表題作の他、「コウノトリが運ぶもの」、「青い果実のタルト」、「共犯のピエ・ド・コション」、「追憶のブーダン・ノワール」、「ムッシュ・パピヨンに伝言を」、「タルタルステーキの罠」及び「ヴィンテージワインと友情」の8つの短編から構成されるフレンチ・レストランのシェフ三舟を探偵役とした連作ミステリ短編集。シリーズの三作目らしいが、本シリーズを読むのは私は初めて。物語は店のギャルソンの高築の一人称で語られる。
しかし、一読、ガッカリした。ミステリ味が全くしないのである。一応、シェフが謎解きをするというのがウリの筈なので、これは拙いだろう。人情噺、不倫話、再婚話、LGBT問題などを読まされてもウンザリするだけ。作者の持ち味は取材力なので、食物アレルギー、偏食、自然食品などの食習慣を含むフランス料理については詳しく書かれているが、ミステリ味(皆無だが)とのバランスが悪過ぎる。これなら料理小説に徹した方が良い。
付言すれば、素材の組み立て方が悪い。例えば、ブリオッシュというパンが女性の乳房を模ったものなんて一般読者が知る筈がないから、これを謎解きのネタにするなら途中で伏線を張るのがミステリとしての作法であって、最後に、シェフが唐突に「ブリオッシュというパンは女性の乳房を模ったものなんだよ」と言っても単なる後出しジャンケンで興趣が全くない事を作者は知るべきである。ミステリ作家としての作者の資質を疑わせるに充分な愚作である。
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