今回辻原さんの作品は初めてでしたが、インターネットで拝見し、興味がありましたので、面白そうな
作品を読んで見ました。文体、構成共に良く練られていて楽しめました。卓越した資料調査とふーんそういうことか。と、してやられたような読後感が爽やかでした。楽しみは虚実の他にもあるんですね?物書きの知性に触れたような気がして嬉しかったです。又読みたくなる作家だと思います。
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円朝芝居噺 夫婦幽霊 (講談社文庫) 文庫 – 2010/3/12
ある文学者の遺品から見つかった奇妙な暗号文。明治期に隆盛した田鎖式速記で書かれた暗号を解読すると、そこに書かれていたのは江戸時代の噺家、名人・三遊亭円朝、幻の落語だった!? 安政の大地震以前、江戸城から盗まれた四千両、その金に絡む色と欲。円朝よりも円朝らしい噺には、もうひとつ大きな噺が隠されていた……。磨き上げられた文章で円朝の怪談噺を蘇らせた手練れの一作。(講談社文庫)
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2010/3/12
- ISBN-104062766124
- ISBN-13978-4062766128
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
さる文学研究者の遺品から見つかった奇態な暗号文。明治期に隆盛した田鎖式速記の継承者を探して解読にこぎつけると、名人円朝の幻の落語だった!?安政の大地震より前、江戸城の御金蔵から四千両が盗まれるという前代末聞の大事件にからむ色と欲。円朝がこよなく愛した幽霊画を主題にした傑作噺が甦る。
著者について
辻原 登
1945年和歌山県生まれ。'90年「村の名前」で芥川賞、'99年『翔べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭円木』で谷崎潤一郎賞、'05年「枯葉の中の青い炎」で川端康成文学賞、'06年『花はさくら木』で大佛次郎賞、'10年『許されざる者』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞。著書に『マノンの肉体』『だれのものでもない悲しみ』『黒髪』『発熱』『約束よ』『ジャスミン』『夢からの手紙』『抱擁』などがある。
1945年和歌山県生まれ。'90年「村の名前」で芥川賞、'99年『翔べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭円木』で谷崎潤一郎賞、'05年「枯葉の中の青い炎」で川端康成文学賞、'06年『花はさくら木』で大佛次郎賞、'10年『許されざる者』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞。著書に『マノンの肉体』『だれのものでもない悲しみ』『黒髪』『発熱』『約束よ』『ジャスミン』『夢からの手紙』『抱擁』などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
辻原/登
1945年和歌山県生まれ。’90年「村の名前」で芥川賞、’99年『翔べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭円木』で谷崎潤一郎賞、’05年「枯葉の中の青い炎」で川端康成文学賞、’06年『花はさくら木』で大佛次郎賞、’10年『許されざる者』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1945年和歌山県生まれ。’90年「村の名前」で芥川賞、’99年『翔べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭円木』で谷崎潤一郎賞、’05年「枯葉の中の青い炎」で川端康成文学賞、’06年『花はさくら木』で大佛次郎賞、’10年『許されざる者』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2010/3/12)
- 発売日 : 2010/3/12
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 256ページ
- ISBN-10 : 4062766124
- ISBN-13 : 978-4062766128
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,029,213位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 13,052位講談社文庫
- - 21,679位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1945年、和歌山県生まれ。1985年「犬かけて」でデビュー。90年「村の名前」で第103回芥川賞受賞。99年『翔べ麒麟』で第50回読売文学賞、 2000年『遊動亭円木』で第36回谷崎潤一郎賞、05年「枯葉の中の青い炎」で第31回川端康成文学賞、06年『花はさくら木』で第33回大佛次郎賞、 10年『許されざる者』で第51回毎日芸術賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 闇の奥 (ISBN-13: 978-4163288802 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年5月24日に日本でレビュー済み
芥川と円朝の息子、朝太郎による共同作業ってシナリオ。
「円朝をやりなさるんならセオリィ(理論)だけはいけません。ぜひロマンス(物語)をおやりなさい。それもうんと長尺ものをね」って言葉が、「群像」連載にはなかった“訳者後記”っていう書き下ろし部分に出てくるんだけど(“この単行本だけの種明かし”って企みにも思わず唸る)、それこそが文学であり、しかも、まさにこの「円朝芝居噺 夫婦幽霊」は、理論+物語しかも長尺ってのに120%適った作品になっているんだよなぁ。もう辻原登の力量っていうか円熟ぶりはすごい。全体構成のメタメタな仕掛けとか、注記部分に組み込まれた質の高いお遊びとか、カギ括弧、手紙、速記、口述といったディテールをめぐる文学論とか、本当に楽しめるよなぁ。丸谷才一的でもあるけれど、キレ味が鋭い。しかし、「語り」っていう、常に揺らぐ、語るたびに違う、あるいは客を前にしたインタラクティブ性ってのは古くて新しい可能性だよな。円朝は噺家って概念を突き抜けていて、読み始めた時、これ、今の噺家だったら誰がやれるだろうなんて思いながら読み進めたんだけど、この豊穣な物語、今出来る人いないね。語り部としての力量もあり、時事性もあり、人間の業が表現できて、艶っぽさも出せて......いないよなぁ。意外に小沢昭一あたりかもしれないけど、それじゃつまんないよなぁ。でもこれで落語を聞く楽しみがひとつ増えたかも。生きている間に「夫婦幽霊」を語れる人が出てくるかどうか?っていうね。ほんと、「夫婦幽霊」をナマの語りで聞いてみたい。
「円朝をやりなさるんならセオリィ(理論)だけはいけません。ぜひロマンス(物語)をおやりなさい。それもうんと長尺ものをね」って言葉が、「群像」連載にはなかった“訳者後記”っていう書き下ろし部分に出てくるんだけど(“この単行本だけの種明かし”って企みにも思わず唸る)、それこそが文学であり、しかも、まさにこの「円朝芝居噺 夫婦幽霊」は、理論+物語しかも長尺ってのに120%適った作品になっているんだよなぁ。もう辻原登の力量っていうか円熟ぶりはすごい。全体構成のメタメタな仕掛けとか、注記部分に組み込まれた質の高いお遊びとか、カギ括弧、手紙、速記、口述といったディテールをめぐる文学論とか、本当に楽しめるよなぁ。丸谷才一的でもあるけれど、キレ味が鋭い。しかし、「語り」っていう、常に揺らぐ、語るたびに違う、あるいは客を前にしたインタラクティブ性ってのは古くて新しい可能性だよな。円朝は噺家って概念を突き抜けていて、読み始めた時、これ、今の噺家だったら誰がやれるだろうなんて思いながら読み進めたんだけど、この豊穣な物語、今出来る人いないね。語り部としての力量もあり、時事性もあり、人間の業が表現できて、艶っぽさも出せて......いないよなぁ。意外に小沢昭一あたりかもしれないけど、それじゃつまんないよなぁ。でもこれで落語を聞く楽しみがひとつ増えたかも。生きている間に「夫婦幽霊」を語れる人が出てくるかどうか?っていうね。ほんと、「夫婦幽霊」をナマの語りで聞いてみたい。
2016年3月13日に日本でレビュー済み
やはり私もNHKのラジオの新名作座で知りました。
知らなかった事を知る楽しさにも満ちてます。
冒頭は、辻原氏の過去作「黒髪」で不明だった原稿と関係者のその後が知れる姉妹編のような形で始まります。
常軌を逸した実在の二人が実際に出会っていた話から、よくこういう話を思いついて精巧に作り上げたものです・・・。
オチは現実を離れた気味の悪さも残ります。
百物語の話だの行方不明者だの入手経路不明の原稿だの、相次いで早死にした友人夫婦だの、装飾もチラチラと
気味悪いです。落語家の江戸怪談ってより、怪奇めいてますね。
知らなかった事を知る楽しさにも満ちてます。
冒頭は、辻原氏の過去作「黒髪」で不明だった原稿と関係者のその後が知れる姉妹編のような形で始まります。
常軌を逸した実在の二人が実際に出会っていた話から、よくこういう話を思いついて精巧に作り上げたものです・・・。
オチは現実を離れた気味の悪さも残ります。
百物語の話だの行方不明者だの入手経路不明の原稿だの、相次いで早死にした友人夫婦だの、装飾もチラチラと
気味悪いです。落語家の江戸怪談ってより、怪奇めいてますね。
2009年8月9日に日本でレビュー済み
今となっては、芸人が小説を書き、本を出版する、というのは珍しくない現象だ。三遊亭円朝は、その鼻祖だろう。
円朝の話し言葉を、速記者が書き残す。書かれた速記記号は、書き言葉に、書き言葉は円朝自らの手によって推敲され、一つの小説は、ここではじめて産声をあげる。最低でも延べ数にして、四人の人によって、小説が合作された、ということになる。
〈噺(聞く言葉)〉から、〈文章(読む言葉)〉への翻訳。ライヴと、録音。限られた人たちだけのための娯楽から、不特定多数の人たちのための娯楽へ。円朝が小説を書きたかったのは、より、たくさんの人に、自分の落語の世界を、〈翻訳〉された小説を通して堪能してほしかったからだった。
なにごとも、演出は重要だ。幽霊には、柳、と相場が決まっている。
吾妻橋のたもとまで来ますと、町は橋ぎわまで焼けており、くすぶっておりますが、橋とたもとの柳は無事で、おや、吾妻橋に柳があったっけ、と藤十郎はけげんに思いますが、そのまま橋を渡りはじめました。
夫婦の幽霊がこの吾妻橋のたもとに出る、だと? しかもズブ濡れで。馬鹿馬鹿しい。
(中略)
と、たもとの柳の下に人かげが見えます。おや、柳なんてあったっけ?
安政の大地震と、関東大震災。
富蔵・おりょう夫妻と円朝・仲蔵コンビ、そして、芥川龍之介と円朝長男の朝太郎コンビ。
富蔵の莨入と、朝太郎が盗もうとした莨入。
芥川の偽書『れげんだ・おうれあLEGENDA AUREA』と、辻原登氏の偽書「夫婦幽霊」。
イメージの重なり合いが、虚構と現実とを、今と昔とを、この世とあの世を、それぞれの世界と世界とを重ね合わせ、その境界を壊していく。
〈不肖の息子〉特有の、遊び心・いたずら心、そして、はにかみのあふれる文章は、〈父〉に捧げられた、優しく、美しい作品だ。
円朝の話し言葉を、速記者が書き残す。書かれた速記記号は、書き言葉に、書き言葉は円朝自らの手によって推敲され、一つの小説は、ここではじめて産声をあげる。最低でも延べ数にして、四人の人によって、小説が合作された、ということになる。
〈噺(聞く言葉)〉から、〈文章(読む言葉)〉への翻訳。ライヴと、録音。限られた人たちだけのための娯楽から、不特定多数の人たちのための娯楽へ。円朝が小説を書きたかったのは、より、たくさんの人に、自分の落語の世界を、〈翻訳〉された小説を通して堪能してほしかったからだった。
なにごとも、演出は重要だ。幽霊には、柳、と相場が決まっている。
吾妻橋のたもとまで来ますと、町は橋ぎわまで焼けており、くすぶっておりますが、橋とたもとの柳は無事で、おや、吾妻橋に柳があったっけ、と藤十郎はけげんに思いますが、そのまま橋を渡りはじめました。
夫婦の幽霊がこの吾妻橋のたもとに出る、だと? しかもズブ濡れで。馬鹿馬鹿しい。
(中略)
と、たもとの柳の下に人かげが見えます。おや、柳なんてあったっけ?
安政の大地震と、関東大震災。
富蔵・おりょう夫妻と円朝・仲蔵コンビ、そして、芥川龍之介と円朝長男の朝太郎コンビ。
富蔵の莨入と、朝太郎が盗もうとした莨入。
芥川の偽書『れげんだ・おうれあLEGENDA AUREA』と、辻原登氏の偽書「夫婦幽霊」。
イメージの重なり合いが、虚構と現実とを、今と昔とを、この世とあの世を、それぞれの世界と世界とを重ね合わせ、その境界を壊していく。
〈不肖の息子〉特有の、遊び心・いたずら心、そして、はにかみのあふれる文章は、〈父〉に捧げられた、優しく、美しい作品だ。
2007年6月15日に日本でレビュー済み
実に上手く構成された素晴らしい作品です。
たまたま見つかった明治期の速記本。これを解読してゆくところからこの本は始まります。
そして、円朝の未だ見つかっていない作品が現れます。その作品がこの本の中心となっているのですが、序盤を読んでいると、本当に円朝の新たな作品が見つかったのかと思えてきます。後半になって、何となく近代的過ぎるなと感じてきます。
それにしても、「注」の入れ方一つとっても、全く新たな作品の発見を感じさせてくれます。
「訳者後記」で種明かしをするのですが、円朝の息子朝太郎と芥川龍之介の合作というのも、本当なのかなと疑心暗鬼にさせられます。
作者の作家としてのセンスの光った作品でした。
たまたま見つかった明治期の速記本。これを解読してゆくところからこの本は始まります。
そして、円朝の未だ見つかっていない作品が現れます。その作品がこの本の中心となっているのですが、序盤を読んでいると、本当に円朝の新たな作品が見つかったのかと思えてきます。後半になって、何となく近代的過ぎるなと感じてきます。
それにしても、「注」の入れ方一つとっても、全く新たな作品の発見を感じさせてくれます。
「訳者後記」で種明かしをするのですが、円朝の息子朝太郎と芥川龍之介の合作というのも、本当なのかなと疑心暗鬼にさせられます。
作者の作家としてのセンスの光った作品でした。
ベスト1000レビュアー
肝心の円朝作とされる夫婦幽霊が、なにやら宮部みゆきの時代もの推理小説のようで(それなりに面白いということではあります。でも円朝やら芥川の名前を持ち出されると???という感じです。)、しかも短編といってもいいようなボリュームではどうにも物足りない。この物足りなさを補うためか、夫婦幽霊の前と後ろに、この円朝作と目される速記を読み解く現代の話がくっついている。構成としては凝ったつもりなのでしょうが、あまり面白いとは思えなかった。この構成自体を面白がることはできるのかもしれませんが・・・。
2016年2月7日に日本でレビュー済み
NHK第一ラジオで日曜日午後7時20分から放送されている「新・日曜名作座」で取り上げられていたので聞きました。面白い!!必読です。
2007年8月24日に日本でレビュー済み
本格的な小説の味わいと文学史を舞台とした知的な謎解きに加え、円朝の落語まで楽しめるという贅沢な作品です。 辻原登が「黒髪」という作品に登場させた橘菊彦の遺品が大阪の古書店で見つかったという親戚からの知らせで、作者がその釜利谷書店にいってみると3,4百枚麻紐でくくられたザラ紙の束が見つかります。という出だしから読者は、この話はドキュメンタリーなのかという迷いをもちながら作者の虚実ないまぜの仕掛けの中に引き込まれていきます。
このザラ紙束はなんと三遊亭円朝の未発表の芝居噺、夫婦幽霊の速記録だったのです。
そのような訳で本作は途中から、「円朝にござります」で始まる、5席連続の口演、夫婦幽霊となります。ここの部分は円朝の口演(口演の速記を再現)を聴く形式となっていますので、口座をつとめる名人円朝の仕草や声音が目に浮かび耳に聞こえるような出来栄えです。
作品中でこの連続口演がおわりますと詳しい訳者後記がありまして、ここで作者はもう一度、読者に謎掛けをします。解読をした速記記号の中に円朝存命中(明治33年没)には在った筈のない速記記号が含まれているというのです。そして作者はこの夫婦幽霊は関東大震災後行方が杳としてしれない円朝の一人息子、朝太郎と芥川龍之介による偽書ではないかと推定をするのです。
たしかに円朝の口演は速記を基に新聞連載をされ人気を博したといわれていますので晩年の円朝素材の速記録が未発表のまま存在することはいかにもありそうですが、このように読者を虚実皮膜の間に張り回らした三重四重のトリックの中に迷い込ませることこそ実は作者の狙いであったのではないでしょうか。各章末にぺダンチックな注記を挿入していかにもと読者に納得させる芸の細かさ、まったく辻原登さんは怪しからん人です。(ロングバージョンのレビューは [...]のレジャー→エンタメでどうぞ)
このザラ紙束はなんと三遊亭円朝の未発表の芝居噺、夫婦幽霊の速記録だったのです。
そのような訳で本作は途中から、「円朝にござります」で始まる、5席連続の口演、夫婦幽霊となります。ここの部分は円朝の口演(口演の速記を再現)を聴く形式となっていますので、口座をつとめる名人円朝の仕草や声音が目に浮かび耳に聞こえるような出来栄えです。
作品中でこの連続口演がおわりますと詳しい訳者後記がありまして、ここで作者はもう一度、読者に謎掛けをします。解読をした速記記号の中に円朝存命中(明治33年没)には在った筈のない速記記号が含まれているというのです。そして作者はこの夫婦幽霊は関東大震災後行方が杳としてしれない円朝の一人息子、朝太郎と芥川龍之介による偽書ではないかと推定をするのです。
たしかに円朝の口演は速記を基に新聞連載をされ人気を博したといわれていますので晩年の円朝素材の速記録が未発表のまま存在することはいかにもありそうですが、このように読者を虚実皮膜の間に張り回らした三重四重のトリックの中に迷い込ませることこそ実は作者の狙いであったのではないでしょうか。各章末にぺダンチックな注記を挿入していかにもと読者に納得させる芸の細かさ、まったく辻原登さんは怪しからん人です。(ロングバージョンのレビューは [...]のレジャー→エンタメでどうぞ)