古き良き時代の雰囲気を感じさせるクラシックなミステリーの楽しみを現代に甦らせてくれた新鋭女流本格派マリエットの待望の2作目が紹介されました。今回は覚えるだけでも大変で頭が痛くなりそうな大勢の容疑者が登場するフーダニット・ミステリーなのですが、本書の登場人物一覧にはそれぞれに洒落た人物評やコメントが添えられていまして、それを読む事でストーリーをより深く理解する助けになりましたので、これは(恐らく訳者様か編集部様の)ナイス・ファインプレーだなあといたく感心致しました。
スコットランドのエジンバラ郊外にある古城ホテルでミステリ作家が集う会議が開催される事となり、その目玉は新鋭女流作家キンバリー・カルダーの成功を祝う催しだったが、やがて彼女を巡る利害関係が不穏な雰囲気を醸成する中で嵐の夜遂に当人が殺されてしまう。丁度会議での講演を依頼され滞在していたケンブリッジシャー州警察のセント・ジャスト警部が地元警察のムーア警部と協力して捜査に着手するのだった。
本書の停電による跳ね橋の故障で出入り不能となる状況や大勢の人物の近況を冒頭から少しずつ描写する手法等から見て著者はクリスティー女史の不朽の名作「そして誰もいなくなった」を意識して本作を書かれたのでしょう。でもそのままの設定ではなく読者を油断させておいて意表を突くトリックはお見事ですし、逆に犯人の正体はクリスティー女史の作風を思わせる内容で思わずニヤリとしました。しいて不満を述べれば冒頭の見取り図が全く手掛かりにならない事やプロらしからぬ警察の失態が挙げられますが、何もかもが完璧には行きませんしそれらは今後の課題として改善を望みたいと思います。そして何と言っても本書の目玉は男やもめのセント・ジャスト警部が三年前に愛する妻と死に別れた事情を語り、新たに容疑者の女流作家ポーシャに激しい恋心を抱くロマンス劇の行方を追う魅力的な人間ドラマです。職務に忠実で厳格な警部ですから恋にのめり込む訳に行かない苦しい状況であったり片やポーシャの側にも無条件で受け入れられない事情を持たせたりして著者はそうすんなりと恋愛を成就させてはくれませんが、まあ愛は簡単ではなく障害がある程に熱く燃え上がるものですしこちらも次作以降の展開がとても楽しみです。
最近はコージー・ミステリーが元気で複雑な推理物はやや影が薄いですが、ガマシュ警部シリーズのルイーズ・ペニーや本シリーズのマリエット女史には今後もますますがんばって頂いて昔ながらの本格ミステリーファンを楽しませて欲しいと願っています。
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ミステリ作家の嵐の一夜 (創元推理文庫) 文庫 – 2012/10/30
嵐で閉ざされた古城ホテル、牢獄で発見された女性ベストセラー作家の死体。欧米の出版事情をコミカルに描く、傑作犯人捜しミステリ。セント・ジャスト警部シリーズ第2弾。
- 本の長さ414ページ
- 出版社東京創元社
- 発売日2012/10/30
- ISBN-104488221041
- ISBN-13978-4488221041
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
ミステリ作家とその卵、ファンや作家エージェントの交流会である病院到着時死亡会議。その会期中に、新進女性作家キンバリー・カルダーの成功を祝う出版社主催の宴が古城ホテルで開かれることになった。同業者たちの妬み渦巻く嵐の夜、停電で跳ね橋が動かなくなり半ば孤立した城で惨劇が…。欧米の出版事情をコミカルに描きつつ、巧みに伏線を忍ばせた、傑作犯人探しミステリ。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉澤/康子
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年12月4日に日本でレビュー済み
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役に立った
2014年1月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
前作と同じく、登場人物がとても多く、読みながら何度も登場人物の一覧を確認しました。それでも、それぞれ個性的なミステリ作家とそのエージェントたちの人間臭いやり取りはそれなりに楽しめましたし、その人たちが犯人となりうる胡散臭さも感じられました。彼らがさらにいろいろ背景に抱えていたことが、最後に簡単に書かれていましたが、それがもう少し前の時点で出されていたら、読み手はさらにいろいろと勘繰って、犯人探しを楽しめたのかもしれないと思いました。
今回は、セント・ジャスト警部とスコットランドの警察官たちとのやり取りに、イングランドとスコットランドの人たちの間の微妙な感情が感じ取れて面白かったです。またアメリカで発表された作品をイギリスで発表するときには、文言や綴りを「翻訳」して「修正」する、というくだりなども、興味深かったです。
今回は、セント・ジャスト警部とスコットランドの警察官たちとのやり取りに、イングランドとスコットランドの人たちの間の微妙な感情が感じ取れて面白かったです。またアメリカで発表された作品をイギリスで発表するときには、文言や綴りを「翻訳」して「修正」する、というくだりなども、興味深かったです。