原子力発電の発電コストを議論する際によく引用される
環境経済学が専門の大島堅一教授の著作です。
日本の原子力発電のコスト計算の章は確かに精密で、
読み応えがありますが、著作全体としてみると原子力発電についての言及は
あくまで著作の一部だという印象を受けました。
この本のメインテーマは再生可能エネルギーの各国特にドイツなどの
エネルギー政策の解説・評価、それに対する日本のエネルギー政策の
問題点の洗い出しが中心になっています。
原子力発電の総単価について。
各種メディア等でエネルギー白書の発電単価がよく紹介されますが、
これがモデルケースを想定した予測値であり、
実績値ではないことが正しく解説されていないことが多い。
大島教授は経済学者の室田武氏の手法を拡張して有価証券報告書から
実際にかかった発電コストを計算しなおしています。
室田氏と大島氏の計算上の主な違いは揚水発電のコスト計算で、
大島氏は原子力発電の発電コストから揚水発電所における揚水でない純粋な
水力発電の分を省いています。
原子力発電はkwhあたり約10.68円、火力が約9.9円程度です(揚水発電を原子力の総単価に含まない場合)。
揚水発電を含めるかどうかは議論のわかれるところかもしれません。
しかし本書を読む限り、揚水発電が原子力発電にとって必須と考えているのは電力業界自身だと言う風に読めます。
原理上はピークカットの設備なので原子力発電がなくても使用で来ますが、
発電コストの仕組み上、火力発電などがベースの時に利用すればかえって損なはずです。
いずれにしても、揚水発電が占める割合はわずかなものです。
揚水発電を含めれば原子力発電が最も割高であるとただちに判断出来ます。
しかし国策で進められている原子力発電の場合、
現在の想定より多額になる可能性の高いバックエンド費用などを考えあわせると、
国民の負担としては原子力発電は安くないという結論でよいと個人的には考えました。
注意しなければいけないのは、大島教授は明確に区別されていますが、
電力料金に含まれる単価である発電単価と、
税金を投入するコストを含めた総単価は同じではないということです。
電力会社が負担するコストは純粋に発電単価のみなので、化石燃料の値段の動向によって、
火力発電より原子力発電が割安の場合もあります。しかし電力会社や経済界の言葉を
鵜呑みにして原子力発電の比率を増やすと、国民の負担としては割高になる可能性が
高くなります。
原子力発電のコスト面でメリットがあるとすれば、この本でも折れ線グラフがありますが、単価が安いということではなく、単価の安定性です。これは化石燃料を使わない発電手段全般に言えることです。
長期エネルギー需給見通しについて。
全般的に国の出す見通しや予測は楽観的かつおおざっぱな印象です。
先の発電単価でも、設備利用率80%で計算しています。
エネルギー需給見通しについても、計算のモデル・想定などが明らかでないこと、
政策上の規制を想定せず単純に右肩あがりを予測していること、
また省エネ効果の計算が省エネ効果のない需給予測を別個に計算しその後に省エネ効果分を差し引いているので恐らく算定方法に誤りがある(元のエネルギー需要が絶えず省エネ効果なしになっている?)など指摘されています。
固定価格買い取り制度について。
本書ではヨーロッパのエネルギー政策と電力自由化について
詳しく解説されていますが、特に電力の買い取り制度についてとても勉強になります。
固定買い取り制度については、よく補助金のようなイメージで語られます。
しかし本書の解説を読むと、これは電力自由化を前提とした、
入札制度の一種だということがわかります。全量買い取り制度のもとで、
最も高い発電単価と低い発電単価の発電業者が存在する場合、
その中間値のどこかに買い取り価格を設定すると、高い発電単価は淘汰され、
低い単価は利益を最大化するためにより低くなるのです。
本書ではこの他に通常の入札制、固定枠制度なども紹介されています。
ドイツなどで固定価格買い取りによって自然エネルギーの発電比率があがったのは、
様々な入札制のうち、固定価格制度がもっとも効率的・安定的だったからです。
通常の値段を決めない入札制では、発電単価はより安くなりますが、
参入業者のドロップアウトが増えること、入札した安い電力がその後の経済変化などで
維持出来なくなり未発電部分が増える、新規参入に際して投資計画が立てにくい、
などのデメリットがあります。
固定価格買い取り制度は、電力自由化のもとで電力会社の事業安定性とのバランスをもった制度だということです。
このあたりの解説を読むと、逆に日本の電気料金の高さが本質的には発電手段の問題ではなく、
発電単価に対する固定利益上乗せという制度と地域独占にあるような気もしてきました。
著者は発電設備はインフラなので、イノベーションのない環境負荷の高い発電事業を引きずることは、
それが数10年単位の設備であることを考えると、
長期にわたって日本に対して経済的不利益と高い環境負荷を引き起こすとおっしゃっています。
想像するに、著者は短期的には割高でも再生可能エネルギーを増やしていく政策が
妥当だと考えているのではないでしょうか。おそらくドイツも、再生可能エネルギーが
現時点では割高でも、イノベーションと規模の経済で発電単価の低下を目指しているのではないかと思いました。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。

1分以内にKindleで 再生可能エネルギーの政治経済学―エネルギー政策のグリーン改革に向けて をお読みいただけます。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。