ベラスケスは、その年長のライバルであった(と彼が個人的に思っていたらしい)ルーベンスが自らの工房を率いて画業で生計を立てていたのに対して、スペイン宮廷お抱えの画家であった。宮廷画家という言葉のイメージを超え、王家の執事的役割を持つ官僚であり、往時の各国外交のお膳立てなどの仕事もこなしていた。その死もそのような長期にわたる出張による過労を遠因とする突然死だった。そのため彼の真筆はルーベンスと比べると非常に少なく生涯で百数十である。著者によれば、ベラスケスは安定した環境で仕事をこなしその生涯には劇的な要素は皆無であった。それなのになぜ本書タイトルには革命などという言葉が使われているのだろうか。それは彼の視線が王室の人間を描くときも、その宮廷で慰み者とされた障害者を描く際も等しくその人間性を示す肖像画として制作した点に求められる。その姿勢は初期から変わらず、庶民の登場する風俗画を描く際にも彼らを尊厳ある人物として表現する。一方、神話や古代の哲学者を題材としても、彼らは市井の一般人であるかのように描かれる。このような彼の姿勢はどこから来るのか。それは著者によれば、当時のスペインにおいては秘すべき彼の出自、ユダヤ教からの改宗者(コンベルソ)を先祖に持つ事にある。改宗ユダヤ人という出自については同時代のモンテーニュやスピノザもそうだった。ベラスケスはその出自を隠すため、宮廷での出世に執着し最終的には騎士の称号を得て貴族となる。彼が、完成後の”ラス・メニーナス(女官たち)”の中に描かれていた画家の衣装の胸あたりに騎士としてのアイコンを誇らしげに書き加えたエピソードは有名である。
ベラスケスの生涯とその時代を継時的に追い、著者の新解釈を画家の人間性に加えた本である。その逐次的な叙述に前半はやや晦渋さを感じたが、後半に至りその新解釈の根拠を支えるために必要なことだったと理解できた。
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