「雨が降っている。」という、ありふれた状況に対して、主人公ジャックと息子のハインリッヒが静かな議論を繰り広げる場面がある。
大学教授が思春期入口の少年に、完膚なきまでに言い負かされる場面でとても印象深い。
この暗示的な二人のやりとりは、言葉の仮象性を予告しているようで、本作における数多の挿話を読み解く上で手掛かりになるような気がする。
表題のホワイトノイズは、和訳で白色雑音のことを指し、電気回路では必ず発生する類の雑音であるという。
テレビの「シャーー」と聞こえるあの音だ。人の神経回路が摸されているとすれば、そこから聞こえてくるホワイトノイズは「死」である。
登場人物のそれぞれにしっかりと目を向けると、微かに、けれども確かに死のノイズが聞こえてくるはずだ。
あとがきにも、この小説をどう読むかは読者の手に委ねたい。とある。
しかし、小説の意図するところは茫漠としており、難解と言ってもいい。
これから読む者には、読後の消化不良感をあらかじめ覚悟しておくことをお勧めする。
人はまず観念的に死に立ち向かい、死へ肉薄するにつれ、今度は死を忘却の彼方へ追いやろうとする。
初めはゆっくりと、徐々に加速度を増しながら。
延命治療を拒否していた者が、土壇場で命乞いをすることがあるのを知っていれば、さほど意外な話でもないだろう。
主人公ジャックも、ヒトラー研究を隠れ蓑にして死からの逃避を図るが、
化学物質の被爆によって否応なく死と直面することを余儀なくされる。
個人的には、ジャックがホワイトノイズを意識しながら、
第三の道(立ち向かうのでもなく、逃避するのでもなく)を選択したことには、とても共感することはできなかったが、
死を具体的に見据えた時の現実とは、余人の想像をはるかに超えることくらいは想像できる。
散乱するノイズのように、徹頭徹尾まとまりを欠く展開に面食らうところもあるが、日常に潜む死をはっきりと意識させられる傑作である。
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