ジャパニメーションの巨匠としてその名を刻みつつも此処10年くらいはアニメの仕事をまるっきりしていないように見える、テレビの新作も放送延期…まあ観ないけど…な押井守によるエッセイ集である。
この本は有料メルマガの書籍化ということで、その金額たるや月2回で540円。高えー。全49回あるので計算したら総額13000円超え!この文章にその値段の価値があるとは到底思えないのだが、その価値があると思っているひとたちが居るからこそ今日でもジャパニメーションの巨匠として振る舞える、インナーサークルの帝王だからこそ可能なビジネス。凡百の中小勤務リーマンである自分には到底不可能。羨ましいなあ。
そんなメルマガを纏めた本書を電子書籍セールで購入し、400円強という安値で購入した自分こそこの監督がしばしば口にする勝つ側の人間とも言えるのではないか…読者としては…。ま、どうでもいいんだけども。
押井の本は何冊か読んでいるのでだいたい内容は事前に想定できる。どうせ今回も押井がインタビューで口にしがちな「僕に言わせりゃ」というひとことに象徴される、高みに立ったつもりの独りよがりで正鵠を射てるんだかもよくわからない長広舌みたいな内容なのだろう。そんな予想は案の定大当たり。
押井の物言いに既視感を感じていたのだが唐沢俊一に近いなあ、とこの本でようやくわかった。たいしたことでもないものを無意味にエラソーに語る感じ。で、言ってることを要約してみると中身はないっていう。違いは実績の差くらいなもんで。
何時だか宮崎駿が押井について「意味ありげに語らせたらあんなに上手い人間は居ない」「パト2も意味ありげだなあと思って観ていたら所詮意味などないのだと落ちがついてひっくり返った」「おかしいなと思うと先回りして言う」と発言してたがこれらを念頭に置いて押井の文章を読めば別に世界の半分を怒らせるほどの力もありゃしねえと解るのである。
というわけで、テキトーにダラダラと、何時まで経っても変わらねえ爺さんだなあ、と思いながら読めば暇つぶしにはなる。自分で執筆しているエッセイでは砕けた語りなのに途中差し込まれるインタビューでは急に偉そうな口調に変わるのもウケる。信者のニーズに応えるプロやなと。さすがインナーサークルの帝王である。
話している内容に真面目に付き合うのも面倒だがエヴァQをこき下ろしながら具体的な内容にはなにひとつ触れていないのを見れば何かを語っているようで何も語っていないと理解できようというものである。「庵野の感情ダダ漏れ」なのであれば具体的にどうダダ漏れなのかを語ってくれればこっちは楽しいのにそういうサービス精神がないので押井は詰まらんのである。
千と千尋で千尋に肉まんを食わせた駿と、イノセンスでトグサに肉まんを食うところをすんででやめさせた押井…そこに表現者の根本的な差があるわけだね。スカイクロラで「此処のミートパイは絶品なんだ」とわざわざ台詞で言わせておいてミートパイ食うシーンねえんだもん。話にならねえ。
この本でも何度も駿をネタにするのだけどもう飽きたよ笑。本人が思ってるほど面白くないぞ、押井の駿語り。風立ちぬが駿が子どものためにという建前を放り投げた映画だなんて自分でも解るよ。しつこくロッキング・オンを仮想敵にし続けたスヌーザーみたい…押井ファンにわかるのかこの例え。
トトロよりめいとこねこバスのほうがアニメとしてよく出来ていると別の本でも語っていた自説を繰り返すのだが「トトロは劇場で子どもらが通路を走り回っていたが、めいとこねこバスでそんな光景は想像できません」…トトロは実体験に基づいているのに、一方は”想像できない”=子どもに受けていた光景を見ていない!これが「僕に言わせりゃ」なんだね。根拠もないけど自分がそう思ったからってだけ。「ではなんでトトロは今でも多くのファミリーに愛され続けているの?」と思うだろうが押井にそんな事を聞く人は居ないんだね、インナーサークルだからね。全ては押井が気持ちよく語れることが大事。この本はずっとこんな感じで書き、語り続けるので押井にとってはさぞ気持ちよかろうなあというのはとても伝わってくる。
風立ちぬの喫煙云々で自身のスカイクロラにも抗議がきたとあって、ああそんな内容だったなあ、あのアニメには身体的に成長せず外見は子どものままという「キルドレ」なる存在が居たが、彼らの中身が大人だと伝えるために喫煙させまくり飲酒させまくりセッ○スさせるというそれだけなので単なるマセガキにしか見えなかった…という事を思い出した。中身は大人の表現が江戸川コナン以下である。
…ぐだぐだと書きながら結局は怒っているようなレビューになってしまったが、別の本でアニメ映画を作らせて貰えなくなった腹いせなのか日本のアニメ産業はもう終わり!みたいなことをなげやりに語ってたのを読んで押井への悪印象が非常に強くなっただけであり、本書自体には特には腹は立たなかった。2020年の今読んで慧眼に値する言説なんて本書には何一つないからね。時代を先取りしたパト1や予言めいたパト2を作った時代は既に失われた過去。押井本人がパト1で取り壊されていた建物みたいなもんだね。なので、暇つぶしに読んでオシマイ。
世界の半分を怒らせる (幻冬舎文庫) (日本語) 文庫 – 2017/12/6
押井 守
(著)
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本の長さ337ページ
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言語日本語
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出版社幻冬舎
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発売日2017/12/6
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寸法15.1 x 10.1 x 1.4 cm
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ISBN-104344426746
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ISBN-13978-4344426740
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商品の説明
著者について
一九五一年東京都生まれ。映画監督。「うる星やつら2」「機動警察パトレイバー」などを手がけ、「イノセンス」はカンヌ国際映画祭、「スカイ・クロラ」はベネチア国際映画祭に出品された。著書に『凡人として生きるということ』『コミュニケーションは、要らない』(ともに幻冬舎新書)などがある。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2017/12/6)
- 発売日 : 2017/12/6
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 337ページ
- ISBN-10 : 4344426746
- ISBN-13 : 978-4344426740
- 寸法 : 15.1 x 10.1 x 1.4 cm
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Amazon 売れ筋ランキング:
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- - 1,642位幻冬舎文庫
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- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年9月26日に日本でレビュー済み
押井守の作品は好きだし、彼のエッセイやインタビューは作品を深く楽しみ、理解するために必要なヒントを与えてくれることも知っている。実際、『押井言論』や『すべての映画はアニメになる』といったインタビュー集はかなり内容が濃かった。ただ、この本で彼が語っているのは、老人の凝り固まった考えに過ぎないように思う。どのような人間がどのような反論をしても、押井は決して彼の考えを変えることはないのだろう。そうした雰囲気が伝わってくる。「映画監督・押井守」ではなく、「エッセイスト・押井守」の本として読むならば、一読の価値はあるかもしれない。本作で語られる現代社会の小さな問題を通して、社会のひずみを考えるきっかけになるだろう。
VINEメンバー
宮崎監督や庵野監督とか是枝監督の話は面白いが、北朝鮮のミサイルやら核開発については今となっては判断ミスとなってますよね
流し読みすれば良いんで構いませんが、押井ファンでも今これを新本で買うのは勿体無いなと思う
流し読みすれば良いんで構いませんが、押井ファンでも今これを新本で買うのは勿体無いなと思う
2015年5月4日に日本でレビュー済み
本書は、ニコニコチャンネルで配信されているメールマガジン『押井守の「世界の半分を怒らせる」』を書籍化したものです。既にメールマガジンを購読されている方はあえて買わなくてもいいかも。
押井さんのヱヴァQへの感想が、一部だけが切り取られて某まとめブログに取り上げられたために、勘違いをしたヱヴァンゲリヲンのファンから批判の対象にされた回も全文掲載されています。ちなみに押井さん、試写会に招待されたわけではなく、自費で映画館まで足を運んでエヴァQを観たそうです。
政治関係では、押井さんが民主党に対して辛辣な批判を繰り返しており、いかに毛嫌いしているのかよく伝わりました。自民党の大勝を報じる衆院選の中継を見て、顔が日焼けして黒焦げになっていた石破さんと、真っ白だった前原さんを比較して、「石破さんは念入りに歩き回ったから黒くなっていて、前原さんはほとんど歩いていないから白いままなのだ」との指摘は、なるほどと思いました。それと、押井さんは安倍晋三総理に期待しているそうです。
個人的に気になったのは、『009 RE:CYBORG』への具体的な批判は避けつつ、神山健治監督を批判したことです。神山さんは押井塾出身で、押井さんの影武者になりたいと言うほど、押井さんを慕っている方ですが、本書では押井さんは神山さんとの師弟関係を否定して、「同僚」として扱っています。また、『009 RE:CYBORG』に対しても、「同僚」としての配慮からオブラートに包みつつ、失敗作として扱っていることに驚きました。私が思うに、押井さんも神山さんを同じ土俵に立つ「アニメ監督」として認めるようになった証なのではないかと思いました。
ほかにも色々と書いてあります。今後の押井作品に登場するキャラクターの思想的な背景を探る上でも、本書のような押井さんの考えを纏めた本は参考になると思います。
押井さんのヱヴァQへの感想が、一部だけが切り取られて某まとめブログに取り上げられたために、勘違いをしたヱヴァンゲリヲンのファンから批判の対象にされた回も全文掲載されています。ちなみに押井さん、試写会に招待されたわけではなく、自費で映画館まで足を運んでエヴァQを観たそうです。
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