悪名高き「日米地位協定」を、フィリピンや韓国、ジブチ、イラク、アフガニスタン、イギリス、イタリア、ドイツがアメリカやNATO諸国軍などと結んでいる地位協定と比較してどう異なるのか、という切り口でその特異性を浮き彫りにしようという一書。目次にもあるように、政府がホームページで主張していることやまことしやかに言われている俗論を、具体的な事例や条文を示しながら論破していく形式になっています。
本文にも「憲法とは、国家の骨格を決めるものです。しかし、今の日本は、日米地位協定によって、国家から主権が骨抜きにされている状態です。主権を回復せずに改憲を論じても仕方がありません。国論を二分する改憲論議をする前に、まずは政府と国民が一つになって地位協定の根本的な改定に取り組み、主権国家としてアメリカと『対等』な関係をつくり直すべきではないでしょうか」と書かれていますが、憲法改正論議の前に矢部宏治さんの『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』とともに読んでおきたい本だと思います。地位協定や安保条約、そして日米間の密約についてはもちろんのことロシアとの北方領土返還交渉に関していかに基地問題が障害になっているかということや、沖縄や基地所在地でのオスプレイ墜落や暴行などのアメリカ軍属者の犯罪と刑事裁判権、全土基地方式、横田空域についてなど内容は重なりますが、矢部本が概論的なのに対して本書はより各論的に解説されています。
日本がジブチに対して、アメリカが日本と結んでいるような刑事裁判権を免責させる地位協定を結んで元防衛大臣が「一種の感慨を覚える」などと言っていたらしいのですが、明治時代に西洋帝国主義列強と同じく「植民地」を手に入れたといっておごり高ぶっていったかつての軍国日本を彷彿とさせられ、ぞっとしました。相手国の主権に配慮した協定を結ぶべきではないでしょうか。弱者から搾取して一流国を気取るとは情けない平和国家だと思います。
また、矢部さんの著書にアメリカとの地位協定や安保条約の改定時には表向きは改善したように見せながら、裏でそれを骨抜きにする密約を結ぶというやり方が多用されているとありましたが(矢部さんは「古い条約=新しい条約+密約」という方程式で表現されていました)本書でも同じことが指摘されていました。
全体を通して感じるのは、日米地位協定は世界的に見ても日本の主権が著しく損なわれている特異な協定であるということ、日本人の主権意識が薄く鈍感であるということ、しかし地位協定を改定するためにはその国民の主権意識の覚醒こそが必要であるということです。国民が本気で戦いさえすればアメリカといえど譲歩せざるを得ないというのは、諸国の地位協定改定例を見れば得心できることで、決して不可能なことではないのです。
本書の最後に提案されているように、日米合同委員会の公開化や全土基地方式の廃止、基地管理権の獲得、刑事裁判権の強化、互恵性の確保など、地位協定が改定されることを願い-読みやすい本とは言えないかもしれませんが-それでも本書を一人でも多くの方に一読していただきたいと願います。
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