ミャンマーは、長らく、「軍事独裁政権が運営する仏教徒による社会主義国家」として独自の道を歩んできた。中国に支援された軍事政権は、「民主化の敵」として前世紀の遺物のように国際社会から批判されてきた。
実は、日本現代史にとって、ミャンマーは、歴史的に忘れがたい土地なのだ。この地から、中国の昆明に「援蒋ルート」が通っていたからである。ドイツに唆されて始めた「上海事変」で引っ込みがつかなくなった蒋介石に英米は、「援蒋ルート」による軍需物資の提供と対日徹底抗戦を勧めた。だから、ここを遮断しない限り、日本の中国での勝利はおぼつかなかった。同様に、戦後の共産党中国にとっても、このミャンマーを強い影響下に置くことはインド洋への進出のために不可欠のことだった。
「アウンサンスーチー女史」の父、アウンサンは、当初は日本に保護され、「南機関」を率いた鈴木敬司大佐と協力して反英独立運動の志士として活動した。西郷隆盛を尊敬し、日本人には「オンサン」と呼ばれた。インパール作戦の失敗で日本の敗色が濃くなると、密かにイギリスに近づき、日本撤退後の独立運動に備えた。しかし、破廉恥漢ではなかったことは、1947年、鈴木大佐がBC級裁判にかけられようとしたとき、猛烈な国民運動を起こして「恩人」を釈放させた一事をもって分かる。結局、イギリスに憎まれ、イギリスが復活させた政敵ウ・ソォに32歳の若さで暗殺されるのだが。
このミャンマーが、今、大きく変化しようとしている。中国から離れて米日に接近している。著者によれば、人口6200万人のこの国は、人件費が中国の六分の一であり、巨大経済特区が今動き出そうとしているという。郵便、電信、鉄道、新幹線、その他立ち後れたインフラ整備に力を注ごうとしている。「アジア最後のフロンティア」と呼ぶにふさわしい状態であるという。
著者はまた、ミャンマー独特の国情にも触れる。「貧困層による反政府暴動がない不思議」(p42)は、国民の大半が「貧困層」でありながら、暴動も犯罪も起きないことに言及する。その秘密は、「唖然とするほどの食料の豊かさ」にあるという。主力産業の80パーセントが農業という国であるが、米が年に三回取れるほど自然に恵まれている。当然、国民性は、穏やかで、慎ましやかだ。「恩を仇で返して平然としている国とは異なる」と著者は力説する。
ミャンマーが豊かな民主国家に変貌するには、まだまだ困難なことも多いだろう。しかし、著者は、日本は自信を持って、ミャンマーの国作りに協力すべきだという。何度も取材した著者の語る言葉には説得力がある。
(タイトルに記した「水島上等兵」とは、もちろん竹山道雄原作「ビルマの竪琴」の主人公のことである。竹山はこの物語を童話のようなものと考え、舞台はフィリピンでもタイでもいいと考えていたが、ミャンマーにすることで最も豊かな舞台を得た。包囲された日本兵と包囲したイギリス兵が「埴生の宿」を合唱するのはメルヘンチックな願望だが、竹山は戦死した教え子の霊を慰めたかった。ここで18万人の日本兵が亡くなったこと、今年、訪問した安倍首相がヤンゴンの霊廟にお参りしたことも紹介されている。市川崑監督のリメイク版では「水島」役を中井貴一が演じたが、その映画を見たアウンサンスーチーの感想も本書には書かれている。)
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。

Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。