本書は、「時間の政治学」をテーマとしている。第一部で示されるように、中世から初期近代には、ポーコックによれば、世俗的な時間を認識する手段として、慣習や経験を利用する様式と、摂理や恩寵に依拠する様式があった。彼の議論は、マキァヴェッリの思想にこれら二つの様式からの突破を見出すものである。さらに、「マキァヴェリアン・モーメント」の意味のもう一つは、共和国の形成とその安定化に関する理論であり、換言すれば、共和国が「徳」によって「運命の支配」や「腐敗」を克服しようとする知的営為である。ポーコックの作業は、人間の政治的本性を完成させようとするアリストテレス的パラダイムを(キリスト教的時間認識の文脈の中で)見出そうとするものである。
第二部で扱われているように、市民的人文主義のこの時間認識は、マキァヴェッリ、グィッチァルディーニ、ジャンノッティなど、都市国家フィレンツェの思想に見出すことができる。さらに、第三部で示されているように、この共和主義パラダイムは、ハリントンや新ハリントン主義者など、17-18世紀のイングランド思想家たちの著作からも抽出される。その発掘作業は、最終章で描写されているように、建国期のアメリカにも向けられている。ポーコックは、慣習の言語やキリスト教終末論の言語を提示しつつ、このパラダイムの様々なバリエーションを描き出している。
本書は1975年の公刊以後、周知のように、政治ないし経済思想史研究に強烈な衝撃を与えている。そのパラダイムの輪郭は、必ずしも明確というわけではないが、従前の政治思想がさほど着目しなかった視点を提供したと言ってよいだろう。現在では、本書に言及せず包括的な政治思想史を展開する研究家はほとんどいない。また、個々の政治思想家に対する彼の解釈も、きわめて刺激的であり、それゆえ、ポーコックに対する研究者たちの挑戦は、個別的な思想家の解釈レベルでも続いており、実際に修正されるべき点も少なくないと思う。この分野に関心を抱く研究者ならば、必読の古典的作品であるが、残念ながら、初学者が容易に読み通せる代物ではない。
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