扱っているのは大きく分けて歴史的人物、スポーツ選手、文壇の人々だが、ダントツに面白いのは文学者、評論家、出版人など。やはり屈折が入っているからだろう。歴史上の人物やスポーツ選手の場合、酒の上の失敗エピソードは豪快だが、ほとんど記憶喪失としてしか処理されていないというか、忘れさるしかないので屈折として残らないが、文壇の人々は引きずる感じ。そこが面白い。
《酒をやめたら、もしかしたら健康になるかもしれない。長生きするかもしれない。しかし、それは、もうひとつの健康を損ってしまうのだと思わないわけにはいかない》というのは山口瞳の『酒飲みの自己弁護』というタイトルそのままの言い訳ですが、文学者は《かんがへて飲みはじめたる一合の. 二合の酒の夏のゆふぐれ》(牧水)のはずがいつの間にか度を過ごしてしまい、ウジウジと自己弁護をしながら、毎晩飲みまくります。
しかも、その自己弁護っぷりが面白い。例えば河上徹太郎。日本芸術院会員、文化功労者で小林秀雄などと近代の超克などを語りながら《足し算も引き算も要らない典型的な「ザ・酔っ払い」》となりトラ箱のお世話になります。《もう、河上などと書かずに「てっちゃん」と親しみを込めて呼びたい》ほど可愛い酔っ払いっぷりの河上は、自分を保護してくれた上に家族を呼んでくれた警察に《「あそこのおまわりさんはホテルのボーイさんみたいに親切だね」とよくわからない分析を示》し、さらには御礼にウィスキーで乾杯したいとまで言い出す。これには《斬新すぎて盟友の小林秀雄も言葉を失うであろう》と近代を意外な方向で超越してしまったという筆者の評価には深く頷かざるをえません。《知識人にはときに独特の世間ずれが見え隠れするが、てっちゃんはもはや読み手がリアクションに困る域まで昇華させている》から。
そのすぐ次に紹介されているのが小林秀雄。水道橋のホームから酔っ払って10メートルほど転落、奇跡的にかすり傷ひとつ負わずに助かった事件の顛末が笑えます。小林秀雄は《母親が助けてくれた、と考えたのでもなければ、そんな気がしたのでもない。ただその事がはっきりしたのである》とベルグソンを論じた「感想」に書くのですが、《どうだろう。前提を踏まえて、ありのままを語ってもらっても全くわからないではないか》という文章の呼吸には笑わせてもらいました。小林は落下したあと、助けてくれた駅員など《相手の善意を全て撥ね付けて爆睡》したあげく《いろいろ反省してみたが、反省は、決して経験の核心には近附かぬ事を確かめただけであった》と記します。これには筆者ならずとも《「ごめんなさいもいえないのか」と叱ってやりたい》と思うばかり。
河上、小林に共通するのは面倒臭さでしょうか。しかし、二人を紹介したあとで《人間振り幅が大事なのである。意外な一面を見せれば「こいつ、実はしょーもない」と思われるかもしれないが、親近感は増す。職場での好感度が上がることは間違いない》と結ぶ筆者。新たな文壇のスター誕生を予感させます。童貞を捨てたいと路上で寝そべって駄々をこねた梶井基次郞、同居女性の首をしめ「俺は天狗になったぞ!」と二階から飛び降りた辻潤なども素晴らしいのですが、個人的には連載時から筑摩書房・古田晁社長のエピソードが好きです。
名文なので引用してみると。
《ある日、馴染みの居酒屋でできあがっていた古田は店の前を屋台のラーメンが通ったので外に出た。酔っ払っていたとはいえ、腹が減っていたのだろう。食べながら、しばらくすると、一緒に出ていた板前に紙を要求する。口の周りでもふくのかと我々のような凡人は思うし板前も想像したのだが、古田は紙を腰より下に持っていく。どうしたのだろうか。のぞいてみると何と脱糞していたのだ。ラーメン食いながらクソである》
酔い潰れてズボンを濡らしてしまった、なんていうエピソードまではよく聞くが、その上空はるか上の成層圏を超音速で翔け抜ける見事さです。
酔うと誰彼かまわず寝込みを襲い、出版社社長や文人をたたき起こして拉致、ついでに隣人の家に配達されていた牛乳を飲み干す古田。そんな古田が経営していた筑摩書房の社員旅行は、女子従業員の部屋に突入し、全裸でエレベーターに乗る乱れっぷりだったといいます。一度でいいから、古田時代の筑摩書房で働きたいと思ったけど、やっぱり実際に対応するのは面倒臭いかもしれない。でも、素晴らしい。最高です。
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人生で大切なことは泥酔に学んだ 単行本 – 2019/7/1
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酒癖がヤバいのにどう生きていくか。それが問題だ――。
泥酔の星(?)栗下直也が描くアクの強い偉人の爆笑泥酔話27。福澤諭吉から平塚らいてう、そして力道山まで
日本は失敗が許されない社会といわれ、一度、レールを踏み外すと再浮上が難しい。
しかし、悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。
出世に通勤、上司、危機管理、宴会から健康。
笑え。潰れるな。バカにされても気にするな! ! ! !
彼らはしくじりながらも、それなりに成功を収めた。現代とは生きていた時代が違うと一刀両断されそうだが、彼らは彼らで当時は壮絶に叩かれたり、バカにされたりしている。プライバシーなど皆無な時代なのだから想像するに難くない。それでも前を向いて生きた。ーー「はじめに」より
登場する偉人たち
太宰治・福澤諭吉・原節子・三船敏郎・小島武夫・梶原一騎・横溝正史・平塚らいてう・河上徹太郎・小林秀雄・永淵洋三・白壁王・源頼朝・藤原冬嗣・力道山・大伴旅人・中原中也・梶井基次郎・辻潤・黒田清隆・米内光政・古田晁・泉山三六・藤沢秀行・梅崎春生・葛西善蔵・藤原敏男
酔いがまわって師匠の妻を全裸で通せんぼ
日本開国の父・福澤諭吉
泥酔し大砲で住民を誤射、妻斬り殺しの容疑までかかる
第2代内閣総理大臣・黒田清隆
ウィスキーを呑みながら日本刀で素振り
世界のミフネ・三船敏郎
家に石を投げられても飲酒をやめなかった
女性解放運動の先駆者・平塚らいてう
無銭飲食で親友檀一雄を置き去り、おかげで『走れメロス』を書いた
天下のナルシスト・太宰治
❖目次
はじめに
第一章 リスク管理篇
・太宰治(作家) お金がなくても、呑んでしまったら
・三船敏郎(俳優) ヤクザに殴りかかってしまったら
・小島武夫(雀士) お金がなくても、やっぱり呑んでしまったら
・梶原一騎(漫画原作者) 呑んでばかりいて、いきなり、逮捕されたら
第二章 通勤篇
・横溝正史(作家) どうしても電車に乗れなかったら
・河上徹太郎(評論家) 目が覚めて警察に保護されていたら
・小林秀雄(評論家) 駅のプラットホームから落っこちたら
・永淵洋三(野球選手) 職場にはきたものの、二日酔いでしんどかったら
第三章 出世篇
・白壁王(政治家) 派閥争いに巻き込まれたら
・源頼朝(武士) 今日は無礼講だぞといわれたら
・藤原冬嗣(政治家) 接待をひたすら頑張ってみたら
・力道山(プロレスラー) どうしても新事業をやってみたかったら
第四章 宴会篇
・福澤諭吉 (思想家) 同僚が上司の奥さんに全裸を見せつけたら
・大伴旅人 (歌人) 同僚が酒を呑まない奴は猿だといい出したら
・中原中也(詩人) 同僚がビール壜で殴りかかりそうになったら
・平塚らいてう(思想家) 同僚が家に石を投げ込まれても飲酒をやめなかったら
・梶井基次郎(作家) 同僚が路上でねそべって駄々をこねはじめたら
・辻潤(作家) 同僚が屋根の上から飛び降りたら
第五章 上司篇
・黒田清隆(政治家) 上司が大砲を誤射したら
・米内光政(政治家) 上司が解放してくれなかったら
・古田晁(経営者) 上司が永遠に解放してくれなかった
・泉山三六(政治家) 上司がいきなり女性に抱きついたら
第六章 健康篇
・藤沢秀行(囲碁棋士) 大事な仕事を抱えながらアル中になったら
・梅崎春生(作家) メチルアルコールを呑んでみた
・葛西善蔵(作家) 何も考えずに呑み続けてみたら
・藤原敏男(キックボクサー) 一日八時間でも呑みたかった
・原節子(女優) やることがないのでとりあえず呑んでみたら
おわりに
泥酔の星(?)栗下直也が描くアクの強い偉人の爆笑泥酔話27。福澤諭吉から平塚らいてう、そして力道山まで
日本は失敗が許されない社会といわれ、一度、レールを踏み外すと再浮上が難しい。
しかし、悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。
出世に通勤、上司、危機管理、宴会から健康。
笑え。潰れるな。バカにされても気にするな! ! ! !
彼らはしくじりながらも、それなりに成功を収めた。現代とは生きていた時代が違うと一刀両断されそうだが、彼らは彼らで当時は壮絶に叩かれたり、バカにされたりしている。プライバシーなど皆無な時代なのだから想像するに難くない。それでも前を向いて生きた。ーー「はじめに」より
登場する偉人たち
太宰治・福澤諭吉・原節子・三船敏郎・小島武夫・梶原一騎・横溝正史・平塚らいてう・河上徹太郎・小林秀雄・永淵洋三・白壁王・源頼朝・藤原冬嗣・力道山・大伴旅人・中原中也・梶井基次郎・辻潤・黒田清隆・米内光政・古田晁・泉山三六・藤沢秀行・梅崎春生・葛西善蔵・藤原敏男
酔いがまわって師匠の妻を全裸で通せんぼ
日本開国の父・福澤諭吉
泥酔し大砲で住民を誤射、妻斬り殺しの容疑までかかる
第2代内閣総理大臣・黒田清隆
ウィスキーを呑みながら日本刀で素振り
世界のミフネ・三船敏郎
家に石を投げられても飲酒をやめなかった
女性解放運動の先駆者・平塚らいてう
無銭飲食で親友檀一雄を置き去り、おかげで『走れメロス』を書いた
天下のナルシスト・太宰治
❖目次
はじめに
第一章 リスク管理篇
・太宰治(作家) お金がなくても、呑んでしまったら
・三船敏郎(俳優) ヤクザに殴りかかってしまったら
・小島武夫(雀士) お金がなくても、やっぱり呑んでしまったら
・梶原一騎(漫画原作者) 呑んでばかりいて、いきなり、逮捕されたら
第二章 通勤篇
・横溝正史(作家) どうしても電車に乗れなかったら
・河上徹太郎(評論家) 目が覚めて警察に保護されていたら
・小林秀雄(評論家) 駅のプラットホームから落っこちたら
・永淵洋三(野球選手) 職場にはきたものの、二日酔いでしんどかったら
第三章 出世篇
・白壁王(政治家) 派閥争いに巻き込まれたら
・源頼朝(武士) 今日は無礼講だぞといわれたら
・藤原冬嗣(政治家) 接待をひたすら頑張ってみたら
・力道山(プロレスラー) どうしても新事業をやってみたかったら
第四章 宴会篇
・福澤諭吉 (思想家) 同僚が上司の奥さんに全裸を見せつけたら
・大伴旅人 (歌人) 同僚が酒を呑まない奴は猿だといい出したら
・中原中也(詩人) 同僚がビール壜で殴りかかりそうになったら
・平塚らいてう(思想家) 同僚が家に石を投げ込まれても飲酒をやめなかったら
・梶井基次郎(作家) 同僚が路上でねそべって駄々をこねはじめたら
・辻潤(作家) 同僚が屋根の上から飛び降りたら
第五章 上司篇
・黒田清隆(政治家) 上司が大砲を誤射したら
・米内光政(政治家) 上司が解放してくれなかったら
・古田晁(経営者) 上司が永遠に解放してくれなかった
・泉山三六(政治家) 上司がいきなり女性に抱きついたら
第六章 健康篇
・藤沢秀行(囲碁棋士) 大事な仕事を抱えながらアル中になったら
・梅崎春生(作家) メチルアルコールを呑んでみた
・葛西善蔵(作家) 何も考えずに呑み続けてみたら
・藤原敏男(キックボクサー) 一日八時間でも呑みたかった
・原節子(女優) やることがないのでとりあえず呑んでみたら
おわりに
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社左右社
- 発売日2019/7/1
- 寸法18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- ISBN-104865282394
- ISBN-13978-4865282399
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商品の説明
出版社からのコメント
日本は失敗が許されない社会といわれ、一度、レールを踏み外すと再浮上が難しい。
しかし、悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。
出世に通勤、上司、危機管理、宴会から健康。
笑え。潰れるな。バカにされても気にするな! ! ! !
彼らはしくじりながらも、それなりに成功を収めた。現代とは生きていた時代が違うと一刀両断されそうだが、彼らは彼らで当時は壮絶に叩かれたり、バカにされたりしている。プライバシーなど皆無な時代なのだから想像するに難くない。それでも前を向いて生きた。ーー「はじめに」より
しかし、悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。
出世に通勤、上司、危機管理、宴会から健康。
笑え。潰れるな。バカにされても気にするな! ! ! !
彼らはしくじりながらも、それなりに成功を収めた。現代とは生きていた時代が違うと一刀両断されそうだが、彼らは彼らで当時は壮絶に叩かれたり、バカにされたりしている。プライバシーなど皆無な時代なのだから想像するに難くない。それでも前を向いて生きた。ーー「はじめに」より
内容(「BOOK」データベースより)
悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。無銭飲食で友人を置き去り、太宰治。家に石を投げられても呑んだ平塚らいてう。プラットホームから落っこちた小林秀雄など、泥酔偉人を描く爆笑エッセイ。
著者について
栗下直也(くりした・なおや)
1980年生まれ、東京都出身。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科経営学専攻修了。経済記者のかたわら、書評サイト「HONZ」や週刊誌、月刊誌などでレビューを執筆。書籍構成も手がける。新橋系泥酔派を自認するが、酒場詩人は目指していない。
1980年生まれ、東京都出身。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科経営学専攻修了。経済記者のかたわら、書評サイト「HONZ」や週刊誌、月刊誌などでレビューを執筆。書籍構成も手がける。新橋系泥酔派を自認するが、酒場詩人は目指していない。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
栗下/直也
1980年生まれ、東京都出身。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科経営学専攻修了。経済記者のかたわら、書評サイト「HONZ」や週刊誌、月刊誌などでレビューを執筆。書籍構成も手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1980年生まれ、東京都出身。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科経営学専攻修了。経済記者のかたわら、書評サイト「HONZ」や週刊誌、月刊誌などでレビューを執筆。書籍構成も手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 左右社 (2019/7/1)
- 発売日 : 2019/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 240ページ
- ISBN-10 : 4865282394
- ISBN-13 : 978-4865282399
- 寸法 : 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 99,284位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 3,120位エッセー・随筆 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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