本書のレビューを書くにはどうしてもウェルギリウスのアエネーイスを引き合いに出さなくてはならない。
何故なら他の方も語っている様に、本書のベースがアエネーイスの設定、キャラクターに由来しているからだ。
そしてレビューを書くに辺り、他の方のレビューをよく読んでみた、するとどうだろう、決して他意は無いので誤解をして欲しくはないのだが、恐らくはアエネーイスに触れた事が無いのである。
本書はアエネーイスを読んでいなくても十分楽しめる、しかしそこが本書の評価と感想に困る所なのだ。
まずアエネーイスでは本書のタイトルにもなっている王女ラウィーニアは一言も喋らない、唐突に現れて髪の毛が炎の様に燃える描写があるだけである。だからこそ作者アーシュラが自由にキャラクター付けし易かったのだろう。
アーシュラはフェミニストと聞く、故に本書は自由にキャラクターを作る事の出来たラウィーニア視点からローマ建国神話を書いたのではないだろうか?
次に作者は非常に細かく古代ローマの風俗、宗教を取材したのだろう、そこでレビュータイトルの「ラウィーニアとして」に繋がるのだが、アエネーイスでは基本的に起きる出来事は全て神意である。それは作者ウェルギリウスが神となったアエネイアスの子孫とされるローマ五賢帝の1人アウグストゥスを賛美する為に書いた詩なので当然なのだが、ラウィーニアでは権力者側に立つ必要が全く無い。例えばアエネーイスでは王妃アマーターの狂気はユーノー(ヘラ)の神意であるが、ラウィーニアでは子供を亡くした事による狂気と設定が変わっている。ラウィーニアではアエネーイスに見られる神意と言うものは全く無い。
他にはアエネーイスの死後の物語にも大きな脚色がされており、アスカニウスが男色であると言うのも大胆過ぎる設定改変であろう。
なのでアエネーイスに触れているとアーシュラによって大きく変えられた設定が違和感になるのである、ではこの作品は何なのか?
答えはラウィーニアなのである、アエネーイスでは決して無いのだ。
それは著者の後書きにも書いてある「アエネーイスを完結させる試みは過去に何度かあったが、私の物語は修正や補完を意図した物ではない」これに尽きるのだ。
アエネーイスを読んでいる人はわざわざラウィーニアに触れる事は無いであろう。
それは未完だからこそアエネーイスであるからだ。
しかしラウィーニアに触れた人がアエネーイスに触れる事はあるかもしれない。
正直な所評価は3~3.5としたいが、私がアエネーイスに特別な思い入れがある所から四捨五入をして4とした。
ラウィーニア (河出文庫) (日本語) 文庫 – 2020/9/8
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本の長さ468ページ
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言語日本語
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出版社河出書房新社
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発売日2020/9/8
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ISBN-104309467229
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ISBN-13978-4309467221
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
古代イタリアの森の都市を舞台に、美しく気高きラウィーニア姫、古代ローマの礎を築いた英雄アエネーアス、慈愛深き王ラティーヌス、誇り高きラテンの戦士トゥルヌス、狂気の母アマータ、そして詩人ウェルギリウスらが繰り広げる殺戮と愛の物語。はるかな時を超えて、女性の視点から神話的世界を再構築した最後の傑作長篇。ローカス賞受賞。
著者について
1929年アメリカ生まれ。62年作家デビュー。ネビュラ賞、ヒューゴー賞など、主要なSF賞をたびたび受賞。著書に『ゲド戦記』シリーズ、<西のはての年代記>3部作、『闇の左手』など。2018年没。
1955年大阪生まれ。翻訳家。訳書に、ル=グウィン『ラウィーニア』『ギフト 西のはての年代記I』『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』、フォード『言葉人形』、トレヴァー『恋と夏』など。
1955年大阪生まれ。翻訳家。訳書に、ル=グウィン『ラウィーニア』『ギフト 西のはての年代記I』『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』、フォード『言葉人形』、トレヴァー『恋と夏』など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ル=グウィン,アーシュラ・K.
1929年、カリフォルニア州生まれ。62年のデビュー以来、斬新なSF・ファンタジー作品を次々に発表。ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞など多くの受賞歴を誇り、「米国SF界の女王」と呼ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1929年、カリフォルニア州生まれ。62年のデビュー以来、斬新なSF・ファンタジー作品を次々に発表。ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞など多くの受賞歴を誇り、「米国SF界の女王」と呼ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2020/9/8)
- 発売日 : 2020/9/8
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 468ページ
- ISBN-10 : 4309467229
- ISBN-13 : 978-4309467221
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 325,203位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
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- - 6,604位英米文学
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カスタマーレビュー
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2019年6月16日に日本でレビュー済み
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2010年1月17日に日本でレビュー済み
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この本は、「ゲド戦記」や「西の果ての年代記」などのファンタジー系のお話しとは少し毛色が違い、割と本格的な小説です。
ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』にインスパイアされて執筆された読み物です。
『アエネーイス』自体は、日本国内では絶版になっており、自身も読んだことないのですが、本書は古代イタリアを舞台にして、地方王族の王女であるラウィーニアが主人公となり、英雄アエネーアスとの出会い、そして後のローマ帝国につながる流れを、女性の視点で描いた作品です。
非常に完成度の高い小説で、大人が読んで楽しむ作品です。
ル=グウィンはもう70歳をはるかに越えた高齢の作家ですが、その中ではまだ新鮮な想いや気持ちが躍っていることが分かる、素晴らしい作品です。
前作「西のはての年代記3部作」ほど思索的な作品ではありませんが、ストレートに読み進むことが出来て、その中にもル=グウィンらしい考え方が反映している読み物です。
高校生ぐらいから楽しむことができる本ですので、ぜひどうぞ。
ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』にインスパイアされて執筆された読み物です。
『アエネーイス』自体は、日本国内では絶版になっており、自身も読んだことないのですが、本書は古代イタリアを舞台にして、地方王族の王女であるラウィーニアが主人公となり、英雄アエネーアスとの出会い、そして後のローマ帝国につながる流れを、女性の視点で描いた作品です。
非常に完成度の高い小説で、大人が読んで楽しむ作品です。
ル=グウィンはもう70歳をはるかに越えた高齢の作家ですが、その中ではまだ新鮮な想いや気持ちが躍っていることが分かる、素晴らしい作品です。
前作「西のはての年代記3部作」ほど思索的な作品ではありませんが、ストレートに読み進むことが出来て、その中にもル=グウィンらしい考え方が反映している読み物です。
高校生ぐらいから楽しむことができる本ですので、ぜひどうぞ。
2020年10月8日に日本でレビュー済み
文庫になって初めて読んだ。一読後、「文学って、こんなに面白いものだったんだ!」と久々に思った。ル・グウィンを読むのは、昔子どもたちと「ゲド戦記」を読んで以来何十年ぶり?のことになる。以来歳を取ってから自分なりに翻訳でダンテ、ホメーロス、ギリシア悲劇等々とヨーロッパの古典文学に親しんできたが、その中でウェルギリウスの「アエネーイス」は、正直言ってあまりにも作り物の二番煎じめいていて、ホメーロスの「イーリアス」や「オデュッセイア」の躍動する面白さには適わないと思っていた。ところがル・グウィンはそれを逆手に取って、作り物だからこそつけ込む隙もあらばこそ、とことん想像力をふくらませてこんな「世界文学」を書いてしまった。ヘルマン・ブロッホの畢生の大作「ウェルギリウスの死」が古典を踏まえた20世紀文学の極北にあるとすれば、「ラウィーニア」は21世紀の古典であると言ってよい。
だってね、「アエネーイス」を読んだことがある人なら、ラウィーニアと言われてもほとんど記憶に残っていないじゃない。実際、悲恋のディードやクレウーサのことは描かれていても、血で血を洗う戦さの元となるラティーヌス王の娘についてはほんの数行しか触れられていない。なんでこんな大きな戦さを始めてしまったのか、天上の女神たちの諍いは描かれていても、肝心の地上の人間たちの事情はいまひとつわからない。そこに着目して、ほとんどウェルギリウスが描かなかった王の娘を主人公にして、もうひとつの「アエネーイス」を描いたのが本書だ。しかもそこには当のウェルギリウスという死を目前にした詩人が、女神たちのかわりに数世紀先の未来から生き霊として王の娘の前に預言者として現れる。この辺が凄いところだ。
ただし前半は構成がかなり複雑で、「アエネーイス」を読んでいない人にはなかなか物語に入っていきにくいかもしれない。逆に後半は、「アエネーイス」を読んだ人ならたいてい思ってしまうはずの「えっ? ここで終わってしまうの?」という未刊の物語の後日談を、ラウィーニアの視点から語り継ぐ話となっていて興味深い。ル・グウィンの最後の長編というに実にふさわしい。
(*ちなみに「アエネーイス」の翻訳は、岩波文庫の泉井久之助訳は七五調の韻文訳で若い人にはあまり向かない。杉本正俊訳の新訳(新評論)がお勧めだが高価な本なので、筋をたどるだけなら小野塚友吉訳の「アエネイス」がKindle版もあり手軽だ)。
だってね、「アエネーイス」を読んだことがある人なら、ラウィーニアと言われてもほとんど記憶に残っていないじゃない。実際、悲恋のディードやクレウーサのことは描かれていても、血で血を洗う戦さの元となるラティーヌス王の娘についてはほんの数行しか触れられていない。なんでこんな大きな戦さを始めてしまったのか、天上の女神たちの諍いは描かれていても、肝心の地上の人間たちの事情はいまひとつわからない。そこに着目して、ほとんどウェルギリウスが描かなかった王の娘を主人公にして、もうひとつの「アエネーイス」を描いたのが本書だ。しかもそこには当のウェルギリウスという死を目前にした詩人が、女神たちのかわりに数世紀先の未来から生き霊として王の娘の前に預言者として現れる。この辺が凄いところだ。
ただし前半は構成がかなり複雑で、「アエネーイス」を読んでいない人にはなかなか物語に入っていきにくいかもしれない。逆に後半は、「アエネーイス」を読んだ人ならたいてい思ってしまうはずの「えっ? ここで終わってしまうの?」という未刊の物語の後日談を、ラウィーニアの視点から語り継ぐ話となっていて興味深い。ル・グウィンの最後の長編というに実にふさわしい。
(*ちなみに「アエネーイス」の翻訳は、岩波文庫の泉井久之助訳は七五調の韻文訳で若い人にはあまり向かない。杉本正俊訳の新訳(新評論)がお勧めだが高価な本なので、筋をたどるだけなら小野塚友吉訳の「アエネイス」がKindle版もあり手軽だ)。
2015年7月1日に日本でレビュー済み
ヴェルギリウスの『アエネーアス』に数行描かれただけのラウイーニアの視点から語られた物語。後半はヴェルギリウスが亡くなった為描かれなかったアエネーアス亡き後の後継者を巡る物語。
ファンタジーや歴史物語なのに登場人物の物の考え方が現代的で合理的なのでがっかりする時があるが、この作品は違う。古代人の感じ方、考え方がみずみずしく格調高く描かれている。神託や前兆を全面的に信ずるが、戦いを好む男達が台無しにする。
ル・グウィンの描くラウイーニアは男のいうままにならない。森に逃れ隠れるという方法で抵抗する。「逃げ隠れる」と言う抵抗だ。
弱くしなやかだが折れないラウィーニアがマッチョな男達をなしくずしに負かしていく物語。現代と違うものの考え方の世界に浸れる傑作。
ファンタジーや歴史物語なのに登場人物の物の考え方が現代的で合理的なのでがっかりする時があるが、この作品は違う。古代人の感じ方、考え方がみずみずしく格調高く描かれている。神託や前兆を全面的に信ずるが、戦いを好む男達が台無しにする。
ル・グウィンの描くラウイーニアは男のいうままにならない。森に逃れ隠れるという方法で抵抗する。「逃げ隠れる」と言う抵抗だ。
弱くしなやかだが折れないラウィーニアがマッチョな男達をなしくずしに負かしていく物語。現代と違うものの考え方の世界に浸れる傑作。
2020年4月28日に日本でレビュー済み
私の長い読書人生において最も好きな本。読了が近づかないようにゆっくりゆっくり読んだ。
2009年11月25日に日本でレビュー済み
ル=グィンが、ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」をもとに、そこに登場するラウィーニアを語り手に描く「ローマ前夜」のファンタジーです。
ウェルギリウスと言う詩人も、ましてや「アエネーイス」と言う作品も知らず、「ローマ」の成立についても世界史の授業で習ったありきたりの伝説しか知らない私でさえ、「ローマ前夜」はかくもありなんと思える説得性のある文章で描かれています。
何よりも、今までのル=グィンの作品ほど説明的でなく、あくまで「物語」中心の作品であり、非常に完成度の高い作品です。
カバーに「ル=グィンの最高傑作」とありますが、確かにそう言えるだけの作品だと思います。
物語は、ラウィーニアがお告げによって、トロイア戦争の英雄アエネーアスに出会うもので、彼の波乱万丈の人生同様、幾多の苦難を乗り越えて、将来の王たるシルウィウスを育てる物語です。
非常に神話的な物語ですが、心に浸み込んでくる物語です。
ウェルギリウスと言う詩人も、ましてや「アエネーイス」と言う作品も知らず、「ローマ」の成立についても世界史の授業で習ったありきたりの伝説しか知らない私でさえ、「ローマ前夜」はかくもありなんと思える説得性のある文章で描かれています。
何よりも、今までのル=グィンの作品ほど説明的でなく、あくまで「物語」中心の作品であり、非常に完成度の高い作品です。
カバーに「ル=グィンの最高傑作」とありますが、確かにそう言えるだけの作品だと思います。
物語は、ラウィーニアがお告げによって、トロイア戦争の英雄アエネーアスに出会うもので、彼の波乱万丈の人生同様、幾多の苦難を乗り越えて、将来の王たるシルウィウスを育てる物語です。
非常に神話的な物語ですが、心に浸み込んでくる物語です。
2010年10月20日に日本でレビュー済み
A・K・ル=グィンの晩年の傑作。
のちのちそう呼ばれるのだろう。
失礼ながら、著者がまだお元気で書いておられたことに脱帽。
その点を割り引いても佳作です。気品ある落ち着いた歴史小説……にみえて、実は骨組みがSF。
題材は紀元一世紀ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』。
帝政初期の詩人がさらに大昔、おそらく事実無根の自国[王政ローマ]の建国伝承を扱った作品。
ウェルギリウスの作中では、ローマの祖は焼け落ちるトロイアから逃げ延びたアフロディテの息子アエネーイス、ということになっている。
「ラウィーニア」は、この余所からきた英雄と結婚した地元の王女の名前。
一見ふつうの歴史小説風のル=グィンの『ラウィーニア』のヒロインはもちろんラゥーニアです。活き活きと賢く活発な少女ラゥイーニアがあるとき森で未来の夫[=アエネーイス]について予言を受ける。
ポイントは、ラィーニアに未来を知らせることになるのが遠い未来の実作者ウェルギリウスである点だろう。詩人は皇帝の機嫌を損ねて追放されている。仕上がりかけの叙事詩『アエネーイス』に心を残したまま客土で死にかけている、といった状態。
この瀕死の詩人にとってラゥイーニアは「わたしの作品のなかの人物」。
作者が自分の作品のなかに入り込んでしまう、という展開はよく見る気がするものの、語り手兼主人公が不意打ちで「わたしはだれかの作品の登場人物なのかもしれない」と悟らされるパターンは珍しい。この枠組みのおかげか、大筋としてはシンプルな物語が厚みを増している。また、「はじめから定められた運命と向き合う主人公」という古風に悲劇的な風情が醸し出されている。
そのような感じで実はわりとSF……と呼ぶのかは知りませんが、純然たるシンプルな歴史小説ではない。ウェルギリウスの創作世界と詩人自身の現実が重なり合っている。さすがにル=グィンです。
が、後半、詩人が引っ込んでラゥイーニアが「彼女の属する世界」でのみ戦い始めて以降は、私にはやや退屈だった。全体にあまり葛藤しないヒロインなのだ。☆マイナス1はその点について。本当はマイナス半分くらいでいいのだが。
のちのちそう呼ばれるのだろう。
失礼ながら、著者がまだお元気で書いておられたことに脱帽。
その点を割り引いても佳作です。気品ある落ち着いた歴史小説……にみえて、実は骨組みがSF。
題材は紀元一世紀ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』。
帝政初期の詩人がさらに大昔、おそらく事実無根の自国[王政ローマ]の建国伝承を扱った作品。
ウェルギリウスの作中では、ローマの祖は焼け落ちるトロイアから逃げ延びたアフロディテの息子アエネーイス、ということになっている。
「ラウィーニア」は、この余所からきた英雄と結婚した地元の王女の名前。
一見ふつうの歴史小説風のル=グィンの『ラウィーニア』のヒロインはもちろんラゥーニアです。活き活きと賢く活発な少女ラゥイーニアがあるとき森で未来の夫[=アエネーイス]について予言を受ける。
ポイントは、ラィーニアに未来を知らせることになるのが遠い未来の実作者ウェルギリウスである点だろう。詩人は皇帝の機嫌を損ねて追放されている。仕上がりかけの叙事詩『アエネーイス』に心を残したまま客土で死にかけている、といった状態。
この瀕死の詩人にとってラゥイーニアは「わたしの作品のなかの人物」。
作者が自分の作品のなかに入り込んでしまう、という展開はよく見る気がするものの、語り手兼主人公が不意打ちで「わたしはだれかの作品の登場人物なのかもしれない」と悟らされるパターンは珍しい。この枠組みのおかげか、大筋としてはシンプルな物語が厚みを増している。また、「はじめから定められた運命と向き合う主人公」という古風に悲劇的な風情が醸し出されている。
そのような感じで実はわりとSF……と呼ぶのかは知りませんが、純然たるシンプルな歴史小説ではない。ウェルギリウスの創作世界と詩人自身の現実が重なり合っている。さすがにル=グィンです。
が、後半、詩人が引っ込んでラゥイーニアが「彼女の属する世界」でのみ戦い始めて以降は、私にはやや退屈だった。全体にあまり葛藤しないヒロインなのだ。☆マイナス1はその点について。本当はマイナス半分くらいでいいのだが。