八甲田山遭難事件の真実がよくわかった。実に丹念に様々な記録や証言を調べている。前史から準備、行軍の過程、遭難の様々な様子、救援と捜索、後日談など、記述の仕方がリアルで時系列的で、遭難を追体験している気になり、実に恐ろしい。著者が元自衛官で、同じ聯隊の後継組織に属し、八甲田行軍訓練に何度も参加した体験談を含めて語られるので、リアルさもひとしおだ。遭難が起き、多数の犠牲が出た原因が、装備も準備も経験も足りない部隊に無謀な雪中行軍をやらせ、あげく救援や捜索に全く準備や配慮をしない、怠惰で愚かな司令官(聯隊長)にあるのは明白だ。著者は、報告書に盛られた責任回避のための隠蔽やデマをも暴いていく。そういう上級幹部は、まともな責任は問われず、やがて栄達していく。その現実に、著者の怒りが爆発する。今現在の自衛隊にもそういう体質があり、だからこそ著者は、調べれば調べるほどやるせなくなっていく。後半やあとがきを読むと著者がどんどん落ち込んでいった様がうかがえる。著者の想いに深く共感した。
追記:本書は、同時期に田代超えを成功させ、快挙と称えられることもある第十三聯隊の福島大尉らの行動についても、地元の村落に饗応をたかるのみならず、道案内(嚮導)を多数供出させ、雪の中を長時間にわたり身をもってラッセル役をやらせるなど奴隷扱いし、多数の嚮導の者がその後障害に苦しんだ等の記録を紹介し、福島隊の行動が功名心にかられた犯罪まがい愚挙であったことを暴いている。
八甲田山 消された真実 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2018/1/17
伊藤 薫
(著)
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『伊藤 薫 八甲田山の真実セット』 こちらをチェック
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本の長さ352ページ
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言語日本語
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出版社山と渓谷社
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発売日2018/1/17
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ISBN-104635171922
-
ISBN-13978-4635171922
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
隠ぺいし、ねつ造された「雪中行軍」の真相と真実とは―。最後の生き証人の声や残された関連資料の緻密な調査から浮かび上がった驚愕の新事実。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
伊藤/薫
1958年、青森県生まれの元自衛官。2012年10月、3等陸佐で退官。青森の第5普通科連隊、青森地方連絡部などに勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1958年、青森県生まれの元自衛官。2012年10月、3等陸佐で退官。青森の第5普通科連隊、青森地方連絡部などに勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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カスタマーレビュー
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江川達也氏の日露戦争物語という未完の漫画作品で日露戦争時の第8師団長立見尚文中将(黒溝台回線では臨時立見軍を指揮して戦勝に貢献)が日清戦争の時の平壌攻略でもどれだけえらかったかと描かれているが、著者は1902年の八甲田山雪中行軍大量遭難事件ではその立見が結構無責任なことを述べていることや、その下の当の5連隊長に至っては責任回避に汲々として日露戦後は少将にまで昇進していることを鋭く批判している。著者が元陸自幹部(たたき上げの)ということで、もう少し手心を加えるのかと思ったが、むしろ逆だった。
もちろん最高幹部だけではなく現場でやらかしてしまった大隊長や中隊長に対しても手厳しい。この手厳しさは同じ普通科=歩兵科の隊員として何度も八甲田山中での折衷演習に参加してきた著者ならではとも言える。雪山で行動することへの準備・研究を全くせずに、その時代の装備でも十分に対処できたこともせず大勢が犠牲になってしまったことに対する怒りは、そのような犠牲をもってしても変わることのない「無責任の体系(丸山真男)」に向けられているかのようだ。
もちろん最高幹部だけではなく現場でやらかしてしまった大隊長や中隊長に対しても手厳しい。この手厳しさは同じ普通科=歩兵科の隊員として何度も八甲田山中での折衷演習に参加してきた著者ならではとも言える。雪山で行動することへの準備・研究を全くせずに、その時代の装備でも十分に対処できたこともせず大勢が犠牲になってしまったことに対する怒りは、そのような犠牲をもってしても変わることのない「無責任の体系(丸山真男)」に向けられているかのようだ。
2018年7月26日に日本でレビュー済み
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116年前の日露戦争開戦前夜、厳冬期の八甲田山を行軍訓練中の旧陸軍青森第五聯隊210人が空前の寒気と猛吹雪に襲われ、参加者の95%に当たる199人が凍死した。この惨劇が新田次郎著『八甲田山死の彷徨』と橋本忍脚本の映画『八甲田山』によって人口に膾炙したことは間違いなく、ともに傑作であることも言を俟たない。だが「売れてナンボ」のエンターテインメントにはやはり、読者や観客を飽きさせないためのフィクション、つまり史実を極端に捻じ曲げない程度にストーリーを面白くする、お涙頂戴の仕掛けが施されている。
これに対して、かつて陸上自衛隊青森第五普通科連隊に所属し、厳冬期の八甲田演習に何度も参加した経験を持つ元自衛官の著者は、自らの実体験も踏まえ、史実としての事故の実相を理路整然と冷徹に、そして余すところなく解き明かしていく。旧陸軍省の文書など残された資料を丹念に掘り起こすだけでなく、実体験も踏まえて綴られた史実の全貌は、感覚に訴えるエンターテインメントにはない、圧倒的な説得力と納得感を与えてくれる。依って立つ視点も公平で、まさにこの事故に関する研究書の決定版と言える。「読みにくい」との評が散見されるが、それは文中の小見出しが極端に少ないことに起因する感想だろう。文章自体は実に読みやすく、一気に読み進むことができる。
それにしても当時の第八師団の内部事情、雪中行軍関係者の出自や立場、思惑、野心、さらには雪中行軍実施に向けた準備の実情など、惨劇の背景に存在する史実をこれほど重層的に、かつ分かりやすく分析した書物を他に知らない。能天気な上流階級出身者や学歴エリートの尊大な野心と自己保身、不都合な真実の隠蔽、報告書の捏造、責任の所在に対する追及の甘さと温さ……事故の責任を真っ先に負うべき津川謙光・第五聯隊長はたった軽謹慎七日!その上司の立見尚文・第八師団長と友安治延・第四旅団長は何とお咎めなし。いくら身分制度が色濃かった人権無視の時代とはいえ、これでは無意味に凍死させられた兵隊たちが浮かばれない。事故現場周辺は、100年以上経った今も亡霊が出没すると噂されるそうだが、それもむべなるかなである。
そして惨劇の背景にあるこうした問題点は、何も旧日本軍という暴走マシーンに固有のものでは断じてない。それどころか現代の日本社会そのものが全く同じ問題を抱えながら、何一つ変わることなく、無反省にダラダラと流れている。所詮、日本人(中でも♂)は過去を忘れて未来永劫、仲間内で上から下までもたれ合い、傷を舐め合って生きる、甘ったれた国民なのだ。その観点からすると、著者が本書のあとがき(345ページ)でわずか2行分書き記している「日本の未来」に対する展望はあまりに楽観的で、私には到底賛同できない。
これに対して、かつて陸上自衛隊青森第五普通科連隊に所属し、厳冬期の八甲田演習に何度も参加した経験を持つ元自衛官の著者は、自らの実体験も踏まえ、史実としての事故の実相を理路整然と冷徹に、そして余すところなく解き明かしていく。旧陸軍省の文書など残された資料を丹念に掘り起こすだけでなく、実体験も踏まえて綴られた史実の全貌は、感覚に訴えるエンターテインメントにはない、圧倒的な説得力と納得感を与えてくれる。依って立つ視点も公平で、まさにこの事故に関する研究書の決定版と言える。「読みにくい」との評が散見されるが、それは文中の小見出しが極端に少ないことに起因する感想だろう。文章自体は実に読みやすく、一気に読み進むことができる。
それにしても当時の第八師団の内部事情、雪中行軍関係者の出自や立場、思惑、野心、さらには雪中行軍実施に向けた準備の実情など、惨劇の背景に存在する史実をこれほど重層的に、かつ分かりやすく分析した書物を他に知らない。能天気な上流階級出身者や学歴エリートの尊大な野心と自己保身、不都合な真実の隠蔽、報告書の捏造、責任の所在に対する追及の甘さと温さ……事故の責任を真っ先に負うべき津川謙光・第五聯隊長はたった軽謹慎七日!その上司の立見尚文・第八師団長と友安治延・第四旅団長は何とお咎めなし。いくら身分制度が色濃かった人権無視の時代とはいえ、これでは無意味に凍死させられた兵隊たちが浮かばれない。事故現場周辺は、100年以上経った今も亡霊が出没すると噂されるそうだが、それもむべなるかなである。
そして惨劇の背景にあるこうした問題点は、何も旧日本軍という暴走マシーンに固有のものでは断じてない。それどころか現代の日本社会そのものが全く同じ問題を抱えながら、何一つ変わることなく、無反省にダラダラと流れている。所詮、日本人(中でも♂)は過去を忘れて未来永劫、仲間内で上から下までもたれ合い、傷を舐め合って生きる、甘ったれた国民なのだ。その観点からすると、著者が本書のあとがき(345ページ)でわずか2行分書き記している「日本の未来」に対する展望はあまりに楽観的で、私には到底賛同できない。
2020年2月25日に日本でレビュー済み
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中学生の頃映画を観ました。映画を観てから原作を読み子供ながら組織と人間の強さ弱さを感じた覚えがあります。
でも、ある種の疑問、喉越しの悪さを感じたのも印象でした。
今回この本を読んだ感想は、「やっぱりね」という感じでした。人間も組織も善か悪か黒か白かではなく、立場とか責任とか
功名心とかしがらみとか色々なものが絡みついた中で動くものであるという意味では他の方々がご指摘のような真実かどうか
という疑問点よりも人の弱さ組織の弱さを考えさせる、管理監督者や経営者には読むべき一冊だと思いました。
映画を観て、それから原作を読み、最後にこの本を読むと「本当の人間や組織の姿」というものが実感できるのではないかと思います。
でも、ある種の疑問、喉越しの悪さを感じたのも印象でした。
今回この本を読んだ感想は、「やっぱりね」という感じでした。人間も組織も善か悪か黒か白かではなく、立場とか責任とか
功名心とかしがらみとか色々なものが絡みついた中で動くものであるという意味では他の方々がご指摘のような真実かどうか
という疑問点よりも人の弱さ組織の弱さを考えさせる、管理監督者や経営者には読むべき一冊だと思いました。
映画を観て、それから原作を読み、最後にこの本を読むと「本当の人間や組織の姿」というものが実感できるのではないかと思います。
VINEメンバー
かの有名な八甲田山の遭難についての本ですが、著者の方が色々な資料を
参照しつつ真実に迫っていく…という内容であり、総合して考えれば
消された真実があること自体は間違いないでしょう。ただ、あくまで著者の
推測に過ぎない点や、かなりの思い込みが推測の材料に先立っているので
『真実が明らかに出来ているか』という点で見ると、おそらくではありますが
多々間違っていると思います。
たとえば例を挙げますと、「非常事態で将兵がパニックに陥っていたので
仕官の供述はあてにならない」と言うのは状況を考えると良く判る理屈です。
しかしその後に指揮を執っていた人物の判断を悪し様に、苛烈に責めて
いますが「パニックに陥っていた」可能性を先ほど述べたばかりでしょう。
なぜ指揮を執っていた人間もパニック状態であり正常な判断を出来ない
状況にあったのではないか、という可能性を捨てて無能っぷりを嘲るのかが
理解できません。その人物の判断について述べた証言自体が誤っている(又は
虚偽の供述である)可能性もありますが、そこは全く触れません。
私自身高山で台風に遭い遭難しかけたことがありますが、平時は冷静でも
非常時には冷静さを失うものです。大量の風雨で視界が利かず寒いのは
ある意味、八甲田山ほどでは勿論ないでしょうが通じるものがあると思います。
また、どうしても資料がない部分…個々人の内面、思考、思想など…は著者の
方の完全な推測でストーリーが組み立てられており、考察に先立って極悪人で
あると言う前提があり、それを元に話が展開するため説得力がありません。
つまりは著者さんに「フェアで厳正な視点がなく、無能な指揮官に率いられた悲劇
的な部隊」であるという大前提に則って個々のエピソードがこじつけられていくの
です。いち解釈として物語的に読む分には良いかも知れませんが…個人的には
「後からなら、妄想で脚色すれば何とでも言える」本でしかありませんでした。
あと表紙の写真は「別の部隊の訓練であり、遭難部隊のものではありません」
ので注意。ここは正直、新たな物証だと思って買ったので面食らいました。
参照しつつ真実に迫っていく…という内容であり、総合して考えれば
消された真実があること自体は間違いないでしょう。ただ、あくまで著者の
推測に過ぎない点や、かなりの思い込みが推測の材料に先立っているので
『真実が明らかに出来ているか』という点で見ると、おそらくではありますが
多々間違っていると思います。
たとえば例を挙げますと、「非常事態で将兵がパニックに陥っていたので
仕官の供述はあてにならない」と言うのは状況を考えると良く判る理屈です。
しかしその後に指揮を執っていた人物の判断を悪し様に、苛烈に責めて
いますが「パニックに陥っていた」可能性を先ほど述べたばかりでしょう。
なぜ指揮を執っていた人間もパニック状態であり正常な判断を出来ない
状況にあったのではないか、という可能性を捨てて無能っぷりを嘲るのかが
理解できません。その人物の判断について述べた証言自体が誤っている(又は
虚偽の供述である)可能性もありますが、そこは全く触れません。
私自身高山で台風に遭い遭難しかけたことがありますが、平時は冷静でも
非常時には冷静さを失うものです。大量の風雨で視界が利かず寒いのは
ある意味、八甲田山ほどでは勿論ないでしょうが通じるものがあると思います。
また、どうしても資料がない部分…個々人の内面、思考、思想など…は著者の
方の完全な推測でストーリーが組み立てられており、考察に先立って極悪人で
あると言う前提があり、それを元に話が展開するため説得力がありません。
つまりは著者さんに「フェアで厳正な視点がなく、無能な指揮官に率いられた悲劇
的な部隊」であるという大前提に則って個々のエピソードがこじつけられていくの
です。いち解釈として物語的に読む分には良いかも知れませんが…個人的には
「後からなら、妄想で脚色すれば何とでも言える」本でしかありませんでした。
あと表紙の写真は「別の部隊の訓練であり、遭難部隊のものではありません」
ので注意。ここは正直、新たな物証だと思って買ったので面食らいました。
2018年6月3日に日本でレビュー済み
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映画「八甲田山死の彷徨」を見た人なら、徳島大尉に憧れたことだろう。高倉健演じる徳島は冷静沈着、用意周到で、寡黙ながら思いやりを感じさせた。ところがどっこい資料を丹念に調べると全く正反対だったりする。この企画そのものが福島氏(映画では徳島)の出世欲と虚栄によって成立した側面もあるようだ。ただ確かに冷静沈着で用意周到ではある。案内に立った地元の村人への扱いが苛烈極まることが映画との決定的な相違で、村人たちは後遺症に苦しめられ、悲惨な余生を送った者もいたという。もう一方の神成大尉たちのダメさは言うに及ばず。著者は現役自衛官時代に八甲田山の雪中行軍を実体験しているのでその経験も活かした叙述には信頼を置けるように思う。資料も丹念に読み込み、映画や新田次郎の小説との相違を次々指摘する。幻滅すること請け合いだが、興味持った人は読むべき。それにしても現在も青森第5連隊や弘前31連隊が競うように雪中行軍をしているとは面白い。
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