予防医学研究の観点から「ゼロ次予防」の概念を提唱されてきた星先生と、住環境の専門家として個人・集合住宅から大規模開発まで様々なプロデュースをされてきた甲斐さんとの見事なケミストリーが結実した、素晴らしい本だと思います。
「もくじ
はじめに---住まいを見直すと人生が変わる
1章 医学博士が「欠陥住宅」に住んで実感した「健康な住まい」の基本
2章 「熱環境リフォーム」で冬の快適さはここまで改善できる
3章 住まいの「快適性」と「健康」との深い関係
4章 夏の「暑さの犯人」と「涼しさづくり」の秘訣
5章 6つの実例に学ぶ「人生を変えるイノベーション」
6章 戦略なしではリタイヤ後に孤立する
7章 セカンドステージからの幸福戦略
8章 幸福戦略を実行すれば健康長寿を実現できる
おわりに」
という構成ですが、各章の終わりにまとめとしてポイントが記され、とても分かりやすく読み進めることができます。
そして読後には「はじめに」で掲げられた「住まいを見直すと人生が変わる」という大きなテーマに強く共感できました。
まず断熱・気密化することによる健康改善とそれを実現する為の基本的な知識から始まり、
続けて甲斐さんのとても丁寧なインタビューにより、
星さん(公衆衛生)、宿谷昌則さん(熱環境)というご自身が専門家である方々の自邸の事例、
小谷和也さんが手がけるマンションリノベーションの秘訣(リノベ感ではなく本質的なリノベーションを、という発信はお見事)、
その他、現存する不動産を世代をまたいだファミリー全体のストックと捉えて成功した事例、
エントランスのしつらいだけで、地域との繋がりが生まれた事例などが紹介されますが、
リノベーション前後の間取り図や写真なども交えながら、専門家でなくても十分に理解できる内容となっています。
その他、個人的なメモ、所感としては、
・「熱環境は人びとの幸せをデザインする」
・幸せに生きる為に必要な自己肯定感は他者との繋がりによって成り立つ
(幸せの定義は人それぞれだが、これからの暮らしで幸せが増える為のヒントはたくさんある。幸福感に影響するのは日々暮らす家、地域、コミュニティであるのは間違いない)
・なぜ元気なうちから「幸福戦略」が必要なのか?
・メンテナンスフリーとは住まい手のニーズのみならず、供給者側の都合でもある
・加齢に対する備えというだけでなく、自分を再創造するための投資と見ると、そのことで得られる資産を蓄積する「場所性」を加味することがとても重要。
(どんなに優れた住宅でも、単体で、公共インフラも無く、地域のコミュニティも無い場所では価値も発揮できない、と言えますね)
・コミュニティを目的として位置付けず、手段として活用することで、個人単位では得られないぜいたくな価値を実現させようとする「コミュニティ・ベネフィット」という考え方。
・自分たちのことだけではなく、
逆に地域の人たちとの自然な関係を生み出すアフォーダンスという概念
・「CASBEE健康チェックリスト」を使用したある地域での調査では、得点が高い地域は低い地域に比べ、死亡率が半分という結果が(詳細は本書P.185)。
・健康長寿に「直接的な」影響を及ぼしているのは「健康三要因(身体的健康、精神的健康、社会的健康)」であり、食生活を含めた「生活習慣」、学歴や収入といった「社会経済的要因」は直接的に決定づける要因ではない。
(この星さんの調査・研究からの報告内容「健康決定要因・因果構造結果モデル」は、誤解無く理解すればよく納得でき、次の「夢、目標、自己肯定感」が重要、というフェーズに繋がります)
等々、、、
以上も含めて全体を俯瞰しますと、
「住まいを断熱する」「寒くない家を実現する」のが大事なのはもちろんですが、
実はこの本の一番大事なキーワードはサブタイトルにもある
「幸福戦略」
だと思い至ります。
様々な事情を抱える各家庭で、何を、どう進めていけば「幸福」に近づけるのか、それは多種多様な事例を元に、繰り返し、丁寧に解説されています。
そして「リノベーション」という行為自体の可能性の幅と、改めての人生に関わる重要性を思い知らされるのです。
費用も含めた目先の事だけではなく、将来を見据えてじっくりと考えて(その過程には自らを、家族を、ファミリー振り返る事も必要)、チャンスを逃さずに取り掛かることが必要です。
それは何も一度に全部でなくても構わないでしょう。
繰り返し手を加えていくという、しかも内容によってはプロに任せるだけではなく、自分たちで行う、というまでの許容幅を持つ行為なのです。
最後に、
甲斐さんからは「主体性を取り戻す」、
星さんからは「ファミリー・デベロプメント」
というそれぞれの言葉で、
「健康や医学の専門家が「これが健康住宅ですよ」と与えるものでは決してなく、自分たちの暮らしの場を、主体的にどうつくりあげていくのか、
その力量を形成していくことが家族の健康や幸福へとつながり、その結果として地域が豊かになり、さらには波及していくものである、と提言されています。
具体的に人生のセカンドステージに立ち、改めてこれからの暮らしを見直す方々や、新築から改修まであらゆる機会に関わる住宅従事者にとっては、
本書の内容を考慮するのとしないのとでは取り返せないほどの差が出ると確信出来る、必読の書です。
できれば地方行政や医療、介護に関わる方々にも是非ともお読みいただきたいと思います。
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