絶望と向きあう
西部邁は1月21日、多摩川で入水自殺した。その1カ月ほど前に刊行された『保守の真髄』のあとがきを読むと、当初は、10月22日に決行する予定だったとわかる。その日が衆議院選挙の投票日となったため、迷惑の最小化を考えて延期したようだが、西部が自身の死を見すえてこの本を著したことは確かだ。
本書は4章立てで構成され、副題にあるように、現在の〈高度技術情報社会の紊乱ぶり〉を明らかにした上で保守の本質を説く。そのアプローチは、西部らしく人間の不完全性を前提に、対象とするテーマの正確な語意を確認しながら展開する。
〈紊乱とは「文がもつれた糸のように乱れる」状態を指す〉
タイトル周りの語句すら、西部は曖昧な使用を嫌う。文明と文化の関係について論じるならば、当然のように「文明」と「文化」とは何か、語源とともに先人たちの至言も引用しつつ歴史的変容にも言及し、どちらの語意も明らかにして先へ進む。だからテンポよくは読めないが、同行すれば、この社会の問題を根源的な視座に立って考えられるようになり、現況の原因を深く理解して絶望と向きあうことになる。
たとえば、日本が米国依存から脱するためにはどうすればいいか問い、その問いの意味を根源的に、論理的に考えていけば……核武装は必然となる。西部は、だから核武装も、原発も必要と主張する。
西部は知行合一の人だった。最終章で「生き方としての死に方」について論考し、「自裁死」の意義を語っている。そして、西部はあの日、自身が語ったとおりの死に方を実行してみせた。
評者:長薗安浩
(週刊朝日 掲載)
世界恐慌や世界戦争の危機が見込まれる現在、政治や文化に関する能力を国民は身につける必要がある!そして、良き保守思想の発達した国家でなければ良き軍隊をもつことはできないのである―まことの保守思想を語り尽くす、大思想家・ニシベ最期の書!
著者について
西部 邁
1939年、北海道に生まれる。東京大学大学院経済学研究科修士。書籍や雑誌にて旺盛な執筆活動を展開している。保守派の評論家。元東京大学教養学部教授。東大教授を辞職後は秀明大学教授・学頭を歴任。テレビ「朝まで生テレビ」などに出演。2017年10月まで雑誌「表現者」顧問。
著書は『経済倫理学序説』(中央公論社・1983年度吉野作造賞受賞)、『生まじめな戯れ』(筑摩書房・サントリー学芸賞受賞)、『虚無の構造』『妻と僕 寓話と化す我らの死』(ともに飛鳥新社)、『死生論』『思想の英雄たち 保守の源流をたずねて』(ともにハルキ文庫)、『サンチョ・キホーテの旅』(新潮社・芸術選奨文部科学大臣賞受賞)、『どんな左翼にもいささかも同意できない18の理由』(幻戯書房)、『ファシスタたらんとした者』(中央公論新社)、『学問』『無念の戦後史』(講談社)、『核武装論 当たり前の話をしようではないか』(講談社現代新書)など多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
西部/邁
1939年、北海道に生まれる。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。書籍や雑誌にて旺盛な執筆活動を展開している、保守派の評論家。元東京大学教養学部教授。東大教授を辞職後は秀明大学教授・学頭を歴任。テレビ番組「朝まで生テレビ!」などに出演。2017年10月まで雑誌「表現者」顧問。著書に「経済倫理学序説」(中公文庫・1983年度吉野作造賞受賞)、『生まじめな戯れ 価値相対主義との闘い』(ちくま文庫・1984年度サントリー学芸賞受賞)、『サンチョ・キホーテの旅』(新潮社・2009年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)