進化論においてもっとも中核をなす理論は自然淘汰説であり、生存に有利な遺伝子の表現形が少しずつではあるが蓄積するというものである。その中で、利他的行為を促す遺伝形質が自然淘汰で選別され繁栄するということは長い間謎であった。利他的行為ではその行為者自身が生存繁殖する有利さが見えない場合があるからである。
この矛盾に満ちた謎に最初の光をあてたのは、ハミルトンが真社会性昆虫で仮説提案した「血縁選択説」であった。 個々の個体レベルでは利他行為に見えても同属の遺伝子レベルの総数では有利な行為として、利他行為を捉えなおしたのである。これは、その後、ドーキンスの「利己的遺伝子」の理論に繋がっていくのである。
しかし、利他行為はこの血縁選択説だけでは説明のつかないものもあり、特に人間における倫理・道徳に基づく利他行為は血縁選択説では説明が不可能であった。これを補う理論としてトリヴァースが「互恵的利他主義(互酬的利他行為)」を唱えた。この成立の前提には互恵が長期的には短期の犠性より長期の利益が上回るといった条件のほかに、・長期的な社会関係の持続があり、・不正や裏切りを感知し罰を与え、・それらを社会から除外する、と言う道徳的ルールの確立も併せて成立している必要があるということがゲーム理論などから分かってきた。
この「利己的なサル、他人を思いやるサル」でヴァールはフィールドに置ける豊富な観察に基づき、類人猿やサルの仲間において上記の条件を満たした互酬的利他行為と道徳ルールがプリミティヴではあるが成立している事実を報告している。親密な血縁関係である家族においては血縁選択説も有効ではあるが、互恵的利他主義はその理論を包含するより広い概念であり、類人猿やサルなどに見られるこの社会関係が人間の倫理・道徳の進化論的な起源であるという主張には説得力がある。
なまじの道徳学者や宗教家の倫理・道徳の説教よりはるかに説得力のある倫理学の話になっている。星五つを進呈したい。この副作用として進化は個体一人ひとりではなく、種或いは社会の群を単位として機能しているということを改めて感じさせるものである。
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利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか 単行本 – 1998/1/1
障害のある仲間を助ける地獄谷のニホンザルや盲目の兄弟をかばうアカゲザル。慈愛に満ちた霊長類たちの行動から、人間社会のモラルの本質を探る示唆にとんだ一冊。
- 本の長さ366ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日1998/1/1
- ISBN-104794207999
- ISBN-13978-4794207999
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
日本の地獄谷温泉に棲むニホンザルの老メス「モズ」は生まれつき両手両足の先がない奇形ザルだが、仲間のサルたちは独りで生きられない彼女を助け、モズは子どもや孫に囲まれた豊かな一生を過ごしている。一方、チンパンジーに一匹だけこっそりエサの隠し場所を教えると、チンパンジーは仲間たちに巧みにうそをついて食べ物を独り占めする。人間もまた、一見エゴイストにみえて献身的だったり、お人好しのようでわがままだ。いったい、この二面性はどこから生じるのか?利己的なはずの動物に、モラルはなぜ生まれたのか?『政治をするサル』で一躍世界の注目をあびた霊長類学者が、豊富なエピソードと卓抜した分析力を駆使して道徳性の起源を探る。
内容(「MARC」データベースより)
自分を犠牲にして他人のためにつくすという一見道徳的な行動も実は…。霊長類の行動、救済、援助、抗争、報復などを豊富なエピソードと卓越した分析力を駆使して解説、人間のモラルの起源を探る。
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登録情報
- 出版社 : 草思社 (1998/1/1)
- 発売日 : 1998/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 366ページ
- ISBN-10 : 4794207999
- ISBN-13 : 978-4794207999
- Amazon 売れ筋ランキング: - 372,952位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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2011年8月26日に日本でレビュー済み
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2014年1月6日に日本でレビュー済み
『チンパンジーの政治学』(産経新聞出版)、『仲直り戦術』(どうぶつ社)に続く、フランス・ドゥ・ヴァールの第三作である。今回のテーマは「道徳性」。その道徳性に動物行動学からアプローチする方法を示した点で、本書もまた記念碑的な1冊として高く評価されている研究書である。
さて、人間以外の動物も道徳性をもっているだろうか。ドゥ・ヴァールはその問いに対して決定的な答えを与えてはいないが、しかし、次のことはたしかだという。すなわち、人間の道徳性の基盤となるような感情や認知能力を、ほかの動物(とくに類人猿とサル)も共有しているということである。具体的には、共感と認知的感情移入(第2章)、社会規範の遵守と維持(第3・4章)、そして和解と紛争の調停(第5章)が、本書では議論されている。そしてドゥ・ヴァールは、おもに類人猿とサルの具体例を挙げながら、それらの共有を示す証拠を積み上げていくのである。
類人猿とサルのエピソードをおもしろおかしく読ませるというのが、名人ドゥ・ヴァールの真骨頂だろう。本書でもまた、アーネム動物園におけるチンパンジーの権力闘争など、彼らの具体的なエピソードがふんだんに紹介されている。ただ本書は、前二作に比べて理論的色彩の濃い本である。個々のエピソードを楽しみつつも、それらが何の証拠となっているのかをきちんと把握しておくことが、本書を読み進めていくうえでは肝要だろう。
ドゥ・ヴァールが目指す理論的方向性はそれほどわかりやすいものではないかもしれない。その意味では、議論のまとめを提示している最終章から読みはじめるのが役に立つように思う。そして本書を読み終えたら、ドゥ・ヴァールのその後の展開を示す『共感の時代へ』(紀伊國屋書店)などにもぜひチャレンジしたいところである。
さて、人間以外の動物も道徳性をもっているだろうか。ドゥ・ヴァールはその問いに対して決定的な答えを与えてはいないが、しかし、次のことはたしかだという。すなわち、人間の道徳性の基盤となるような感情や認知能力を、ほかの動物(とくに類人猿とサル)も共有しているということである。具体的には、共感と認知的感情移入(第2章)、社会規範の遵守と維持(第3・4章)、そして和解と紛争の調停(第5章)が、本書では議論されている。そしてドゥ・ヴァールは、おもに類人猿とサルの具体例を挙げながら、それらの共有を示す証拠を積み上げていくのである。
類人猿とサルのエピソードをおもしろおかしく読ませるというのが、名人ドゥ・ヴァールの真骨頂だろう。本書でもまた、アーネム動物園におけるチンパンジーの権力闘争など、彼らの具体的なエピソードがふんだんに紹介されている。ただ本書は、前二作に比べて理論的色彩の濃い本である。個々のエピソードを楽しみつつも、それらが何の証拠となっているのかをきちんと把握しておくことが、本書を読み進めていくうえでは肝要だろう。
ドゥ・ヴァールが目指す理論的方向性はそれほどわかりやすいものではないかもしれない。その意味では、議論のまとめを提示している最終章から読みはじめるのが役に立つように思う。そして本書を読み終えたら、ドゥ・ヴァールのその後の展開を示す『共感の時代へ』(紀伊國屋書店)などにもぜひチャレンジしたいところである。
2016年1月20日に日本でレビュー済み
絶対的な善と悪、罪と罰があって、人は神によって行動を裁かれている?
原因と結果に善悪があるのか?ないのなら、この世は寒々しすぎないか?
そんな疑問への考察に役立つと思い購読。
種や社会には、それぞれのモノサシで善悪があり、
そこには人間と同じように政治的駆け引きが行われている。
そこに、利己的とか利他的と解釈するのは、人間の性だとしても、意味がないのだろうか。
結局示されていないが、なんだか力が抜けた。
原因と結果に善悪があるのか?ないのなら、この世は寒々しすぎないか?
そんな疑問への考察に役立つと思い購読。
種や社会には、それぞれのモノサシで善悪があり、
そこには人間と同じように政治的駆け引きが行われている。
そこに、利己的とか利他的と解釈するのは、人間の性だとしても、意味がないのだろうか。
結局示されていないが、なんだか力が抜けた。





![NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2013年 03月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/71OYcxeEiTL._AC_UL160_SR160,160_.jpg)

