トニー・ブレアといえばニューレイバーの旗手であり、ブッシュと共にイラク戦争開戦を主導したことで知られる。特に後者について、アメリカの単独行動主義に追随した、「アメリカのプードル犬」などとこき下ろされることが多い。本著は特にブレアの外交とその思想を追い、その独自性、「正義の戦争」の実践と失敗を描く。
ニューレイバーの外交理念には3つの特徴がある。
1.EU,その他国際社会におけるリーダーシップ
2.軍事力で倫理や道徳を追求する「善のための力」、すなわち人道的介入の推進
3.国際コミュニティの強調
そしてその外交には以下の問題点が指摘される
1.アメリカの覇権への信頼と、リーダー意識による対欧外交の軽視、単独行動主義化
2.倫理的外交の偽善性、あるいは経済損失による世論の反発
就任後防衛政策の革新に努めたブレアはコソボ危機に直面する。そこでは、欧州諸国における独自の危機管理能力の欠如とアメリカとの防衛能力差の拡大が明らかになってしまった。そしてそれはブレアの外交理念を損なうものであった。ブレアは欧州防衛統合のイニシアティブをとっていく。そしてそれはケルン欧州理事会、ヘルシンキ欧州理事会での合意により欧州独自の危機管理能力の発展へと帰結した。そして危機の深刻化を受けてユーゴスラビア空爆へと進んで行く。
しかし、イラク戦争においてはかえって統合を損なってしまった。当初アメリカを先導してイラク戦争を実行しようとしたブレアは、むしろアメリカの単独行動主義に振り回され、追従する結果となってしまった。
本書はコソボ・イラクの歴史、ブレアの判断の過程を追いながら「正しい戦争」について考えさせる。ブレアにとっては両者とも「倫理的な戦争」であり、少なくとも過去繰り返された正義の皮を被った帝国主義戦争とは違ったものであった。しかし、「倫理的な戦争」は常に「正しい戦争」であるとは言えない。むしろ、「正しい戦争」であることは稀有であろう。戦争以外の手段は検討されたか、戦争に際しての手段は適当だったか。
コソボにおいては事態の深刻さが明らかであり、それは国際的に認知されていた。手段の適当性への疑問があるものの、正当化され得るものであった。一方イラクでは、事態の深刻さが「大量兵器」によって粉飾されるなど、当初から正当性が疑われるものであった。そのもとでは、如何に主観的正義を唱えようとも無意味なのは言うまでもない。
戦争においては秘密はつきものであり仕方がないものもある。しかし、参戦における判断過程、特に参戦を必要とする状況の深刻さと参戦によってもたらされる効果についての検証は、主観的正義抜きに検証されて然るべきであろう。本書のような「歴史書」はまさにそのような記録を残すことの必要性を訴えている。
倫理的な戦争 (日本語) 単行本 – 2009/11/11
細谷 雄一
(著)
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ISBN-104766416872
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ISBN-13978-4766416879
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出版社慶應義塾大学出版会
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発売日2009/11/11
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言語日本語
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本の長さ436ページ
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
はたして、倫理的な戦争などというものが、あるのだろうか。あるいは、「善」なる目的を掲げ、国境を越えて「正義」を実現することは可能だろうか。ブレアが苦悩し、真剣に向き合ったいくつもの難しい問題は、二一世紀の世界政治を考える上で中心的な課題となるであろう。本書では、ブレアが外交指導をした時代を振り返って、その意味を再検討する。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
細谷/雄一
1971年生まれ。慶應義塾大学法学部准教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。主要著作に、『戦後国際秩序とイギリス外交―戦後ヨーロッパの形成1945年~1951年』(創文社、2001年、サントリー学芸賞)、『外交による平和―アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣、2005年、政治研究櫻田會奨励賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1971年生まれ。慶應義塾大学法学部准教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。主要著作に、『戦後国際秩序とイギリス外交―戦後ヨーロッパの形成1945年~1951年』(創文社、2001年、サントリー学芸賞)、『外交による平和―アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣、2005年、政治研究櫻田會奨励賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2009/11/11)
- 発売日 : 2009/11/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 436ページ
- ISBN-10 : 4766416872
- ISBN-13 : 978-4766416879
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