本書は元東京大学法学部長(名誉教授)で元国連次席大使、元国際大学学長、現JICA理事長の北岡伸一先生が新潮社のFORESIGHTに連載したコラムをまとめたものである。
圧巻は何と言っても終章の「世界地図の中を生きる日本人」であろう。北岡教授は、JICA理事長という肩書と、国連次席大使時代に構築した人脈を縦横に駆使して、東京で開催されたUHCフォーラム(Universal health coverage)、あるいはダボス会議で八面六臂の活躍を遂げている。こんなことは、そんじょそこらの大学教授では絶対に出来ないことであろう。ダボス会議に参加する日本人は結構いるが、ここまで人脈を駆使して会議を活用できている人は少ないのではないかと思う。国際大学学長であったことも効いている。新潟の浦佐にある国際大学の8割は途上国からの留学生で、彼らは卒業後数年で局長、早ければ10年で大臣になると北岡教授は書いているが、その人脈もダボス会議で生きているのである。
本書は主としてJICA理事長として主張した国々について北岡教授の眼からみた観察結果をまとめたものであるが、理事長として訪問した国は50か国に上り、それ以前に訪問した国も加えると北岡教授が訪問した国の総数は108か国になるというから大したものである。
本書のパートは大きく「ロシアの隣国」「アフリカ」「中南米」「太平洋の島嶼国」「アジア(ミャンマー、ベトナム、東ティモール、タジキスタン)」に分かれているが、アメリカ、中国、EU諸国といった大国はもちろん、オーストラリア、ASEAN諸国といった、なじみのある国も含まれていない。国と言っても「端パイ」色が強いことが特徴的である。そして何より各国に割いたページ数が少ない。だから、例えばミャンマーとか、ベトナムについては、もっと書くことがあるだろうにという欲求不満が残るほど、記述はあっさりしている。ただ、随所に北岡伸一先生らしい「鋭い切り口」「鋭い切り込み」が爽快な読後感を約束してくれている。
本書に中国は登場しないが、かつて中国の海軍軍人が言ったという「太平洋は広いから、アメリカと中国でハワイを境に二分しよう」という放言について、「なぜアメリカは、その場で即座に反論しておかなかったのか」と繰り返しクレームしている。幸いなことに、現在のトランプ政権は徹底して中国を抑え込もうと「正しい行動」をとっているが、オバマ政権時代のアメリカは中国に甘すぎた。クリントン国務長官が「アジアピボット」などと言っても内実が伴っていなかった。「沈黙は容認を意味する」という北岡先生の言葉は重い。
あと新潮選書で「世界地図」といえば高坂正堯先生の「世界地図の中で考える」が高名だが、本書では、この高坂先生の名著への言及は一度もない。一説には北岡先生の師匠の一人だった佐藤誠三郎は、メディアで八面六臂の活躍をしていた高坂正堯先生に嫉妬していたと以前、北岡先生がどこかで書いていた。その「師匠の遺恨」を北岡先生もどこか引きずっているのかもしれない。
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