リジリアンスとは、もともとは物理学の用語で「跳ね返ってもとの状態に戻ることができる」という意味を持つが、
精神医学的には「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」のことを指す。
ストレスという用語も、本来物理学の用語であったが、いまではすっかり心身の状態を表す日常用語になっているように、
生物と無生物との基本的な成り立ちには、似たような法則があって、本質的な反応機制については用語を共有することが可能なのだろう。
リジリアンスの存在基盤をどこに置くかについては、2つの対立する見解がある。
一つは、脳機能、神経生理機構、遺伝子等、生理学的ファクターあるいは個人的な特性に還元しようとする立場、
もう一つは、そのような個人的特性は否定しないものの、どちらかと言えば個人を取り巻く環境との相互作用でとらえようとする立場である。
本書は、後者の立場をとるものであり、著者のマイケルウンガーは、
「重大な逆境の下、自らの幸福を維持するための心理的、社会的、文化的、そして身体的資源に自らを導く個人的能力、
およびそれらの資源が文化的に意味のある仕方で提供されるよう個人的にも、集団的にも意味の交渉を実現する能力」と定義する。
これは個人的資源(能力ではない)は、誰もが持つものであることを前提に、社会的文脈により、意味の変換が起こるということを指している。
例えば、すぐ「逃げる」という行為(反応、感性でもよい)は、資質上の「弱さ」ととらえられることが多いが、
時と場合によっては生存率を高める文脈で評価されることもあり、多くの人を救う「強み」になることだってあるわけだ。
ウンガーの示唆するリジリアンスは、固定的な、あるいは要素還元的なリジリアンスがあるのではなく、
先天的に存在する特性を有意味化する力と言い換えていいのかもしれない。
ウンガーの考え方の背景には、ナラティブアプローチ(語りの技法)があり、さらにその奥には社会構成主義的な思想がある。
本書を読み解くにあたっては、ガーゲンやホワイトの著作を読んでいると、より理解が進むと思われる。
具体的に個人のリジリアンスへ働きかける技法は、思春期の発達課題を抱える少年少女達の事例を通じて紹介される。
個人の持つ強みを描写する32の質問尺度は、臨床現場で大いに役立つことだろう。
若者がミスマッチにリジリアンスを浪費するとき、関わる者はオルタナティブ(別の選択肢)を与えられるかどうかが鍵になる、と本書では問題提起を図る。
その具体的な戦略も、システマティックに紹介されているので、多くの臨床分野で応用できるのではないかと思った。
ただ一つ難点を言えば、2600円という価格は高すぎる。
基礎理論が少なく、事例中心の記述が結構な分量を占めているので、理解を深めるには若干粗雑な印象をぬぐえなかった。
よって星ひとつ減。
リジリアンスを育てよう―危機にある若者たちとの対話を進める6つの戦略 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2015/1/7
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本の長さ208ページ
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言語日本語
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出版社金剛出版
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発売日2015/1/7
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ISBN-104772414045
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ISBN-13978-4772414043
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
“リスクと矛盾にみちた世界では、子どもは健康にむかう普通ではない道筋を作る”。若者に学び・知ることで見えてくる強さ。3つのアイデンティティを見定め、6つの戦略を通してリジリアンス=逆境に打ち克つ力を育む。非行少年の物語と資源。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ウンガー,マイケル
ソーシャルワーカー/夫婦家族療法家。ハリファックス(カナダ)のダルハウジー大学ソーシャルワーク学部で教鞭をとるかたわら、北米をはじめ世界各国の教師、ガイダンスカウンセラーなどにスーパービジョンとコンサルテーションを提供し続けている。ラジオやテレビにも多数出演し、児童精神科医、ソーシャルワーカー、心理士などのメンタルヘルス専門家を対象とした講演も多い。また危機にある若者の援助と研究についてリジリアンスをテーマとした国際ワークショップを多数主宰し、多くの著作・学術論文を発表しながら研究と実践を続けている
松嶋/秀明
1972年、滋賀県生まれ。1996年、大阪府立大学卒業。2003年、名古屋大学大学院教育発達科学研究科修了。博士(教育学)。以後、滋賀県立大学人間文化学部教員。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授/臨床心理士/滋賀県スクールカウンセラー
奥野/光
1974年、愛媛県生まれ。1997年、国際基督教大学卒業。2002年名古屋大学大学院教育学研究科単位取得。以後大学の学生相談に従事。現在、二松学舎大学学生相談室専任カウンセラー/臨床心理士/大学カウンセラー
小森/康永
1960年、岐阜県生まれ。1985年、岐阜大学医学部卒業。同大学小児科に在籍。1995年、名古屋大学医学部精神科へ転入後、愛知県立城山病院に勤務。現在、愛知県がんセンター中央病院緩和ケアセンター長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
ソーシャルワーカー/夫婦家族療法家。ハリファックス(カナダ)のダルハウジー大学ソーシャルワーク学部で教鞭をとるかたわら、北米をはじめ世界各国の教師、ガイダンスカウンセラーなどにスーパービジョンとコンサルテーションを提供し続けている。ラジオやテレビにも多数出演し、児童精神科医、ソーシャルワーカー、心理士などのメンタルヘルス専門家を対象とした講演も多い。また危機にある若者の援助と研究についてリジリアンスをテーマとした国際ワークショップを多数主宰し、多くの著作・学術論文を発表しながら研究と実践を続けている
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1974年、愛媛県生まれ。1997年、国際基督教大学卒業。2002年名古屋大学大学院教育学研究科単位取得。以後大学の学生相談に従事。現在、二松学舎大学学生相談室専任カウンセラー/臨床心理士/大学カウンセラー
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1960年、岐阜県生まれ。1985年、岐阜大学医学部卒業。同大学小児科に在籍。1995年、名古屋大学医学部精神科へ転入後、愛知県立城山病院に勤務。現在、愛知県がんセンター中央病院緩和ケアセンター長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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