「本日もいとをかし!枕草子」のナゴンさんのあとに、こちらのシキブさんの「人生はあはれなり…紫式部日記」を拝読しました。
面白ーい!両者を読み比べてみると、この時代の女性というものが見えてきますね。
一見、男尊女卑で差別されているように見えても、やっぱり何だかんだと強かに生きているようです。じゃないと平安時代400年も持たないですよね。
でもう~ん、ごめんなさい、両者見比べると、私はやっぱりナゴンさん派。
どっちも同じ境遇なのにも拘わらず、見えたものが全然違ってた…わけではなく、サロンごとじわじわと滅びていったナゴンさんの方が、運命を考えればどう見ても、シキブさんよりも薄倖。
それでもこれだけ宮仕えを楽しみ、一点の憂いも面に出さず、最後まで明るさを保ち続けてたのはカッコいい!
多少漢籍の知識をひけらかして陰で嫌われてたって、言いたい奴には言いたいように言わせておけばいい。私だって言いたいこと言ってんだしw
人生短いんだから、生きたいように生きるべき。男だってどうせ自己顕示欲とハッタリで生きてるんだもの、女がそれをしちゃ、なぜダメなわけ?
自分はいつ何時でも、ナゴンさんのようにポジティブに生きたいタイプです。
シキブさん、確かに漢籍の才能を表に出せなかったのは残念かもしれないけれど、こんなにも文才を認められ、誰もが羨む出世を遂げ、ときめく殿方たちは目の前に揃ってる、楽しもうと思えば楽しめたろうに、何をこんなにじめじめと…w
ナゴンさんがイマドキ20代OL女子なら、シキブさんはコミュ障オタク系女子。
「私は出世も恋も要らないのっ。家でずーっと腐女子して、二次元の恋に萌えてたいの!贅沢な悩みだと蔑むなら蔑みなさいよ。辛いもんは辛いのよ~!」という叫びが聞こえてきそうです^^;
うん、解る、気持ちは解るけどね^^;
シキブさんの方が繊細ではあるけれど、時々チラ見えるのは同性への驚きの冷たさ。強盗に身ぐるみ剥がれて、裸で泣き叫んでいた同僚女子二人が、翌朝何事も無さげに出社してくる姿を見て「思い出すと笑えるなんて言えないわw」って。何という辛辣ぶり… 顔を見られても恥だった時代、大勢に裸を見られた彼女たちの身の置き所ない心地たるや、身内に恥かかされたシキブさんどころではなかったでしょうに。
まあ、作家としてはこの位の観察的目線がなきゃ、あれほど多様な「女」は書けないのでしょうけど…
サロンの雰囲気は、定子様の時と彰子様の時では、確かに全然違ったんでしょう。
でもこれはシキブさんの性格が、彼女の気質にピッタリ合った場所を招き寄せたんじゃ…って気も。
明朗で冗談好きの詩人の父(清原元輔)から「お前は賢い子だぞ!」と褒められ、のびのび育ったナゴンと、大学者で人嫌いで偏屈な父(藤原為時)から「男ならその知性も生きたろうに、無用の長物を持ってしまったな…」と嘆かれたシキブ。
父親の一言がここまで娘たちを変える。育った環境って大きいですね。
でも、私は源氏物語が大好きです。原書には流石に歯が立ちませんが、寂聴源氏も谷崎源氏も田辺源氏もあさきゆめみしも読みました。
なのに紫式部日記は一度も紐解いたことが無かったんですが、このマンガを読んで、読みたくなりました。
原文も載っていますが、一度、ちゃんと通しで読んでみようかな。
面白かったのが、シキブの女流作家&詩人への人物批評。
ああ、これってシキブさん、源氏に登場する女性たちに投影させたんだろう…と、興味深く読みました。
性に放埓で妖艶な美女・和泉式部は朧月夜。または女三宮や浮舟。
男を手玉にとって、不倫の何のとだらしないわね、絶対、幸せになれないわよ。どうせそのうち、行き詰まって出家することになるわ、こういう女は。…というかその色気妬ましいっ!胸チラとかすんな!文句ある!?(シキブ)。
真面目一徹な赤染衛門は、恐らく明石の女御や花散里。夫一途に尽くす貞淑な妻、これぞ女の鏡。やっぱりその思慮深さは歌にも表れるもの、後にきっと報われるわ。…というか色気が無くて女の妬みをかき立てない所が良い(シキブ)。
それにしても頭に来るのは、あの女。逢ったことが無いけど清少納言。私に許されなかった自由奔放な生き方しやがって、羨ましいったらコノヤロー。ろくな死に方しないわね。
その清少納言は…「雨夜の品定め」の中で男たちの話題に上がる「寝物語が漢文の女」でしょうか。
あんな女はね「鬼とでも連れ添った方がまだマシ」って書いてやるわよ。私の愛する夫まで貶したんだから。浮気者で感心出来ない夫だったことは確かだけど、それでもあの女にだけはダーリンのことを派手の悪趣味のと笑われたくないのよ(シキブ)。
帝に深く愛されながらも、時世に痛めつけられて儚く散り、帝の心に大きな空洞を残して去った薄倖の美女・桐壺更衣は、シキブのライバルであるナゴンがお仕えしていた定子様。
だとすれば、初めのうちは誰からも顧みられぬ寂しい境遇ながら、真面目な努力家ゆえに、徐々に賢妻と呼ばれるようになり、愛も名声も勝ち得た明石の女御や、その娘である明石の中宮は、恐らく彰子様でしょう。夫の前妻である故・定子様を妬むことなく敬愛し、その忘れ形見を、我が子として可愛がって育てる姿は、源氏物語の最高の美華、紫の上の姿とも被ってきます。
早逝した仲良しの姉、控えめで愛らしかったのに儚く散ってしまった親友の小少将の君… 彼女らはきっと、夕顔や、薫に愛された大君。死後も愛する人の面影を忘れ得ぬ一途で美しい殿方が、彼女らの傍らに一人でもいたと、シキブは信じたかったのではないでしょうか。
「源氏」の登場人物の一人一人に、身近な女性らの性格を当て嵌め、彼女らの運命を思いのままに幸せにしたり不幸にしたりすることで、シキブさんはカタルシスを感じていたのかなと…
ナゴンさんとシキブさんに面識は無く、シキブさんの方がナゴンさんに対し、片思いならぬ片怨みをしていたようですが、気になるからこそ、シキブさんの意識の底からナゴンさんの面影が抜けなかったのでしょう。本当に嫌いだったら、無関心でいられるはず。
性格的に私がナゴンさん、妹がシキブさんタイプなので、よーく解ります。
でも、一言。ナゴンさんタイプの人から見たら、実はシキブさんタイプって羨ましいんですよ。多分、ナゴンさんがシキブさんを知ってたなら「何かにつけ『みっともないからよしなさい』とばかり此方を睨んでくる、イイ子ぶりっ子」と貶めつつ、内心ではこう思ったんじゃないかな。
「いいなぁ、物語が次から次へと湧き上がるなんて、なんて幸せな才能かしら。それに比べて私なんか、僅かな漢文の知識でもひけらかさなかったら、他に何があるっていうの?」
「知識を見せびらかさず謙虚に振舞えるなんて、それこそ大人の女性よ。
私はダメだわ、威張ってる男を見るとつい闘争心が湧いちゃって。可愛くない女だと思われてるでしょうけど、自分を制御できない。私は精神的にまだ未熟なんだわ」
そして恐らく、シキブ自身も「見えない女たちへの嫉妬に縛られる自分」が嫌だったんじゃないかな。
シキブに重なる登場人物は、生霊となり死霊となってまで、プライドに縛られずに源氏を愛せる女たちを妬み殺さずにいられない、六条の御息所。そして桐壺更衣の没後も、美しかった更衣への嫉妬に苦しめられ、更衣の忘れ形見の源氏へ執拗な嫌がらせを繰り返す(そして自滅する)弘徽殿の女御。
…道隆一門の哀れな没落の様を見てきたにも拘らず、尚も定子サロンの花形に嫉妬し、評判を下げようとする浅ましい自分…
煩悩の断ちきれぬ六条の罪深さや弘徽殿の女御の醜さを炙り出し、罰することで、シキブは自分自身をも罰していた節があるように思います。
それにしても道長の存在感…w
ナゴンさんからシキブさんに話が交代しても、典型的な成金&セクハラ男すぎて、どういうわけか逆に親しみすら覚えてしまう^^;
浅ましき男どもに引き換え、平安女子たちの何とまぁ、それぞれ比べようがないほど、魅力的なこと。
定子様も彰子様も、ナゴンさんもシキブさんも。
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人生はあはれなり… 紫式部日記 単行本 – 2015/3/27
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『源氏物語』の作者・紫式部の日記を、マンガ化。将来が不安、人目を気にしてしまうなど、現代女性でも共感できる、シキブが悩む人間関係、仕事、嫉妬などを綴りながら、『源氏物語』という生きがいを見つけていく。
- 本の長さ206ページ
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日2015/3/27
- 寸法13.1 x 1.8 x 18.9 cm
- ISBN-104040674391
- ISBN-13978-4040674391
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
社交的じゃない…傷つきやすい…人から嫌われたくない…『源氏物語』の著者が綴る平安系絶望女子の超ネガティブな日常をマンガ化!!!
著者について
愛知県名古屋市生まれ。広告デザイン事務所勤務を経てフリーイラストレーターに。雑誌を中心に、テレビ、広告、WEBなどで活躍中。著書に『本日もいとをかし!! 枕草子』(KADOKAWA/メディアファクトリー)、『脱力道場』(小学館)、『だいこくばしズム』(朝日新聞出版)。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
小迎/裕美子
愛知県名古屋市生まれ。広告デザイン事務所勤務を経てフリーイラストレーターに。雑誌を中心に、テレビ、広告、WEBなどで活躍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
愛知県名古屋市生まれ。広告デザイン事務所勤務を経てフリーイラストレーターに。雑誌を中心に、テレビ、広告、WEBなどで活躍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : KADOKAWA/メディアファクトリー (2015/3/27)
- 発売日 : 2015/3/27
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 206ページ
- ISBN-10 : 4040674391
- ISBN-13 : 978-4040674391
- 寸法 : 13.1 x 1.8 x 18.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 32,807位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 10位源氏物語
- カスタマーレビュー:
著者について
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978?~1014?。平安時代中期の女流作家、歌人。本名は不明。生没年に多数の説がある。藤原為時の娘で幼い頃より漢文を読みこなすなど、才女として の逸話が残されている。藤原道長の長女で一条天皇の中宮である彰子に、女房兼家庭教師として奉仕。「桐壺」に始まり「夢浮橋」で終わる54帖にもおよぶ世 界最古の長編小説『源氏物語』などを著す(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 源氏物語 (名著をマンガで!) (ISBN-13: 978-4059006145)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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カスタマーレビュー
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2019年7月11日に日本でレビュー済み
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46人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年8月14日に日本でレビュー済み
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作者を非常に身近に感じさせてくれる事では傑作だと思います。
他の方も書いていらっしゃいましたがページ数を増やしてでも原文へのアプローチが欲しかったです。
と言うことはこれはこの本を出すにあたっての編集側の意思が現れたものだったんだと今気づきました。
源氏物語についても簡潔に紹介されており、先の「本日もいとをかし」も本作品も原典へ誘う為に書かれたものでしょう。ただ、もう少しだけ踏み入れて欲しかったので星四つといたしました。
他の方も書いていらっしゃいましたがページ数を増やしてでも原文へのアプローチが欲しかったです。
と言うことはこれはこの本を出すにあたっての編集側の意思が現れたものだったんだと今気づきました。
源氏物語についても簡潔に紹介されており、先の「本日もいとをかし」も本作品も原典へ誘う為に書かれたものでしょう。ただ、もう少しだけ踏み入れて欲しかったので星四つといたしました。
2020年8月1日に日本でレビュー済み
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私は爺さまであるが会社勤めのときも、地域社会に入っても男の嫉妬等対人関係に悩み、苦しんで、世の中にまだ無い物を設計して、ある意味で自己満足して来ました。
苦しかったけど、楽しい人生でした、女性の方(紫式部殿)も苦しんでいた事をしりました。
著者、監修者の方に有難う。(もう少し原作に近ければ・・・、原作を読む機会を与えて下さった事に感謝)
苦しかったけど、楽しい人生でした、女性の方(紫式部殿)も苦しんでいた事をしりました。
著者、監修者の方に有難う。(もう少し原作に近ければ・・・、原作を読む機会を与えて下さった事に感謝)