中世ノブゴロド最盛期300年の専門的分析を、「物語ノブゴロド」の歴史風に描いています。1章約70ページで全五章。配分もいい。12世紀末から15世紀末まで、各時代の主人公を中心に、ノブゴロドの歴史と政治、経済、社会体制を追求してゆきます。「物語」的な軽めの部分と、専門書的な追求の部分が、ほどよく融合していて、著者は、「書ける」学者なのではないかと思います。各章で扱っている内容は下記の通り。
12世紀末から13世紀初 絵師グレチン
13世紀初から中盤 アレクサンドル・ネフスキー三代
14世紀中盤 大主教ワシーリイ
14世紀 貴族オンツィフォル一族
15世紀中盤から後半 女性市長マルファ
それぞれ、役職が異なっている点は、史料的制約、あるいはその時代の焦点の移り変わりを意味しているのかも知れませんが、読者をあきさない構成となっています。中世ロシアというと、勃興期から、11世紀最盛期までの歴史はよく目にすることができるのですが、11世紀後半から、イヴァン雷帝時代前夜までは、状況がわからないことが多く、なかなか時代像が描き難い面があります。本書の外交に関する記述では、この時代の状況もある程度知ることができます。14世紀東欧は英主を輩出し(ポーランド、チェコ、ハンガリー)ましたが、この世紀は、リトアニア、モスクワも同様に発展し、ロシアの2大勢力となっていた時代像が描けるようになりました。
また、歴史地図帳を見ながら、ノブゴロドは都市国家なのに、なぜこんな大領域を持っているのだろう、しかも極北の地に、などと思っていたのですが、長年の疑問も氷解しました。著者の正確で、落ち着いた筆致と配分にも好感が持てました。メジャーなところだけ厚く、マイナーなところは薄いむらのある歴史叙述は小説や映画ならばよいのですが、歴史書にはふさわしくないと考えており、この点からも好感のもてる書籍となっていると思います。
- 単行本: 434ページ
- 出版社: 彩流社 (2002/12/1)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 4882027380
- ISBN-13: 978-4882027386
- 発売日: 2002/12/1
- 梱包サイズ: 19 x 12.6 x 3.6 cm
- おすすめ度: 2件のカスタマーレビュー
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