の将来の七代先までを見据えた、短期的な収穫だけを意識しない長期的な本来の環境の大切さを考える人がいるのだなと素直に関心した。
「引き算の暮らし」というのは、古来から日本人が得意とする方法であって、枯山水の様に「水」を意識する為に敢えて水の抜くことを考え出した例が有名だ(松岡正剛「
日本という方法 おもかげ・うつろいの文化
」参照)。味噌でも自作した方が環境の中の生態系を意識出来るので子供の教育にはいいのだ。微生物学の学習の端緒にもなる。「手前味噌」という言葉が古くからあるが、昔はどこでも味噌は自分で漬けていたし、私の父の実家も自作の「田舎味噌」を持っていた(かなり匂いがきついので苦手だったが)。調味料に関しても、ほとんどが自作できるのだが、それを行わない様になったのは、本来社会に埋め込まれていた「経済」が、逆に「経済」が社会を支配する様になったからだ。カール・ポランニーの著書「
[新訳]大転換
」でそのことを指摘する。
この著者もF1種に関してかなり警戒している。その思想が問題だとしている。実は私も同感で、野口勲「
タネが危ない
」の中でその地域ごとに固有の品種があったのに、F1種が生まれたことで種苗会社の種、そして農薬を買い続けなければいけない「仕組み」が生まれてしまったことを指摘している。私はこれが実は最も由々しき問題だと思っているが、地域に根差した「固定種」をもっと普及させれば自給自足もかなり容易になるはずだ。
地域通貨の普及もさらりと述べているが、その地域のコミュニティを活性化させるなら地域通貨こそ突破口になり得ると思うが、日本の法律はそういう様に出来ていない。作家・ミヒャエル・エンデをインタビューした「
エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと
」を読むと、近代経済学の犯した過ちに気づくはずなのだが、多くの学者達はミヒャエル・エンデが語る「ファンタジー」としか思っていない様で残念だ。シルビオ・ゲゼル「
自由地と自由貨幣による自然的経済秩序
」は地域通貨の可能性を指摘した稀有な本としてお勧めした本だ(難解だが、実はこの本、版権が切れているのでネットでPDF版が無料で手に入ります)。
著者の塩見氏は山内昶「
経済人類学への招待―ヒトはどう生きてきたか
」も読んでいる様だ。この山内氏は経済人類学者マーシャル・サーリンズ「
石器時代の経済学
」の翻訳もしている人だ。この本の中でマルセル・モースの「
贈与論
」の解説に1章費やしている。すると巡り巡って「贈与経済」の大切さが浮かび上がってくるはずだ。自らのノウハウを広くシェアすることが現代ではもっと必要のされると私は思うのだ。ネットが普及した現代では、贈与がやがて「再分配」、「交換」を生み出したことを「発見」できるはずだ。物々交換を先に考えるので、近代経済学はおかしな論理になってしまったと思う。
最後に私なりにひっかかっていた言葉に「百姓」がある。この用語も網野善彦「
中世再考
」によれば、「さまざまな姓で呼ばれる人々」という意味が本来であり、職業を固定された江戸時代から「農家≒百姓」という意味に定着したことが判明している。それに江戸時代でも農家をしつつ、廻船問屋を営む輪島の人々や漁業や職能、商業、大工もしながら複数の仕事を掛け持ちする「自由」さが中世から存在していたのだ。多くの一般の人々は「百姓」は農家のことと思い込んでいる。でもこれは日本人の「農業史観」による最大の間違いだ。兼業、いや社会の中で様々な仕事を複数営むことが本来の日本人の姿だったのだ。この点だけは指摘しておきたかった。
経済成長など「死の舞踏」に等しいと思っている私も、身体も厳しくなってきたので転換時だと思っている。こういうものはいきなり始めると失敗するので少しずつ出来ることから始めるべきなのだろう。けれど両親がいるうちは難しい気もする。
追記 ウィズコロナにあって、輸出入や物資交流の断絶が徐々に生まれつつある。日本も海外からの作物の輸入に頼るのではなく、地産地消を本気で考える時期だろう。その為には、現金経済と現物経済を併用して、器用に渡り歩く技量がこれから必要とされると思う。アフターコロナ?そんなものが本当にあると思ってますか?
(2020.9.14)
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