先日、NHK番組でノーベル化学賞受賞者の田中耕一氏の、その後について放送していた。田中耕一氏は受賞後に、周囲からの期待が重荷となり、長くてつらい時期を過ごされる。自らが立てたテーマの困難に行き詰まり成果が出ず、そのテーマを自分が立てたかどうかさえ分からなくなってくる。しかし彼を救ったのは、その間の彼の行動だった。異なる専門領域の多くの研究者、とりわけ若い研究者たちに会いに行くことで、その領域の専門家であれば可能性がないと見向きもしないことに、田中氏が専門ではないがゆえに取り組むことで、若い研究者とともに思わぬ成果を上げることができた。田中氏は振り返られて、これからの日本の科学に必要なこととして、「イノベーション」を挙げられた。彼によると、イノベーションは、通常の日本語訳では技術革新だが、言葉の本来の意味から、「新結合」「新しい捉え方」「新しい解釈」であり、そのことが新しい発見につながり科学を前進させるとのことだった。
柄谷氏の著作を以前から読み続けているが、なぜ彼の著作に惹かれるのか、なぜ面白く感じるのか、考えてみると、柄谷氏はイノベーターだからと思い至った。可能性の中心、変形的読解、トランスクリティーク等、色々な呼称はあれども、彼の著作に本質的にイノベーションを感じるからではなかろうか。各領域についての教科書的な解説や定説ではなく、思わぬ視点や横断的な補助線から見えてくること、そこに立ち会える。
柄谷氏が以前、様々な領域の専門家たちと対話した『ダイアローグ』『思考のパラドックス』は、文庫で再発刊してもらいたいもののひとつである。
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