趣味で中国の南北朝を研究していた方が飲んでいる時に「南北朝には汲めども尽きせぬ魅力がある」と話してくれたが、読み終えて、その面白さは、この時代がタイトルにもなっている「中華の崩壊と拡大」が日本、朝鮮半島を含めて起こっていたからだと感じた。
年表を見て、勝手に想像をたくましくしてみると、後漢が滅ぶキッカケとなった黄巾の乱が発生した184年頃は、全世界的に進んだ紀元後百年から気候の寒冷化によって、ローマでは疫病、中国では飢饉、日本列島でも倭国の大乱、朝鮮半島でも高句麗、新羅、百済が三つ巴の争いを続ける不安定な状況が生まれていることがわかります。
中国史、東アジア史に引きつけますと、後漢が滅亡し、三国時代でも決着がつかなかった漢民族の中華思想は、実態として北方民族によって打ち砕かれ、夷狄をも中原の覇者となれるように変質していきます。そして、その中華思想は朝鮮半島、日本列島にも及び、周辺国でもこじんまりとした中華思想による支配が生まれるようになる。それが「中華の崩壊と拡大」なんだ、という感じ。
三国~南北朝時代は北方の夷狄だけでなく、今のベトナムあたりの南方の諸民族も《戸籍につけられて税を納めさせられる良民としての身分を持つ新たな「漢民族」となった》といいます(p.186)。しかも、南方では貨幣経済が発達し、銅が不足するほどだった、と。日本はヤマト王権がやっと成立したぐらいの時代なのに中国は凄いと思うと同時に、今でも続く中国の南北問題の原因は、この時代からつくられるんだな、と。つまり、北京を中心とした政治、上海などを中心とした経済の分離。
また、揚子江以南は漢民族の文化の揺り籠ともなります。梁の武帝は下級貴族の出で、深い学識と午前二時に起きて政務を行うという経世済民の責任感にあふれていたそうで。彼の編んだ『文選』は日本の文学や政治にも影響を与えています(十七条憲法も文選から引用されています)。
仏教狂いになる前の武帝の時代は「南朝四百八十寺 多少の樓臺煙雨の中」と杜牧が歌う隆盛を誇っていました。先祖に対する祠祭の供物(血食)を、仏教における不殺生戒に反するとして果物などに変えるぐらいでしたらよかったのですが、やがて国家儀礼を仏教に則って行なおうとするだけでなく、仁政を単なる性善説で行なおうとするなど姿勢が弛緩。やがては裏切りにあって憤死します。ちなみに、先祖に対する祠祭の供物を果物とし、先祖崇拝に結びつけたのも武帝です(p.152-)。北の方に目を向けると、倭の五王が南宋に遣いを出した北に北魏があったわけですが、北魏の孝文帝はヤマト王朝が採用した班田収授制に影響を与えた均田制を創始したとか(p.102)。この北魏は漢族からすれば夷狄による建国なんですけど、どっちにしても中国からの影響は絶大すぎです。
中華の崩壊と拡大(魏晋南北朝) (日本語) 単行本 – 2005/2/16
川本 芳昭
(著)
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本の長さ384ページ
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言語日本語
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出版社講談社
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発売日2005/2/16
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寸法14.1 x 2.9 x 19.5 cm
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ISBN-104062740559
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ISBN-13978-4062740555
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
乱世の三国時代を治めた晋の再統一(西暦二八〇年)の後、中国は再び大分裂。五八九年の隋の天下統一まで、華北(北朝)では、五胡十六国時代を挟み、一時は北魏が統一するが、東魏、西魏、北斉、北周と興亡を繰り返す。江南(南朝)でも、宋、斉、梁、陳と次々に王朝が交替。乱世の一方、陶淵明、顧〓(がい)之の活躍した六朝文化が華開く。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
川本/芳昭
1950年生まれ。九州大学文学部卒業。九州大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。九州大学大学院人文科学研究院教授。専攻、東アジア古代・中世の民族問題、国際交流、政治史。漢唐の間の時代を研究の主要なフィールドとしながら、世界最大の民族となる漢民族がどのようにして形成されていったのか、中華文明の本質とは何か、中華文明と対峙しつつ、日本を含めた周辺の諸民族がどのようにして自らの国家やアイデンテイティを確立していったのかといった問題の解明を目指している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1950年生まれ。九州大学文学部卒業。九州大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。九州大学大学院人文科学研究院教授。専攻、東アジア古代・中世の民族問題、国際交流、政治史。漢唐の間の時代を研究の主要なフィールドとしながら、世界最大の民族となる漢民族がどのようにして形成されていったのか、中華文明の本質とは何か、中華文明と対峙しつつ、日本を含めた周辺の諸民族がどのようにして自らの国家やアイデンテイティを確立していったのかといった問題の解明を目指している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2005/2/16)
- 発売日 : 2005/2/16
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 384ページ
- ISBN-10 : 4062740559
- ISBN-13 : 978-4062740555
- 寸法 : 14.1 x 2.9 x 19.5 cm
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- カスタマーレビュー:
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4人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2013年8月11日に日本でレビュー済み
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はじめに「文明の展開、継承」「民族」「日本や朝鮮などの周辺部」を観点におき、魏晋南北朝がどういう時代であったか?という問題提起がある。
1〜3章では西晋から初期胡族国家、符堅、道武帝と、政治史にからめ「胡」の意識がどう変容していったかが語られる。
4,5章では華北にあわせ南朝の様相が紹介され、6章では政治史から一転、「蛮」について。
7章では孝文帝が登場し、漢化政策とともに文明太后との関係などが考察される。
8章では北魏の崩壊から、北周による新たな秩序構築への取り組みについて。
9,10章では倭や朝鮮と中国王朝との関係。および「中国使節停止/再開」や「天」、その他こまかな考察があって終了。
読み終えてみると、まさにタイトル通りの本だった。
「中華の崩壊の拡大」。
いいかえれば『漢的中華世界の崩壊と、非漢民族の中華意識の目覚め&非漢地域への中華分祀』とでも言おうか。
テーマを優先したせいか、政治的な混乱期の記述も簡潔で、一見読みやすいとも思ったが、一般的な中国史と離れた6章や9,10章はちょっとムズカシイwww。
(でもあまり眼にしたことがない話なので興味ぶかい)
テーマに沿うという点では、4,5章はあまり意味がないような気もした。
素人目にも、全体的におもしろい視点で書かれていると感じた。
たとえば1〜3,7章の「劉曜の漢的教養の高さ」「符堅の急進的な胡漢融合政策」「太武帝の中華と胡意識」「孝文帝の希薄な鮮卑意識と漢化政策」そして「北周での胡族的再編成」といった政治史にリンクした話が王道なら、6,9〜10章の「中国内部の漢蛮溶解」「周辺部への中華輸出」はわき役だろう。
結論もそのわき役をメインに仕上げた感じである。
個人的にはもっと内容を凝縮したら、ずっと面白くなったとおもうが良書にちがいない。
1〜3章では西晋から初期胡族国家、符堅、道武帝と、政治史にからめ「胡」の意識がどう変容していったかが語られる。
4,5章では華北にあわせ南朝の様相が紹介され、6章では政治史から一転、「蛮」について。
7章では孝文帝が登場し、漢化政策とともに文明太后との関係などが考察される。
8章では北魏の崩壊から、北周による新たな秩序構築への取り組みについて。
9,10章では倭や朝鮮と中国王朝との関係。および「中国使節停止/再開」や「天」、その他こまかな考察があって終了。
読み終えてみると、まさにタイトル通りの本だった。
「中華の崩壊の拡大」。
いいかえれば『漢的中華世界の崩壊と、非漢民族の中華意識の目覚め&非漢地域への中華分祀』とでも言おうか。
テーマを優先したせいか、政治的な混乱期の記述も簡潔で、一見読みやすいとも思ったが、一般的な中国史と離れた6章や9,10章はちょっとムズカシイwww。
(でもあまり眼にしたことがない話なので興味ぶかい)
テーマに沿うという点では、4,5章はあまり意味がないような気もした。
素人目にも、全体的におもしろい視点で書かれていると感じた。
たとえば1〜3,7章の「劉曜の漢的教養の高さ」「符堅の急進的な胡漢融合政策」「太武帝の中華と胡意識」「孝文帝の希薄な鮮卑意識と漢化政策」そして「北周での胡族的再編成」といった政治史にリンクした話が王道なら、6,9〜10章の「中国内部の漢蛮溶解」「周辺部への中華輸出」はわき役だろう。
結論もそのわき役をメインに仕上げた感じである。
個人的にはもっと内容を凝縮したら、ずっと面白くなったとおもうが良書にちがいない。
2005年3月27日に日本でレビュー済み
講談社による中国史新シリーズの第5巻です。魏晋南北朝が対象です。この時代は両漢古代帝国の崩壊直後にあたり、古代的混乱の克服と中世的安定への志向という2つのベクトルが交錯する中、周辺諸族とのインタラクションによって中原的文明が変容・拡大していきます。本書では、メリハリの効いた論述により、そうした時代の特性を浮き彫りにしようとしています。
その他、特に気付いた点は概ね以下のとおりです。
(1) 孫呉や東晋による江南開発に光をあて、その過程における漢蛮交流による中原的文明の変容や「漢民族」アイデンティティーの生成を論じます。「中国的なるもの」の本質を考える上で、大切な示唆に富むものと感じました。
(2) 北朝史についても比較的詳細に論じられています。孝文帝の改革には特に一章を割いており、その背景や歴史的意義の分析には相当力が入っています。
(3) 古代帝国の崩壊が周辺世界に及ぼしたインパクトとして、北族や日本・朝鮮などにおける独自の中華意識の形成に着目し、これを中華的イデオロギーの拡大再生産といったポジティブな角度から分析しています。
逆に、中国プロパーの政治・社会的発展については簡単な記述に止まっている観がありますが、単なる事実関係の羅列に堕さず、時代の本質をハッキリさせようとする姿勢に感心させられました。多くの東洋史ファンにオススメしたいと思います。
その他、特に気付いた点は概ね以下のとおりです。
(1) 孫呉や東晋による江南開発に光をあて、その過程における漢蛮交流による中原的文明の変容や「漢民族」アイデンティティーの生成を論じます。「中国的なるもの」の本質を考える上で、大切な示唆に富むものと感じました。
(2) 北朝史についても比較的詳細に論じられています。孝文帝の改革には特に一章を割いており、その背景や歴史的意義の分析には相当力が入っています。
(3) 古代帝国の崩壊が周辺世界に及ぼしたインパクトとして、北族や日本・朝鮮などにおける独自の中華意識の形成に着目し、これを中華的イデオロギーの拡大再生産といったポジティブな角度から分析しています。
逆に、中国プロパーの政治・社会的発展については簡単な記述に止まっている観がありますが、単なる事実関係の羅列に堕さず、時代の本質をハッキリさせようとする姿勢に感心させられました。多くの東洋史ファンにオススメしたいと思います。
2007年2月26日に日本でレビュー済み
北朝に重点が置かれていて、今まで知らなかったこともあって、非常に楽しめました。
三国分立から中華を統一した西晉の正統性の強さ、東晉及び、その後を受けた宋に対する漢族自身の疑問。宋以後華北士大夫が江南へ亡命することが見えなくなることなど、漢族の帝国として(少なくとも私には)考えられていた南朝が正統性の面でも不安定であったことは、続く隋唐が北朝を母体とすることからも興味深い点でした。
北朝の皇帝が中華を意識したことは知ってはいましたが、例えば、北周の武帝が、自分が「宇文という胡族の姓を名乗り、鮮卑語を自由に操り、そのうえで自らを五胡ではないとする」、胡漢が融合した世界で中華皇帝としてあり得たのはかなりおもしろいですね。
なお、最終章で、日本や高句麗などが、自らを中華とする認識が形成されたことについて、「五胡・北朝・隋唐に至る中国史の展開と比較するとき、秦漢魏晉的秩序から見ると、同じく夷狄であったものが、それぞれに「中華」になるという点で(「東夷とての倭から中華としての日本へ」と「五胡から中華への変身」)、両者は相似た軌跡を描いたのである」と指摘があります。このことは、現代へも続く問題、何が正統かという問題として、同シリーズの金文京『三国志の世界』でも論じられていました。
三国分立から中華を統一した西晉の正統性の強さ、東晉及び、その後を受けた宋に対する漢族自身の疑問。宋以後華北士大夫が江南へ亡命することが見えなくなることなど、漢族の帝国として(少なくとも私には)考えられていた南朝が正統性の面でも不安定であったことは、続く隋唐が北朝を母体とすることからも興味深い点でした。
北朝の皇帝が中華を意識したことは知ってはいましたが、例えば、北周の武帝が、自分が「宇文という胡族の姓を名乗り、鮮卑語を自由に操り、そのうえで自らを五胡ではないとする」、胡漢が融合した世界で中華皇帝としてあり得たのはかなりおもしろいですね。
なお、最終章で、日本や高句麗などが、自らを中華とする認識が形成されたことについて、「五胡・北朝・隋唐に至る中国史の展開と比較するとき、秦漢魏晉的秩序から見ると、同じく夷狄であったものが、それぞれに「中華」になるという点で(「東夷とての倭から中華としての日本へ」と「五胡から中華への変身」)、両者は相似た軌跡を描いたのである」と指摘があります。このことは、現代へも続く問題、何が正統かという問題として、同シリーズの金文京『三国志の世界』でも論じられていました。
2005年2月23日に日本でレビュー済み
やはり中国史で面白いのは動乱の時代、特に漢と隋唐の大帝国に挟まれた五胡十六国・南北朝時代は漢民族のみならず、モンゴル・トルコ系の民族が大活躍する移動性の高い時代である。
その中にあって質実剛健な文化を展開した北朝と伝統的な優雅な貴族文化を花開かせた南朝の対比は特に興味深い。
本書はこのダイナミックな時代を丁寧に描き出し、読者に対してこの時代の理解を促してくれる。特にこの時代に成立した中華秩序の現代的意義は興味深い。
その中にあって質実剛健な文化を展開した北朝と伝統的な優雅な貴族文化を花開かせた南朝の対比は特に興味深い。
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