原作→漫画の順で読みました。原作はHQの枠を超えた傑作です。
「原題『Just Once』（たった一度）の二重の意味」「発言や行動から、人物の心理が自然と浮かび上がってくる」そして「暗喩の巧みさ」。暗喩で特に感動したのは、愛の包みこんで癒やす力を”感触”で表現していること。いずれも素晴らしく、とても感動的な作品です。
漫画はページ数が限られているので、こうまとめるしかなかったのかなあ・・・という感じです。荻丸さんは原作のテーマをきちんと理解してコミック化していると思います。
原題『Just Once』（たった一度）は、この話を読み解く重要なキーワードです。漫画では終盤に「”二度と”使わない名前」「”二度と”守る存在はつくりたくない」というドレイクの台詞だけ（二度と~ない＝一度だけ）。原作にない台詞ですし、『Just Once』の意味が終盤に変化する（二重の意味を持つ）ことは表現できていません。でも荻丸さんは理解しています。原作では”Just Once”は【肯定的】な意味が強調されていますが、荻丸さんはあえて【否定的】に使うことで、二重の意味を示唆しています。ドレイクの心の葛藤は大胆にカットされていますが、荻丸さんが描いたドレイクは原作のイメージに近いと思います。
”Just Once”。作家ドレイクはシリーズものを書かず、登場人物は”一度だけ”。壮絶な生い立ちのトラウマから、自分の生み出した登場人物とですら”Just Once”。破滅し亡くなった自分の母親のように、彼の小説のヒロインは破滅するか亡くなります。”Just Once”は、永続的な関係を拒否するドレイクの人生観と葛藤をあらわす【否定的】な言葉でした。
ただ友人たちとのエピソードからもわかるように、ドレイクは決して冷たい人間じゃなく、重い責任を伴わない関係は築くことができます。幼い弟を守れなかった悔恨から、家庭・子供という重大な責任を負うものに不安を感じ、自分には背負えないと思っているだけ。無責任じゃなくて、責任感が強いからこそ。傷ついて弱い自分を見せたら、みんな去っていくんじゃないかという不安も抱えている、不器用な人でもあります。犬のプリンスのエピソードは、いいお父さんになりそうじゃないですか。
終盤、”Just Once”は【肯定的】な意味に変化します。父親からの手紙で心がボロボロになったドレイクが、”たった一度”避妊を怠り（本人の自覚あり）、ケイトは”たった一度”で妊娠。このとき、”Just Once＝永遠（永続的な関係）”になります。避妊を怠るのは、ドレイクがケイトに心の壁を取り除いたという暗喩。ドレイクは愛し愛されることの心地よさ、愛は（傷つけることもあるけど）人を強くすることも知ります。そして守り・守られる、大きな責任を負う覚悟ができ、妊娠を知る前にケイトにプロポーズします。
限られたページ数で、ここまでエピソードを入れるのは困難だったと想像します。原作者スーザン・ネイピアは他著書で「簡潔で複雑」「二重の意味（ドゥーブル・アンタンドル）」と書いていますが、一つの言葉・設定・エピソードなどに二重、三重の意味を持たせているので、とても内容が濃く、コミック化は骨が折れることと思います。
この漫画は原作の内容が大胆にカットされていますが、テーマはきちんとくみ取られています。原作、漫画の両方を読むと、ストーリーが理解しやすいと思います。
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