いま、病院で働く多くのソーシャルワーカー(MSW)たちは、退院・転院を進めることだけが自分たちの仕事ではないと考えながら、それでも多くの時間をこの業務に割いている。
本書は、MSWの立場から、退・転院支援という課題を正面から取り上げた本である。
MSW出身の研究者である著者が「効果的な退院・転院支援」を論じることは、当然であると同時に、大胆だと言えるかもしれない。病院経営者や、MSWと一緒に働く他の専門職の人々が、「優秀なMSW=有能な追い出し係」と考えるような風潮が一部にある。医療ソーシャルワークの課題は幅広く複雑なのだと、MSWが反発しても不思議ではないからである。
この点について次のように言うところに、著者の見識がある。
「多くのMSWにとって、退・転院支援が主業務になっている実情がある。…それでも、患者が病気や障がいを抱えて今後どう生活していくのかを、患者及び家族と一緒になって考えていくことに重きを置いているMSWにとって、在院日数を短くしたり、在宅復帰率を向上させたりすることだけが、退・転院支援の最終的な目的ではない。」
医療現場の実情を踏まえて、ソーシャルワークとしての退・転院支援にいかに取り組むか。そこで著者が着目するのが「退・転院についての意思決定・自己決定支援」であり、その支援の質である。
著者が取り組んだ調査は実に膨大である。第3章「患者と家族の退・転院先の意向」(第1調査、第2調査)、第4章「自宅退院後の患者と家族の不安・困り毎」(第3調査、第4調査)、第5章「療養型病院・施設等への転院制約要因とそれを有する患者への取り組み」(第5調査、第6調査、第7調査)の7つの調査結果によるmixed methodが駆使されている。
中でも、「患者と家族の退・転院先の入院時意向が異なった事例」「短期間で再入院に至った事例」「転院制約要因」などは、実践家ならではの鋭い切り口といえる。退・転院プロセスとその支援の複雑さに多角的に迫っている点で、圧巻といえる。
5つの転院制約要因(医療行為を要する、転倒・転落対策を講じている、行動障害を有する、経済的困難あり、保証人なし)を分析し、これらを早期に把握する意義を示していることも、医療現場ですぐにでも応用可能な知見である。
さらに、「保証人の有無」の影響の大きさ、有効な対応方法にまで踏み込んだことで、新たな研究課題と同時に病院運営、医療・介護政策の課題をも提起したと言える。
これだけの調査を実施できたこと自体が、その基礎となった実践の質、著者自身もその一員であった医療現場の志の高さ、患者・家族と伴に退・転院支援に取り組みえていたことの証拠であることを、忘れてはならない。こうした研究に、より多くのMSWが取り組むことが、医療ソーシャルワークをより精密でかつタフに鍛え上げていく道なのではないか。
現場で働くMSWだけでなく、彼らと連携・協働する専門職や患者・家族にも、本書が読まれることを期待したい。
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