「いろんな人間おりますからね。あれも人間やし、これも人間やし、全部を書けるわけじゃないけれど、何かこう、人間の一端みたいなのを書ければいい」という事をインタビューで語っていた又吉氏。
たしかにこの物語には様々な「人間」が登場する。
かつて「ハウス」と呼ばれるシェアハウス的なものに住んでいた主人公の漫画家やイラストレーター、ミュージシャン、作家、芸人などの「様々な人間」が、ある出来事に巻き込まれていく。
その中で「人間の何たるか」や「苦悩・葛藤・孤独」などを懸命に“描こう”としているように思う。
彼(又吉氏)自身が、太宰に憧れて影響を受けているのが、作中の端々から感じられる。
全体として平易な文章で読みやすく、サクサク読めた。
しかし、太宰を意識しすぎたのか、、
「読者に衝撃やエグミを残したい」という思惑が見え透いてしまっているように感じて白けてしまった。
描くことを目的とした「葛藤」や「苦悩」
わかりやすくパッケージされた「苦悩」や「葛藤」
例えるなら
試食品コーナーで、おばちゃんが爪楊枝まで刺してくれている、あのソーセージのような・・・
食べやすく調理された「葛藤」や「孤独」
お手軽に消費される「孤独」「葛藤」「苦悩」(くどいか・・・)
単に、私がひねくれた性格なだけであり
別の読者にとっては素直に「胸をえぐられた感覚」になるのかもしれない。
また別のタイミングでこの本に出会っていれば違う感想になったかもしれない。
しかし、今の私としては何とも言い難い微妙な読後感に終わった。
平易な文で読みやすいので、
「又吉先生の最新作に興味がある」という方にはお勧めできる程度には仕上がっている。
話は少し脇道にそれるが
この『人間』を読んだあと
無性に再読したくなり『人間失格』(太宰)を読み直した。
やはり、そこには太宰の生々しい「孤独」と「葛藤」があった。
物語の主人公は、常に「自分が異端なのでは?」という疑心の中で幼少期を過ごす。
そして、いつも周りの空気を伺い「ひょうきんもの」を演じ続ける。
腹の底では、他人を侮蔑しつつも
表面上は笑顔を絶やさない“オトナ”たち。
そんなを“オトナ”を軽蔑していた彼自身であったが
気が付けば自分自身が一番の「道化(ピエロ)」になっていたという皮肉な人生。
そんな葛藤の中、彼は誰にも理解されず
それでも人を理解し、理解されようともがく。
次第に、酒に、女に、薬に溺れ
廃人寸前まで追い込まれていく。
そしてご存知の通り、物語は必然のように破滅へと向かう。彼自身(太宰自身)の人生がそうであったように・・・。
こんなもの平易に読めるものではないだろう。
安易に読めるはずはないし、
不用意に読みこんでしまえば
読み手が“感染”させられてしまう。
それこそほどの毒を持った作品性。
それが太宰であり、
太宰の「書く」という行為は
彼自身の孤独や葛藤そのものであり
生き様そのものの書き写しである。
言い方がわるいが又吉の商品化された「葛藤」と、太宰の「書かざるを得なかった葛藤」の差は大きすぎた。
とはいえ、読後すぐのレビューになってしまっているし、又吉先生の新作というだけで期待値を高めすぎてしまい、本作なりの良さを捉え切れていないという部分もあると思う。
また正気にもどった時に『人間』を再読した頃、レビューを書き直すかもしれない。
参考になれば幸いである。
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