この本は数あるナチによるユダヤ人の絶滅政策の中でもトップにランクされる本である。原書の「The World Must Know」(世界は知らなければならない)の方が正しい表現だろう。それほど、この本は啓蒙的である。他の追随を許さないほどの内容で、よくまとまっている。これほどのことをしでかしたドイツ人というものをドイツで6年以上を生活したことがある自分にはとても信じられないのだが。
著者はワシントンにある国立ホロコースト記念博物館の研究所所長であるマイケル・べーレンバウムです。1996年に発行された本書は過去の文献を余すところなくまとめ上げ、ホロコースト研究書としてこれまでで一番詳しいものです。 私は中国が、ドイツがホロコーストに対して国家賠償していない事、ドイツが行った保証はホロコーストにのみに対してである事を隠して、個人賠償している事だけをことさら取り上げドイツを見習えと主張する事に疑問を感じ、ホロコーストの全容を学ぶべく本書を読みました。原作の「THE WORLD MUST KNOW」に描かれるホロコースト内容はさすがに凄まじく、500ページにおよぶ大作でありますが、写真や資料も豊富で一気に読めてしまいます。 「アーリア人種は優秀な民族であることを運命づけられており、なかでもドイツ民族は人類のなかでももっとも優秀な人種」である(50ページ)。どこかで聞いたような中華思想に通じるフレーズ。ユダヤ人はキリスト教徒の子供を殺し、その血を使って祭りのための種なしパンを作るのだという根拠のない話が意図的に流布され(34ページ)、これによりユダヤ人に対する暴力行為が多発していきました。これも今の中国の反日暴動に通じるものがあります。 それにしても、アメリカがアウシュビッツを爆撃していたら、これほど多くのユダヤ人が殺される事はなかったと考えるのは歴史の傍観者ゆえのエゴでしょうが、アメリカ軍はなぜアウシュビッツを攻撃できる状況だったのに攻撃しなかったのでしょうか。ホロコースト研究はこのようにアメリカで進んでいても、原爆博物館(核兵器博物館)は2005年が「世界物理年」だからといって、アインシュタインの功績を称えるという趣旨でやっとラスベガスに出来たのも考えさせられます。核兵器は負の遺産でしかないのになぜ称える必要があるのか。キノコ雲をプリントしたTシャツやマグカップなども売られている。ともあれ、ドイツのみでなく中国・アメリカも視野に入れると益々視野が広がります。