「吉川浩満短編集 1」とでも言うべき本。
著者がこれまで様々な媒体で発表した原稿をピックアップして一冊にまとめた本なのだが、もちろん、単なる寄せ集めではなく、通底するテーマに沿って構成されている。1つ1つの原稿は独立していて単体として完結しているのだが、まるでオムニバス映画のように、全体として見ても一つの作品になっている。構成の妙を感じた。
本書において通底するテーマは、「結局人間は、遺伝子によっていろいろプログラムされていて、それに沿って動いてる部分が多々あるということが分かってきたけど、それを踏まえて考えた時に、これまで哲学が扱ってきた人間像をどう上書きしていくべきなのだろうか。人間とはなんなのか」ということだろうと理解した。(もっと適切な言葉があるような気がするが、僕の語彙力ではこんな言い方しかできない。)
あくまで主題は「人間とはなんなのか」なので、認知心理学や行動経済学や、そこから派生しての人工知能に関する研究成果などを踏まえつつ、人文的なアプローチをするのが本書の主旨だろう。それを、オムニバス形式で、ときにゲストを招きながら、ときに著者自身の内省も踏まえつつ、いろいろな切り口を提示しているというのが面白いところだ。
本書はあくまでオムニバス短編集のような構成なので、1つ1つについて深掘りするようなタイプの本ではない。
深掘りは、冒頭で著者自身が述べている、今後世に出るであろう『人間本性論(仮)』に期待すべきことだろう。
なお、『理不尽な進化』以来の著者のファンとしては、わりとこまめに著作活動を追っていたこともあり、3割ぐらいはすでに読んでいたものだったので、その分を割り引いて星4つとします。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
