ドイツ革命についての教科書的、或いは受験的理解は、キール軍港で無謀な出撃命令に対して水兵が起こした反乱が契機となり、ドイツ皇帝が退位し、第一次世界大戦が終わったと言うことで十分だろう。だが、ワイマール共和国を経てナチスの時代に繋がるドイツ近現代史の理解の為には不足だ。
本書では、ベルリンに移動した水兵達が、首都の労働者と連帯して革命運動を起こし、最終的には武力衝突を経て鎮圧される過程。所謂「修正主義路線」を採る社会民主党が、将軍や資本家と組んで「反革命派」として武力弾圧に回る姿。マルクス主義の正統派を任じつつも優柔不断に終始する「独立社会民主党」。そして、主人公の13歳の少年「ヘレ」の父親が加わり、最終的には母親も参加することになる「スパルタクス団」(ドイツ共産党の前身)のあくまで社会革命を目指す戦いが描かれる。
冷戦時代に東独から西独へ逃れた著者の立ち位置は、ソ連や戦前のドイツ共産党・戦後の東独の社会主義統一党の「レーニン主義」~「スターリン主義」路線に否定的だが、「スパルタクス団の理想」と「その理想に応じた労働者や水兵達」に、強い共感を隠さない。後書きでも述べているが、スパルタクス団の主要リーダーであったリープクネヒトとローザ・ルクセンブルクが生き延びて、革命を成し遂げていたら・・・・との思いがあるようだ。
以上のように紹介すると、理屈っぽい「政治ドラマ」と言う印象になるが、著者は、登場人物の性格を巧みに描き分け、苦境に耐える家族の姿を語り尽くすことにより、読者に人間的感動をもたらすことに成功している。
主人公の両親、栄養失調による病に苦しむ幼い妹と弟、そして主人公が、一人も欠けることなく、助け合いながら生き抜く姿。貧しくとも愛情溢れる家庭だ。主人公の住む狭いアパートに逃れて来た「赤い水兵」との交友、否応なく巻き込まれて行く革命運動の嵐の中で、成長を遂げて行く主人公。同じアパートの半地下に住む母子家庭の結核を病んだ少女と主人公のほのかな初恋。一気に読み終えた後にも余韻の残る名作だった。
(以上は、上下2巻分の一括レビューです。)
ベルリン1919 赤い水兵(上) (岩波少年文庫) (日本語) 単行本 – 2020/2/16
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本の長さ352ページ
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言語日本語
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出版社岩波書店
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発売日2020/2/16
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ISBN-104001146215
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ISBN-13978-4001146219
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
1918年冬、ドイツ帝国下のベルリン。戦争がはじまって4年が過ぎ、貧しい労働者一家の息子、ヘレはいつもお腹を空かせていた。だが水兵たちのストライキをきっかけに、ついにベルリンでも平和と自由をもとめるデモがはじまり…。中学以上。
著者について
クラウス・コルドン
1943年生まれ。ドイツの作家。ベルリン生まれ。東西ドイツの分裂後は、旧東ドイツの東ベルリンに育つ。さまざまな職業を経たのち、貿易商社につとめ、インド、インドネシア、北アフリカを訪れる。1972年、西側への逃亡に失敗し、1年間拘留される。独居房での5か月を、頭のなかで小説を書くことで生きのびたという。西ドイツ政府によって73年に釈放されると、その後、西ベルリンに移住した。1977年にインドネシアを舞台とする『タダキ』でデビュー。以来、数多くの児童書やYA作品を発表する。評伝『ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家』でドイツ児童文学賞受賞。『ベルリン1933 壁を背にして』で、銀の石筆賞受賞。
酒寄進一(さかより しんいち)
1958年生まれ。翻訳家。和光大学教授。上智大学を卒業後、ケルン大学、ミュンスター大学に学ぶ。ドイツの児童文学やファンタジー、ミステリなど幅広い作品の紹介を手がける。訳書にヴェデキント『春のめざめ』(岩波書店)、クルト・ヘルト『赤毛のゾラ』(福音館書店)、シーラッハ『犯罪』『コリーニ事件』(ともに東京創元社)などがある。
1943年生まれ。ドイツの作家。ベルリン生まれ。東西ドイツの分裂後は、旧東ドイツの東ベルリンに育つ。さまざまな職業を経たのち、貿易商社につとめ、インド、インドネシア、北アフリカを訪れる。1972年、西側への逃亡に失敗し、1年間拘留される。独居房での5か月を、頭のなかで小説を書くことで生きのびたという。西ドイツ政府によって73年に釈放されると、その後、西ベルリンに移住した。1977年にインドネシアを舞台とする『タダキ』でデビュー。以来、数多くの児童書やYA作品を発表する。評伝『ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家』でドイツ児童文学賞受賞。『ベルリン1933 壁を背にして』で、銀の石筆賞受賞。
酒寄進一(さかより しんいち)
1958年生まれ。翻訳家。和光大学教授。上智大学を卒業後、ケルン大学、ミュンスター大学に学ぶ。ドイツの児童文学やファンタジー、ミステリなど幅広い作品の紹介を手がける。訳書にヴェデキント『春のめざめ』(岩波書店)、クルト・ヘルト『赤毛のゾラ』(福音館書店)、シーラッハ『犯罪』『コリーニ事件』(ともに東京創元社)などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
コルドン,クラウス
1943‐。ドイツの作家。ベルリン生まれ。東西ドイツの分裂後は、旧東ドイツの東ベルリンに育つ。さまざまな職業を経たのち、貿易商社につとめ、インド、インドネシア、北アフリカを訪れる。1972年、西側への逃亡に失敗し、1年間拘留される。西ドイツ政府によって73年に釈放されると、その後、西ベルリンに移住した。1977年にインドネシアを舞台とする『タダキ』でデビュー。以来、数多くの児童書やYA作品を発表する。評伝『ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家』でドイツ児童文学賞受賞。『ベルリン1933―壁を背にして』で、銀の石筆賞受賞
酒寄/進一
1958年生まれ。翻訳家。和光大学教授。上智大学を卒業後、ケルン大学、ミュンスター大学に学ぶ。ドイツの児童文学やファンタジー、ミステリーなど幅広い作品の紹介を手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1943‐。ドイツの作家。ベルリン生まれ。東西ドイツの分裂後は、旧東ドイツの東ベルリンに育つ。さまざまな職業を経たのち、貿易商社につとめ、インド、インドネシア、北アフリカを訪れる。1972年、西側への逃亡に失敗し、1年間拘留される。西ドイツ政府によって73年に釈放されると、その後、西ベルリンに移住した。1977年にインドネシアを舞台とする『タダキ』でデビュー。以来、数多くの児童書やYA作品を発表する。評伝『ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家』でドイツ児童文学賞受賞。『ベルリン1933―壁を背にして』で、銀の石筆賞受賞
酒寄/進一
1958年生まれ。翻訳家。和光大学教授。上智大学を卒業後、ケルン大学、ミュンスター大学に学ぶ。ドイツの児童文学やファンタジー、ミステリーなど幅広い作品の紹介を手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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役に立った
2020年8月12日に日本でレビュー済み
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教科書や資料から、私たちは歴史を学びますが、本当の意味でその時代を理解するには、物語はとても助けになるな、と思いました。主人公の家族の物語を通して、高校の歴史で習ったけれど、うろ覚えだったカール・リープクネヒトやローザ・ルクセンブルクが、どんな人だったのか、より具体的に知ることができました。上巻は、主人公の置かれた状況説明中心ですが、下巻になると歴史の流れに沿って急展開するので、先が気になり一気に読んでしまいました。要所要所で、心に響く言葉が散りばめられています。世の中には様々な価値観があって、どれが正しいと一概に言えなかったり、正しいとしても他の人にその正しさを理解してもらうことの難しさがあったりする。そういうこともこの本を通して考えさせられました。
主人公やその周りの人達はフィクションですが、歴史的人物は実在するので、良い副読本がないかなといくつか図書館で借りてみましたが、「図説 ドイツの歴史(ふくろうの本)」には、ほど良くこの本に関連する写真や解説が49〜53ページに載っているのでお勧めです。
米英のアマゾンで検索したところ、この本は英語訳はされていないようで、かつドイツでもレビュー数は15件(2020年8月現在)と決して話題作ではないようですが、岩波少年文庫に入るだけあって、読む価値のある本だと思います。続きも頑張って読もうと思います!
主人公やその周りの人達はフィクションですが、歴史的人物は実在するので、良い副読本がないかなといくつか図書館で借りてみましたが、「図説 ドイツの歴史(ふくろうの本)」には、ほど良くこの本に関連する写真や解説が49〜53ページに載っているのでお勧めです。
米英のアマゾンで検索したところ、この本は英語訳はされていないようで、かつドイツでもレビュー数は15件(2020年8月現在)と決して話題作ではないようですが、岩波少年文庫に入るだけあって、読む価値のある本だと思います。続きも頑張って読もうと思います!
VINEメンバー
キール軍港の水兵反乱に端を発したドイツ革命と庶民の生活とを、ベルリンの貧民街に住む少年の目で描く。4年に及ぶ大戦に倦んだ庶民は「パンと平和」を求めて共産主義革命に共感するが、その後の歴史を読者はすでに知っている。
作者の立場は革命側にあり、旧体制はすべて悪として描かれる。「戦争はじつのところ、ただの略奪行為さ」(p.60)というルディの言葉は正しい。けれど女性労働者の言葉「資本主義というのは、戦争と嫉妬と貧困のことだよ」(p.181)を、私はもはや行き過ぎと感じる。そして手回しオルガン弾きオスヴィンの「不正と戦うには時間がかかるんだ。武器で戦ってはだめだ」(p.247)に、より強い共感を抱く。もちろん性急な革命も、最初の第一歩を踏み出すには有効だ。けれど問題はその後である。体制変革が著しいほど、副作用は大きい。敗戦国ドイツがそれに耐えられたとは思えない。
またドイツの共産主義革命には思想がなかった。私はあらゆるイデオロギーが嫌いだけれど、無知な民衆を扇動するのに、思想は大変役に立つ。「食わせろ」だけで庶民の協力は続かないのだ(混乱の中での富の再分配は不可能である)。またもし、より優れた指導者が革命を率いたとしても、ロシア革命に懲りた周辺国がそれを許さなかっただろう。
だからこれが、虐げられた労働者が蜂起した心正しき革命が悪しき既得権者の強大な力を前に儚くも潰えた、とする物語なら、読者をミスリードすることになる。
文章は読みやすいが翻訳に一部不満がある。「ベルリンの空気」(p.86)は多分Paul Lincke作「Berliner Luft」で、これは「ベルリンの風」と訳されることが多い。「慈愛病院」(p.335)は(意味は正しいが)シャリテ(Charité)病院だろう。また訳注*6を見る限り、訳者に社会主義と共産主義との区別ができているのか疑問である。これはとても大切なことなのに。
作者の立場は革命側にあり、旧体制はすべて悪として描かれる。「戦争はじつのところ、ただの略奪行為さ」(p.60)というルディの言葉は正しい。けれど女性労働者の言葉「資本主義というのは、戦争と嫉妬と貧困のことだよ」(p.181)を、私はもはや行き過ぎと感じる。そして手回しオルガン弾きオスヴィンの「不正と戦うには時間がかかるんだ。武器で戦ってはだめだ」(p.247)に、より強い共感を抱く。もちろん性急な革命も、最初の第一歩を踏み出すには有効だ。けれど問題はその後である。体制変革が著しいほど、副作用は大きい。敗戦国ドイツがそれに耐えられたとは思えない。
またドイツの共産主義革命には思想がなかった。私はあらゆるイデオロギーが嫌いだけれど、無知な民衆を扇動するのに、思想は大変役に立つ。「食わせろ」だけで庶民の協力は続かないのだ(混乱の中での富の再分配は不可能である)。またもし、より優れた指導者が革命を率いたとしても、ロシア革命に懲りた周辺国がそれを許さなかっただろう。
だからこれが、虐げられた労働者が蜂起した心正しき革命が悪しき既得権者の強大な力を前に儚くも潰えた、とする物語なら、読者をミスリードすることになる。
文章は読みやすいが翻訳に一部不満がある。「ベルリンの空気」(p.86)は多分Paul Lincke作「Berliner Luft」で、これは「ベルリンの風」と訳されることが多い。「慈愛病院」(p.335)は(意味は正しいが)シャリテ(Charité)病院だろう。また訳注*6を見る限り、訳者に社会主義と共産主義との区別ができているのか疑問である。これはとても大切なことなのに。