早速読ませていただきました。短く言えば、特に税制と財源を中心にした経済政策の部分が、極めて残念な内容でした。
目指す世界観は、北欧的な高負担・高福祉の社会なのかもしれないが、それを実現する財源を消費税1本と考えている点は、極めて問題が大きい。(少なくとも本書ではその他の税種を福祉財源とする議論は出てこない)
一つには、あたかもインフレターゲットの消費税率版のように、将来の消費税率を例えば毎年1%ずつ、17%までアップさせることにコミットし、その確実な期待アップ効果で消費を喚起するという。これは全くあり得ない。因果関係を逆にとらえた稚拙な議論だろう。段階的に生活が苦しくなるのに、なぜ人々が消費を増やすのか。物価は消費税増税分は上昇するだろうが、全体の消費マインドはさらに低下し、トータルでの消費総額は落ち込むだろう。つまり単にスタグフレーションを喚起するだけだ。
冒頭の井出氏の章で、消費税率の1%と高額所得者に対する所得税率の1%を同列に並べるロジックがあるが、これもまやかしだ。この試算には高所得者層の所得の中心である株式の配当などの分離課税部分が入っておらず所得税率アップの増収効果を異様に過小に見積もっている可能性が高い。
また本書には、なぜか法人税や相続税を含む資産税に関する議論は一切出てこない。
1989年の所得税・法人税の合計が40.4兆円、消費税が3.3兆円、合計43.7兆円。
2016年度の所得税・法人税の合計が27.9兆円、消費税が17.2兆円、計45.1兆円。
そう、単に金持ち中心の所得税と法人税を減らし、庶民に重くのしかかる消費税に置き換えただけ。
減税された法人と富裕層が、投資や消費でイノベーションや経済成長を促す、と言うのが新自由主義者のトリクルダウン理論だが、平成の失われた30年もの長きにわたる社会実験の結果、これは起こらなかった。減税により得られた富を、資本家と富裕層は貯め込むだけだった。
タックスヘイブンの活用などで増加させた資本や貯蓄に加速度を付けて増加させ、ピケティのいうr>gの世界を具現化することには役立ったのだろうが、日本の経済を、かさ上げ抜きのGDPを成長させる原資にはならなかった。格差を固定化し、階級社会を招来させてきただけに終わった。
なのに、この本では、法人税・所得税・資産税の強化を、富の偏在の解消を、高福祉化実現の財源として考えない。
これは税の平等性の観点から、リベラル的な視点では絶対にありえない。この1点からして、この本の経済政策は支持できない。端的に言って、これは世界的にスタンダードな、今時のリベラルの議論ではない。税制に関しては、むしろ新自由主義者による緊縮財政論に近い。
今リベラルが必要としている正しい経済政策は、少数への富の偏在を強化するサプライサイドを過剰に優先した現状の税制から、多数の庶民に安定と将来の希望を持たせて消費を喚起することが成長をリードするディマンドサイド重視の税制に変えていくことだ。
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