本書でも指摘されているが、「老いること」「老人」をテーマに書かれた書物が、近年増えてきている。でも、70年代に青年期を過ごした世代で、精神分析等に関心を持っていた方だと、エリク・エリクソンの「老年期」
老年期―生き生きしたかかわりあい
をまず頭に思い浮かべる人も少なくないだろう。また、心理学徒だと、「エリクソンの心理社会的発達理論」を、心理学概論などで、一応は知っているだろうと思う。また、発達心理がの研究も、「生涯発達心理学」へと年齢を拡張し、研究範囲を拡大している。
老いのこころ -- 加齢と成熟の発達心理学 (有斐閣アルマ)
分析心理学の立場からは、河合隼雄「生と死の接点」(岩波現代文庫)
生と死の接点―“心理療法”コレクション〈3〉 (岩波現代文庫)
のの底本になっている論文等で、論じてきていた問題である。C.G.ユングは、「老賢者」という元型を提示したし、少なくとも、1970年代には、超高齢者などだと、それだけで尊敬を集められたものである。
現代は、そのような時代からは、想像もできない。
そのような、「老い」をどのように捉え、どのように対応していけばよいのかについて、ご自身の体験を散らばらせながら、「老成」という、いわば「構成概念」を提示し、余生を生きるというようなありきたりの、あるいは受動的な「老い方」へのアンチテーゼとして、老いの生き方を提言した好著である。
島田裕巳のこれまでの著作を読んできたものなら、傍証として触れられている「宗教に関する考察」も、分かりやすいだろうし、そうでなくても、平易な文章で書かれており、老年期に向かう人のみならず、若い人にも、参考になるだろう。
島田裕巳の著作に対して、実用書として期待する読後感想を目にすることがあるが、宗教学者である著者に、そこまで求めるのは酷であろう。
また、新書としての限界もある。
すでに、「老い」にさしかかり不安を抱いているには、「老成」というキーワードは、「未来」への希望をもたらせてくれるだろう。
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